説得方法
作戦会議終了後、夕食準備及び休養に入る。
明日拠点で留守番をする事になるリノの相手をしようと思っていた所に、穂乃香がやって来た。
「氷君、なんで私はクラスメイトの鎮圧担当なの?」
(氷君と同じ場所の担当が良い!)
なんでって、俺以外のメンバーの中でクラスメイト達に、一番躊躇わず攻撃出来るのがお前だからだよ。
同郷ではないロータスやラミウム、あのフィサリスさえ差し置いてお前が一番だからだよ。
穂乃香にとってのクラスメイト達が『クラスメイトと言う名のカテゴリーに含まれる他人』過ぎてヤバい。興味なさ過ぎでしょ。
「向こうが従属化をすんなり受けてくれれば話は早いんだが、そうでない場合従属させるにあたって、一度屈服させる必要がある。知り合いや後輩相手に日坂が攻撃を躊躇う可能性を考えると、攻撃を躊躇わない穂乃香に任せた方が良いと思ったんだ」
「うーん……そもそもどうして奴隷にするの?」
どうしてって……いや、ぶっちゃけると俺も奴らに関してはどうでもいいんだが……
「クラスメイト達の中に国や王族に対し不信感を持ってる奴が何人かいる。そいつらが仮に国から出て行くとして、その先盗賊やらモンスターに殺されたり、野垂れ死にでもしたら水奈が悲しむ。勝手に死なれるのは困るから先に保護して置こうって事だな」
「確かに水奈を悲しませる訳にはいかないね」
クラスメイト全滅しましたとか報告が来たら壊れかねないからな。
天使水奈の精神安定の為だ。
「そういう訳だから、抵抗を示すものは構わず殴り倒してよし。但し絶対に殺さない事」
「殺したら水奈が悲しむもんね。怪我はさせても大丈夫?」
「屈服させる必要があるからその辺は仕方ないな。水奈の治癒回復で治る範囲であれば大丈夫だ」
抵抗する人数は日坂の交渉が上手く行くかどうかだな。
日坂にも伝えておくか。
「――という訳で、穂乃香には抵抗する者は殴り倒せって言ってあるから、どれだけの人数が殴り倒されるかはお前の説得次第だ。嘘でも本当でも脅しでも色仕掛けでもいいから、賛同者を増やさないと被害者が増えるぞ。頑張れよ」
「……お前なんて指示出してんだよ……」
拠点の洞窟を入った一番奥、広く作った大浴場。
先に女性陣が入り、今は男性陣……俺、日坂、ロータスの3人が入っている。
普通こういう別け方だよね。前回がおかしかったんだよ。うん。
「交渉をするって言うなら向こうにもメリットが必要だろ? 今みんなが置かれてる状況ってどんな感じなんだ? 俺たちにつくメリットはあるのか?」
メリットがあるかと聞かれると微妙だが……まあそこは日坂の手際次第か。
説明だけして後は任せよう。
「王族派は勇者に対し可能な限り減らしたくないが犠牲が出てしまうのは仕方ないと思っている。リコリス派はどうせ犠牲は出るのだから多少使い潰してしまっても良いと思っている。王族派は勇者を対魔族兵器と考えてるのに対し、リコリス派は近隣諸国との戦争に使おうとしてる。まあ、どちらにしろ兵器として扱われるのが今の勇者の状況だ」
「……! マジかよ」
「…………」
ロータスが難しい顔をしている。元王族派だった人間としては耳が痛いか。
だが勇者を呼び出す以外に手が無いほど人間族が不利なのも事実なので、悪いとは言わない。
勝手に呼び出されて帰れない上、兵器として扱われるこっちとしては、溜まったもんじゃないけどな。
「クーデターが成功した先に良い未来は無いが、失敗したとしてその先が良いかと言われると微妙な所だ。既にロータスとフィサリスが抜けた上で、反逆したリコリス、ダリア、サーシスなんかの重鎮とその部下が捕まるんだ。いくらマグオートが要るとはいえ国力の低下は避けられない。クーデター終結後はブルーゼム内が慌ただしくなって勇者教育に注ぐ時間は取れなくなるだろう。だが、魔族との戦争が始まるまでの時間と勇者が矢面に立たされるのは変わりない、それなら俺らの所に来て冒険者としてレベリングを行う方がまだ良いかもしれないな」
まあ、その戦争は起きる前にどうにかしようとは思うんだけどな。
「具体的なメリットは同意すればステータスが1.5倍って事ぐらいだろ。穂乃香に倒されて屈服の場合はステータス半減のデメリットだ。ぶっちゃけこれで脅せば同意するだろ」
「……脅しは最終手段だろ」
甘ちゃんめ。
「まあ、大体の状況は分かった。後は情報を整理してどうにか交渉してみるよ」
おう、頑張れ。穂乃香による被害者が少ない事を願う。




