壁
「――、―――」
……ゴスロリだけは勘弁……
「――、朝―――ば」
あぁ……夢か、夢で良かった……
「氷君、おはよう」
朝一の良い笑顔。でも夢のせいで素直に喜べない。
こいつが俺にいつかスカート履かせたいと思っているのは、揺るがぬ事実だ。
油断はならない。
減るもんじゃない? 削れていくんだよ、俺の大切な何かが。
水奈はまだ眠っている。リノは起きていてベットの広いスペースでゴロゴロして遊んでいる。キングベットの使い方……
リノならゴスロリ似合いそうだよな、髪白いし。フィサリスに提案しておくか。
俺が寝てる間にリノがまたキスしようとしたが穂乃香が防いだようだ。
穂乃香よくやった。リノの初めては将来の為に大事にしておかなければならない。
で、防いだ上でお前が俺にしたのか。まあ、今更だから良いけど。
水奈が起きる前にベットや近くにあった家具を元に戻しておきたい。
部屋に勝手に入って良いとは言われたけれど、家具を勝手に動かされたとなると良い気はしないだろう。
「『グラビティ』」
ゴロゴロしているリノ、膝枕している穂乃香、俺を抱き枕にしている水奈ごと宙へと浮かび上がらせ、キングベットを水奈のベットに交換する。同時に近くのに置いてあった椅子などの家具を元に戻して行く。
うん。証拠隠滅完了。
俺と穂乃香、水奈はゆっくりとベットに着地する。
下にベットが無くなったリノは横になった状態で宙にプカプカ浮いている。
宙に浮くのは重力魔法の使えないリノにとって新鮮な様で、楽しんでいらっしゃる。
「ん……おはよう~……」
水奈が起きた様だ。眠たい目を擦って開いた先でリノと目が合う。
「リノちゃんが浮いてる!?」
あ、うん、朝一でそれだけ見たらちょっとした事件だよね。
今回のレベリングの組み合わせは前回と一緒。日坂、水奈、ラミウムとロータス。
スキルアップ組が俺、穂乃香、神奈とフィサリスである。
今日と明日がクーデター前最後だから気合を入れて頑張るように。
日坂たちを草原へと連れて行く。最後に草原っていうのもどうなんだろう……まあ普通なラインナップ。
穂乃香達と森へと向かう。前回は神奈に大差付けて穂乃香が勝ってたんだよな。
今回の条件は――
「――神奈、今日の穂乃香との勝負で、一本でも取れたらシュークリームを作ってやる」
「え」
「本当ですか!? 言質取りますよ!?」
かなり神奈に甘い条件だ。前回4回に1回ではあるが神奈も勝っている。
条件は甘い……だが、今回どうなるかは俺にも分からない。
「穂乃香、神奈に一本も取らせずに全勝したら、今度の休みの日……俺の丸1日分をお前にくれてやる」
「……丸1日……?」
穂乃香の顔付が変わった。気のせいでは無く冷や汗が出たのを感じる。
得物を狩るような目が俺と神奈に向けられた。これから戦う神奈に向けるのはまだ分かるが、何故俺にも向いている。
(ちょっとお兄さん! なんて条件を与えるんですか!? まったく勝てる気配がしないじゃないですか!?)
神奈の悲痛な叫びが聞こえるが俺に言うんじゃない。
いや、俺のせいではあるけれど。ここまで効果あるとは思わないじゃない。
1勝、1回勝てば良いんだよ神奈。
「…………頑張れよ」
「ちょっと!」
頑張れ神奈負けるな神奈、シュークリームは穂乃香と言う壁を超えた先にある。




