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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
メインストーリー
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 一時間の休憩……とはいかない。

 休みたいけど、やる事がたくさんある。しんどい……

 とりあえずやれる事をして行くか。

 屋敷へと戻って紙とペンを用意する。

 リビングのソファーに座ってすらすらと書いていると、リノから奇襲を受けた。

 空間魔法での奇襲とは……お前も俺に似てきたじゃないか。

 まあ、内容は平和そのものだけどな。背中に抱き着き、俺の右肩から顔を出している。

 これで背もたれに寄り掛かる事が出来なくなってしまった……やってくれるじゃないか。

 まあ、書き物してる間は背もたれ使わないから良いけどね。

 

「リノ、書きにくいからペシペシするんじゃない。書き終わったら相手してあげるから」


 リノは暇だったのか、俺にペンを求めるので渡してやると、隣に座ってお絵かきを始めてしまった。

 大概自由だね君も。

 

 

 

 書き終わった用紙を纏めて森へと向かう。

 話し合いと言う名の言い合いをしている生徒達を横目に、目的の人物へと近づいて行く。

 

「「「「「キャー!」」」」」


 突如黄色い歓声が沸く。原因は明確、俺に肩車をされているコイツ。

 ただでさえ白髪の赤目、110㎝の身長で人形みたいなのに、フィサリスの作ったフリフリの服を来てるから余計にそう見えてしまう。

 自分に手が振られていると気付いたリノは、手を上げる事でそれに答えた。

 なんで指先伸ばして手を上げるだけなんだよ、大統領かお前は。

 ……そして、リノに邪な感情を向けた一部のロリコンは――ここで斬っておくか。

 

「氷河! 落ち着け! なんで殺気立ってんだ!」

「放せ日坂! ロリコン野郎はここで撲滅しておく!」


 剣を抜こうとしたら日坂に止められた。

 チッ……まあリノの前で流血沙汰にする訳にもいかないか。

 今回は見逃してやる……今回はな。

 結界術の障壁を張って台とし、用紙に書いていた一部に修正を加える。

 

「日坂、神奈を借りていくぞ」

「なんだ? 別に問題ないと思うが」


 言い合いの中には入りたくないので、日坂に神奈を召喚して貰う。


「『サモン』」 

「わっ!」

「話し合い中悪いな神奈、氷河がお前に用があるそうだ」

「何ですかお兄さん、親バカも大概にした方が良いですよ?」


 呼ばれて一言目がこれである。余計なお世話だ。

 

「あー! と言うか私、魔王倒しても帰れないって知らなかったんですけど! どうして教えてくれなかったんですか!?」

「……まあ単純に話すタイミングが無かったってだけだな。後はラミウムと親しくなる前に悪印象を与えたくなかったのもあるな」


 召喚に関して言えば誰が悪いと言うのは難しい。呼び出す決断をしたのはグリオスだが、その原因は復活を果たし、戦争を起こそうとする魔王にあり、片道切符の召喚というシステムの存在するこの世界自体が悪いとも言える。

 人間は責任を追及したがる生物だ。それも直接原因にできないと知ると、別の者に当たりたがる。

 ラミウムは召喚決断時、他国に派遣されていたため召喚に関しては事後報告を受けている。

 つまり関与できていなかった訳だが、勇者に「お前の親のせいで」と言われるとラミウムは謝罪する事しか出来ない。

 進路の話を屋敷で行わず、外で行った理由の一つでもある。

 姿を見せてしまうと、ヘイトがラミウムに集まってしまうため。

 奴隷化が決定した後なら黙らせる事が出来るし、出て行く奴らは会わせず済むので気にしなくて良い。文句言いそうな奴は大体出て行きそうな奴なんだよな。

 

「『帰れなくなった原因の娘』って最初に説明を受けてたら、今ほど隔たり無く一緒に料理を作ったりなんかは難しかったかも知れないだろ?」

「あー……うーん……確かに」

「人間ていうのは先入観で割と生きてる生き物なんだよ」


 更に面倒なのが『同調性』だ。

 元の世界に帰りたい奴が怒るのは当然だが、どっちでも良い奴や、帰りたくない奴、こういう奴らが一緒になって文句言うからまた面倒なんだ。

 どっちでも良い奴は選択肢が消された事、勝手に選ばれた事に文句を言い、帰りたくない奴は帰りたい奴が可哀想と文句を言ってくる。

 一緒に責め立て同意する事で仲間意識を生み、『団結』などと呼んで供用したがるのが人間だ。

 今はただでさえ、生徒間での意見が合わず言い争いをしている真っ最中だ。

 そんな所に共通の八つ当たり先を与えてしまえば、『団結』とやらをするための格好の餌食になってしまう。

 

「まあ、今回はその先入観を植え付けに来たんだけどな」

「植え付けに来た?」

「ちょっと来い」


 日坂にリノを預け、神奈を連れて少し離れる。

 生徒達からも離れている……この辺で良いだろう。

 

「お前にこれを渡して置く」

「何ですかコレ?」

「勇者共の――ブラックリストだ」


 紙に書いていたのは生徒たちの深層心理に潜む闇、起こしかねない行動で危ない物。

 

「鑑定で見て明らかに危ない奴からピックアップしてる。その内何人が此処に残るかは知らないが、お前に知っておいて貰おうと思ってな」

「うわぁ……知りたくなかったかも……さっき何か書いてたのはロリコンの欄だったんですね…………なんで私だけに教えるんですか? 日坂先輩には?」

「日坂や水奈はこういう情報を知ると、顔や態度にぎこちなさが出るからな、それに水奈にはこういう人間の汚い部分を知らずに、純粋に過ごして欲しいからな」

「……私はその汚い部分を教えられたんですけど……穂乃香には?」

「一部水奈を対象に考えてる奴がいるだろ? 穂乃香がそれを知ったら、今、この場でそいつ燃やされるぞ?」

「確かに……お兄さんは怒らないんですか?」


 いや、ぶっちゃけムカついたりはするんだけどな……

 

「……人間誰しも闇はある。深層心理なんてどうしようもないからな。目の前に札束の山があって、誰も見てないなら一枚ぐらい盗んでもバレ無いだろう、と考える人間がどれだけいるかって話だ。特定の状況、条件が揃った場合にのみ行動しかねないって事だから、行っても無い事を全て弾圧する訳にもいかないだろう。あくまで警戒対象だ」


 逆に言うと条件さえ整えばやらかしかねない連中って事でもある。

 ただ、人間の善と悪は表裏一体だ。どちらも共に存在する。

 一枚ぐらい盗んでも……って考えをした事があってもそれを行わず、善に生きてる奴がほとんどだ。

 それを考えただけで悪と断じてしまう、危険性があるから処す、では魔女狩りになってしまう。

 

「条件さえ整わなければ起きる事は無い、神奈に頼みたいのは事前の回避だ」

「……どうして私なんですか?」

「お前、表情偽って話すの得意だろ? それにリストに名前が挙がってる奴……ほとんどお前の嫌いな奴じゃん」

「……確かに」


 本当はこういうのラミウムの十八番なんだが、あいつの心眼で見れるのは表層心理だけだ。深層心理を伝えた上で神奈にも警戒をして貰う事で、俺が居ない間に問題が起きるのを防いで貰おうと思う。こういう立ち回りが得意なの神奈ぐらいなんだよ。

 

「ハーレム作りたいとか、穢したいとか生々しい上に、幾つか私も対象に選ばれてて吐き気するんですけど……それに有り金持って逃げるとか碌な奴居ないじゃないですか、全員追い出しましょう?」

「だから深層心理だ。起きてもない事を裁く事は出来ない。リストの上の方の奴は要注意だが、下の方にある有り金の奴は火事場泥棒だ。ここの拠点が外部によって潰されそうになったら自分だけ逃げようって考えてるだけで、常日頃から金を狙ってる訳じゃ無い。だが碌でも無い事には変わりないから警戒はしておくって事だ。この程度の奴なんか世界に万と居るぞ? 珍しくもない」

「……お兄さんのスキルが心から欲しくないと思いました……」

「それが良い。俺やラミウムみたいに、18にして悟りを開くなんて碌な事無いぞ」


 人間なんてそんなものだと言う諦めの境地だからな。

 その上で人間の可能性を信じたいと言うラミウムは、純粋に凄いと思う。

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