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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
メインストーリー
166/346

答え

 掃除は思った以上に早く終わりそうだ。

 元々洞窟内のスペースが小部屋4つに食事用の広間しか無く、置いてる家具もベット、机、イスだけの為、少し積もった埃を取るぐらいだ。

 ……増築するか。

 前回はベットを買いに行く時間が無く、滞在も1日予定だったから4部屋で我慢したが、今回は9人に増えているし、まだ時間もある。

 指名手配犯にされたせいでブルーゼムでの買い物が出来ないから、家具はイエンロードに戻ってから買う事にはなるが、先に5部屋分の増築だけ行ってしまうか。

 家具は次来た時に置くだけの形にしておこう。

 錬金術を使って空間を増やして行く。邪魔な礫や土は空間魔法でポイポイしても良いのだが、錬金術で押し広げると密度が増して頑丈な床と壁になる。

 いや、拠点の強度を上げても特に意味は無いんだけどね? 仮に攻め込まれるなら破棄するし。

 流石に押し広げるのは無理そうだなと思ったら、近くの川の底に転移させる。証拠の隠滅は完璧。

 ん? あれ? でもちょっと待て。本当に5部屋も必要か?

 俺は基本水奈と一緒に寝てるし、リノは俺かフィサリスと一緒に寝ている。

 リノはまだコレクション物置として部屋を使ってるが、俺に至ってはもはや部屋に入ってすらいない。

 ともなれば……3部屋でも問題ないのでは? いや一応リノの部屋は作ってやるか、4部屋にしよう。

 そして水奈の部屋は大き目のベットにしよう。屋敷のベットはダブルベットだが、3人で寝るには狭い。リノとの3人ならまだしも穂乃香との3人だと、真ん中の穂乃香に抱き着くように寝たり、水奈が俺の上で寝たりしていた。

 この際水奈のベットはキングサイズにしてしまおう。洞窟内にある4つのベットはセミダブルだが、フィサリスはリノと寝る事も考えてダブルにしよう。後は……一応セミダブルでいいか。

 となると水奈の部屋だけ大きくなるな。まあ俺との2人部屋みたいな物だから問題は無いだろう。

 部屋数は減ったけど空けるスペース的には変わらなくなったな。

 4部屋分のスペースを確保し終えた。水奈の部屋だけ他の倍。妹贔屓では無い。

 よし、ちょっと休憩。掃除し終わった部屋のふかふかベットへと向かう。

 材質にこだわった為、屋敷のベットよりふかふかである。ふかふか。

 

「氷河様、こちらも清掃が終わりました」


 ベットに横になっていたら広間の掃除を終えたラミウムから声が掛かった。

 お疲れー。果実水飲む?

 

「頂きます」


 体勢を起こしてベットに腰を掛ける。空間収納から果実水を2つ取り出して片方をラミウムに手渡す。

 果実水を受け取ったラミウムは俺の隣に座った。

 

「……氷河様が、疲れた私を休ませに連れてきて下さったのがこの部屋でしたね」

「……そうだったな」


 入口から広間に入ってすぐ左。俺がラミウムを休ませに連れてきた部屋で、フィサリスが寝た部屋だ。現状水奈以外誰がどの部屋というのは決まってない。

 次来た時にそれぞれの何となくな希望を聞いて決まるだろう。

 

「では、この部屋は私が貰ってもよろしいでしょうか?」


 うん。それは構わないけど。

 

「…………」

「…………」


 ……洞窟内は静かだ。時折俺とラミウムが果実水を飲む音だけが聞こえる。

 

「……あの時から随分と変わりましたね」

「……そうだな」


 当初予定では部屋数通り、俺、日坂、フィサリス、ロータスの4人予定だった。

 昼と夜に洞窟から連れ出してレベリングを行い、クーデターに備えるつもりだった。

 その間神奈やラミウムを時折此処に連れて来る話だったのだが、思わぬアクシデントによりイエンロードへと向かう事にした。結果としてはこっちの方が良かったみたいだけどな。

 少なくてもあのアクシデントが無かったら、リノと出会う事は無かっただろう。

 キタコレ野郎に感謝するなんて癪だが、リノに会うきっかけになった事だけは感謝してやる。

 

「…………でも私はあの頃のままの様です……」

「…………そうか」


 何が、とは言わない。互いに分かっているから。

 でも……そろそろ答えは出さないとな。

 俺は隣に座るラミウムの方を向き、自身の唇をラミウムの唇に近づけていく。

 

「――! だ、駄目です!」


 だがそれはラミウムの手によって防がれた。

 

「……それが《・・・》答えだよ。ラミウム」

「――! …………」

「お前の脳裏に浮かんだのはロータスだろ? 俺はお前が好きかもしれない、お前は俺が好きかもしれない。……でもお前の一番はロータスで、俺の一番は穂乃香だ。だから駄目なんだよ」


 出会いが違えばそんな未来もあったかもしれない。

 人の心が分かってしまう少女と人の全てが見えてしまう少年は、似た悩みを持つが故にまた惹かれ合うのかもしれない。

 でもラミウムは俺では無くロータスに出会い、俺はラミウムでは無く穂乃香に出会った。だからもう、そんな未来には成り得ない。

 

「……結ばれないのですね」

「ああ……諦めが付かずとも、思いは消えずとも、叶えてはいけない。俺とお前の関係は仲間、理解者。その先を踏み越えてはいけないんだ」


 だから――終わりにしよう。

 

「…………氷河様……お願いがあります…………頭を、撫でて貰えませんか……?」

『お兄ちゃんお願い……偽物でいいからさ……私にキスしてくれないかな……?』


 今のラミウムと喪失感に包まれた時の水奈が重なって見えた。

 でも今回は、諦めが付かずとも諦めねばならない。

 ラミウムの頭にそっと手を置く。そして優しく、優しく撫でて行く。

 目を瞑るラミウムの頬には雫が一筋の軌跡を描いていた。

 俺はその雫を掬う事は無い。掬ってはならない。

 俺はラミウムの頭をただ、撫で続けた。

 

 

 

(失恋ですね……)


 いや、扱いとしてどうなんだろう。

 

(諦めるとしましょう。現実では)


 現実では?

 

(夢の中でどうあろうと私の自由ではありせんか)


 え、いや、それはどうなんだろう。

 

(追体験から私を味わった事、忘れたわけでは無いのですよ?)


 いや、それは本当に事故だったんです。許して下さい。

 

(ふふふ……夢の中で、お待ちしてますね)


 満面の笑みでそんな事いわれてもねぇ……

 変な開き直りの仕方をしたラミウムは、前より遠慮が無く、前より砕けて楽しげに俺との会話を続けた。

 最近なりを潜めていたが、こいつは元々こういう奴だったな。

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