日坂、退場
目が覚めると――見知らぬ建物に居た!
いや、ここ何処だよ。
つうか滅茶苦茶頭痛いんだけど。なにこれっ!? はぁ!?
「氷君!?」
「お兄ちゃん!? 大丈夫!?」
「…………あぁ……大丈夫だ」
全然大丈夫じゃねぇよ……マジか……
「異界の勇者達よ、ようこそおいで下さいました」
高そうなドレス着た美人が俺たちにそう言って頭を下げた。
異界。そう、俺らはどうやら異世界に飛ばされたらしい。
頭に大量の情報が流れ込んできやがる。
魔族との戦争? 魔王復活? ステータスまであんのか? ゲームかよ!
つうか何? 俺にもステータスあるって事?
月島 氷河
Lv 1
HP 10/10
MP 20/20
STR 4
DEF 5
AGL 8
DEX 12
MIND 15
INT 18
LUK 10
固有スキル『鑑定(極)』
あったよ。
って紙装甲じゃねぇか! なんで攻撃も防御もねぇんだよ!
くそっ……文化部で体を鍛えなかった結果がこんな所に……
でもさっきから馬鹿みたいに情報が流れてくるのはコレか。
『鑑定(極)』
(笑)とかじゃなくて良かったけどよ、コレあれだな。
所謂チートだ。
この世界での鑑定スキルってのは、自身しか見る事のできないステータスを勝手に見る事が出来るって奴らしい。
何故俺がこの世界の常識を知ってるかって?
目の前にいる美人から情報を得たからだ。
「私はローズと申します。我が国『ブルーゼム』の王妃を務めております」
そうこの美人、王妃なのだ。
召喚主は王女では無く王妃、人妻である。
男子の一部が残念そうにしている。お前ら何気に余裕あるじゃないか。
じゃなくてだ。俺に見えているのは王妃のステータス――だけじゃない。
王妃の歩んできた過去、王妃の好きな物、王妃の今考えている事など丸分かりである。
俺の鑑定にっ! プライバシーなどと言う概念は無いっ!
という訳で現在、絶賛この世界の情報を受け取っている訳だ。
「突然の事で驚いていらっしゃると思います。きちんと説明を致しますので、皆さまこちらに来ていただけませんでしょうか?」
王妃の行く先、その先にはこの国の王がいる。
丁度良かった。どうやら王妃に与えられている情報は少ないみたいだからな。
王妃の記憶の中の王は、明らかに隠し事をしている。
だが王妃は教えられぬ事は知る必要の無い事と、完全に王を信じている。
考えても仕方ない、一度会ってみるか。
謁見の間に案内された俺たちは、立派な顎鬚を持った王らしき王の前に立たされていた。
おい、王、ふざけんなてめぇごら。
「良く参られた勇者諸君。儂はこの国の王グリオスだ。君たちを呼んだのは他でもない、世界を滅ぼさんとする魔王を倒してほしいのだ――」
それは王女の記憶で知ってんだよ!
くそっ……バレると厄介だから、知らないフリして聞いてなきゃいけない……
せめて……王が話してる間に情報の整理だけでも終わらせたいが……
「――ああ。魔王を倒せば君たちを、元の世界に帰すと約束しよう――」
ああ、約束されていた。王妃の記憶の中ではな!
帰すなんて嘘っぱちだ、こいつら召喚はできるが返還はできないんだ。
ふざけんじゃねぇ! 俺はな! 一日一個一プリンって決めてんだよ! プリン無き世界になど居てたまるか!
くっそ~プリンでなくてもいいから糖分が欲しい。じゃないと頭回らないんだよ。
え? プリンがあればいいのかって?
いいよ? 俺別に未練とかないし。
水奈がいる、穂乃香がいる、ついでに日坂までいやがる。
ほら十分じゃない?
「――勇者の諸君には魔王に対抗するための、固有スキルが発現しているはずだ。それを今から我が国の鑑定士に見て貰う」
情報を纏めるのに時間が掛かったせいで見れてなかったが、他の奴はどんなスキルなんだ?
頭痛を訴えたのは俺だけだから鑑定(極)は俺だけだと思うが……
おいおいおいおい……日坂……お前運悪すぎだろ。
日坂 統也
固有スキル『奴隷強化』
『奴隷強化』、従者のステータスを一.五倍にし、その一割分のステータスが主のステータスに上乗せされる。
つまり受ける側も施す側も強くなれてwin-winなスキルだ。
だが従者は主に対して逆らえず、攻撃も出来なくなるため、まさに奴隷となる。
そう、それが問題だ。
この国では奴隷は禁止されていて、奴隷に纏わるスキルの持ち主は牢に入れられる。
つまり日坂は、あっちの都合で呼ばれた上に、あっちの都合で牢に入れられるわけだ。
理不尽極まりねぇな。
「グリオス様……」
「…………なに!? ……そこの君ちょっといいかね」
不味い、日坂が鑑定士に気付かれた。
日坂はそのまま別室へと案内されていった。
まあ、つまりは牢行きだな。
薄情? 無茶言うな。事情を知らないはずの俺が騒いだら俺まで牢行きだ。
日坂……お前が居なくなったら……
年上が俺だけになって浮くじゃん。
結果日坂以外はスキルに問題が無かったため、俺と水奈のクラス一同は城内を案内される事になった。