家出
王室へとラミウムと一緒に入る。
王室には現在、国王グリオスしかいない事は確認済み。
国王は俺を見るなり目を見開くと、親の敵と言わんばかりに睨み付けてきた。
止めろよ、そんなに敵意を向けられると前回みたいに煽りたくなるだろ。
「よう、捕縛の罠が仕掛けられて無かったから、約束通りまた来たぜ」
「貴様……よくもずけずけと城に足を踏み入れたな……!」
「指名手配されてる事について文句を言いたい所ではあるが……それよりも話す事があってな」
「国中に捜索を掛けているというのに……貴様今までどこに居た!」
他国です。
それより会話しようぜ。ドッチボールし過ぎだって。
「……ちょっとした山奥だよ。それより5日後に迫ったクーデターについての話をしようぜ?」
「……!」
「あんたも気付いてんだろ。リコリスに不審な行動が見られる事」
俺に言われてから半信半疑だったようだが、国王自身リコリスの動きを見て不審な点があった事に気付いたようだ。部下に裏切りの可能性ありとは気苦労絶えないだろうな。俺とは違って誰がリコリス派で誰が自分の味方か分からないもんな。疑心暗鬼にもなる。
「……確かに報告に無い武器の発注や、兵士の増員が見られた。問うと今後の魔族との戦争に向けてとの事だと答えたが、それ以外にも奴が勝手な行動をしてる点は見られる……貴様の鑑定には色んな物が見えるのだったな。奴の目的はなんだ、なぜクーデターなど企む」
「クーデターの理由はあんたの目的と相いれないからだ。リコリスの目的は勇者を戦力とし国力を増加させ国土を広げる事、つまり――近隣諸国との戦争だよ」
「「――!?」」
国王だけでは無くラミウムも驚いている。
うん、言ってなかったね。まあ、聞かれなかったしね。
「馬鹿な! 勇者は魔王を倒し、人間領の平穏を守る為に召喚するのだ! 今は魔族に備え各国で協定を結ぶ時だと言うのに、人間領内で争いなどしてられん!」
こういう辺りはちゃんと王なんだよね。親バカ拗らせて指名手配にしやがったけど。
国王にしろリコリスにしろ勇者を戦争兵器としている事に変わりない。
というかこの世界にとって勇者とは戦争兵器であり、そのために俺らは呼ばれた訳だからまあ、どうしようもないよね。前提が糞だもの。
でも使い方が違ってくる。
国王は魔族との戦争に勇者を使うつもりだ。これが本来の勇者の意義であり、大義名分もある。勇者育成にはもう少し時間が掛かる上、魔族との本格的戦争までもう少し猶予がある。魔族側にも準備はあるだろうからね。
一方リコリスは人間同士の戦争に勇者を使うつもりだ。これに関しては大義名分など無い。魔族に比べて人間は強くないため育成時間は短く、戦争までの猶予が少ない。クーデター成功後は戦力が整い次第、近隣諸国に奇襲を仕掛けて行くつもりの様だ。
どちらがマシかと言われれば前者だろう。あくまでマシなだけだが。
「だから俺としてもあんたに死なれるのは困るんだ。魔族との戦争は元の世界に戻る手段が無い以上、俺らも人間領で暮らす事になるから仕方ないにしても、人間領内での争いなんて御免被る。勝手にやっててくれ」
祖国をこの世界に持たない俺ら勇者には愛国心は無いに等しい。住めるのならば人間領であれば問題ない。
グリオスが国王である間はラミウムの為にブルーゼムという国に協力してやらん事も無いが、国王がリコリスに変わり他国に戦争を仕掛けると言うのであれば関与しない。
「クーデターは5日後、マグオートを手元に置いておけ。今すぐ処刑しようにも尻尾を出さないだろうから当日、リコリス、ダリア、サーシスを現行犯で抑える」
今から証拠をでっちあげて処刑する事も出来るだろうが、『クーデターを起こし敗北』
の形にしなければ『王族の黒い噂』に尾ひれがついてしまう。
それではラミウムの為にならない。
「……貴様は敵か? 味方か?」
「どちらでも無い。が、今回に限り協力はしてやる。俺の話を信じるか信じないかは好きにしてくれて構わないが、くれぐれも死んでくれるな。どっちであっても問題ないようにしておけ」
俺からはこんなもんかな。
ラミウムは何か伝えておきたい事とかある?
「お父様、氷河様達の指名手配を解く気はありませんか?」
「ない!」
わぁお。即答だよ。
ラミウムは溜め息を吐いた。
「……そうですか。ではやはり私はしばらく戻りませんので」
世間体では俺らが誘拐した事になってるけど、ぶっちゃけ家出だよね。