シスコン(極)
水奈は元々後衛。接近戦における自衛方法を教えてはいるが、接近戦を行う事はほとんどないだろう。
接近戦になる可能性が一番高いのは不意を突かれた場合だ。水奈が長時間接近戦を行わなければならない状態は、恐らくパーティー壊滅時くらいだろう。そんな想定はしたくないが、もしそうなった場合は迷わず逃げるべきだ。接近戦で水奈に勝ち目は無い。
後衛に攻撃が向く場合、前衛のフォローが入る。神奈や穂乃香が入るだろう。
つまりフォローに入れなかった、間に合わなかった場合にのみ水奈は接近戦を余儀なくされる。
そして援護が来ると同時に水奈の接近戦は終わる。耐え抜くのは前衛が来るまでの時間だ。
敵からすれば前衛を振り切り、短い間で水奈を倒さねばならない。となれば攻撃は手数より威力重視の一撃で仕留める方が良いだろう。
とすればその一撃を防げればいい。だから水奈には手数では無く、威力重視の鋭い一撃に対する防御を覚えて貰う。
後衛からの援護があると前衛は戦いやすい、それは逆を返すと敵からすれば後衛は邪魔な訳だ。
だから後衛は真っ先に狙われやすい。であるからこそ不意を突かれた一撃を水奈が防げるか防げないかで戦況が変わって来る。
ていうか水奈に攻撃しようなんてやからは何人たりとも許さん。俺が相手だ、掛かって来い!
まあ、俺がずっと見守る事が出来ないからこうして教えてる訳だよね。可能な限りガーディアンな訳だけど。
「――ハァ!」
「わぁっ!」
俺の右ストレートを水奈が盾で何とか受け流す。
慣れて来たため現在は空間転移からの攻撃の対処をさせている。
威力と速度を上げてはいるが、今までには無いほどに俺は集中状態にある。
この短時間で寸止めの技術が相当上がったと思う。水奈に攻撃を当てない様に細心の注意を払っている。いやマジで、いやマジで。
これで水奈に攻撃を与えようものなら水奈教信者として切腹物である。介錯は神奈に頼む。
今は拳術と蹴技の対応だが、この後は剣術も行うんだよなぁ……保て俺の集中力!
「それじゃあ次は、いよいよ剣に対して防いでもらう」
「……はい!」
いい返事。でもやっぱり攻撃が刃物って事もあって緊張してる様子。
俺も同じぐらい緊張してる。水奈に刃物を向ける日が来るなんて……
神奈には当然の様に向けてたのに水奈には向けれない……
これは水奈には失礼かもしれないけど、やっぱり俺の中で水奈は戦士では無く、保護対象として見てるからなのだろう。
穂乃香も神奈も俺は殺人こそさせるつもりは無いが、戦士として認めてるからこそ訓練時に俺は躊躇いなく攻撃をしている。
だが水奈は元々ヒーラーで戦闘も精霊魔法のみの後衛。それに水奈の性格もあって…………
……そうか、俺は未だに戦闘に参加して欲しくないと思っているのか……この世界に戦闘兵器として召喚されたにも拘らず。
……戦わずに済むために全てを終わらせに行くんだ。それまでの間……生き延びる最低限の戦闘力は持っていてもらわないといけない。
覚悟を決めろ月島氷河、全ては未来の為に。
「最初はゆっくりと振るって徐々にスピードを上げていく、まずは剣に対する慣れからだ」
「はい!」
水奈の目が変わった。お前はちゃんと戦士なんだな……
なら俺も、きちんと向き合おう。
「………………」
「ん? どうしたのリノ?」
「パパ、ゆっくり」
「あー……確かに、穂乃香や美鈴と相手してる時に比べたらゆっくりだね」
「でも……つかれてる?」
「……うん。あれは氷河のシスコンが極まってる感じだね。氷河は水奈に甘いからなぁ」
「しすこん?」
「水奈大好き―って事だよ」
俺が剣を振る、水奈が盾で防ぐ。まだ刃物に対し恐怖はあるようだが、動きは様になって来ている。
だが恐怖状態での訓練は精神的消耗が激しい。休憩は多めに挟むべきだろう。
空間転移からの攻撃に移る前に休憩に入る。良かった点を褒めて頭を撫でてやる。
それだけで水奈の恐怖は晴れてやる気に満ちて行く。水奈は良い子だなぁ。




