訓練
「――、―――」
あと…………
「――、――て―てば」
あぁ、朝か……
「氷君、おはよう」
朝一の素晴らしき笑顔。
今日はちゃんと服着てる。いや、毎回着ててよ。
リノがいる事もあって今回はちゃんと自重したか。偉いぞ穂乃香。
腕を伸ばして穂乃香の頭を撫でる。目を細めて気持ちよさそうにしている。
「お手」
「わん」
うん。ノリが良い。顎下も撫でてやろう。
穂乃香と戯れていたら視線を感じた。リノが起きたらしい。
リノにジッと見つめられる。俺は変わらず膝枕を受けながら顎下を撫で続けている。
撫でている手を外してリノへと伸ばしてみる。お手とか分かるのだろうか。
あ、やっぱり分からなかったらしい。手の上に顎を置かれてしまった。
これはこれで新しい。撫でてやろう。
リノはくすぐったそうに身をひねり、逃げて行ってしまった。
慣れないとただくすぐったいだけか。
上体を起こそうとして穂乃香の下乳にぶつかり跳ね返される。仕方なく転がって起き上がる。
互いにリノの行った方向見てたからな、完全に不注意だ。働け並列思考。
穂乃香と一緒にリビングに向かう。とりあえずは、リノのくっつき虫状態は終わった様だ。
神奈と一緒に作った朝食後。レベリング組とスキルアップ組に別れる。
レベリング組は穂乃香、神奈、ラミウム、フィサリスの4人。
そしてスキルアップ組が俺、水奈、日坂、ロータスの4人。
水奈と初のマンツーマン指導である。まあ教えるって言っても盾術をちょろっと教えるだけだけどね。
フィサリスが割と水奈との師弟関係を気に入ってるから、弟子を奪ったりはしない。盾術を教えるのも今回と次回の2回だけ。
穂乃香たちを森へと連れて行く。何気にレベリングを森で行うのは初めてな気がする。
この森はいつも訓練してる森とはまた別だ。
訓練する森はモンスターの少ない森、レベリングを行うのはモンスターの多い森。
俺が千里眼で確認してモンスターの多い所を選び、ラミウムの運の高さで遭遇率が上がる。
レベリング組の討伐数の高さはそんな理由がある。
(………………)
役立ってる。幸運が役立ってるんだよ。悪い事じゃない。
(…………はい)
穂乃香たちと別れ、いつも訓練を行っている森へと向かう。
日坂たちと二手に別れ、俺は水奈と向き合う。
俺とのマンツーマンとあり、気合いが入っている。やる気があるのは良い事だ。
「昨日も言ったがこれから教えるのは盾術だ。戦闘術ではあるが攻撃要素はほぼ無いに等しい。接近された際の自衛手段と思っていてくれ」
「はい!」
うん。良い返事。
じゃあ実戦しながら教えていくか。
俺は剣を仕舞い拳を構える。まずは盾を使う感覚からだな。
「ゆっくり攻撃をするから対処してみろ」
「うん、わかった」
盾を構える水奈に軽いジャブを放つ。
水奈はそれを盾で受け止める。まあ、そうなるよね。
「水奈は攻撃力が高くないから、真正面からの受け止めは悪手だぞ」
「攻撃力? 防御力じゃなくて?」
うんうん。勘違いしやすいポイントだよね。しっかりと説明しましょう。
「いいか水奈。防御力っていうのは頑丈さ、つまりは怪我のしにくさだ。防御力の合計が俺より高い水奈は俺よりダメージを受けにくい」
レベルが半分程の妹より紙装甲。なんとも情けない話である。
「仮に俺が本気でパンチをしたとしても防御力の高い水奈にはダメージが入らない。ダメージは入らないが、俺より攻撃力の低い水奈が真正面から受け止めた場合ノックバック、つまり後ろに吹き飛ばされる事になる」
防御力はあくまで堅さだ。拳と盾の押し合いとなれば当然力の強い方が勝つ。
防御力は高いが攻撃力の低い水奈には、正面からの受け止めは向いてないのである。
「水奈にこれから覚えて貰うのは、攻撃の逸らしと弾き方だ。受け止めるのはその2つを行う余裕が無かった場合のみだ」
「逸らすっていうのは分かるけど、弾くってどうやるの?」
「パンチみたいな点の攻撃を弾くのは難しいからこの場合は逸らす方が良い。例えば手刀とかだな」
水奈に向けてゆっくりチョップをして見せる。
「逸らす場合なら側面に当てて力を加えれば軌道が逸れる。弾く場合は下から突き上げて跳ね返す、攻撃に対して攻撃をする感覚だな」
「攻撃に攻撃……?」
うーん、思った以上に説明が難しい。ぶっちゃけカウンターなんだけどね。
ガード、パリィ、カウンター。その内ガードは攻撃力がないとノックバックを受けてしまう。
それでも直接ダメージを負うよりマシだから可能な物が出来ると良い。
「重要なのは力の流れだ。相手の力に対しこちらからもぶつけるのと、完全受け身になるのでは全然違う。5で来るのに対して6で返せるならカウンターになるが、水奈の攻撃力だと難しいだろう。それでも5に対し3で打ち合えば盾で受けるのは残りの2だ。受け身になった時の0状態で5受けるよりは少なく済む」
って考えると水奈に一番良いのはパリィだな。
「攻撃の軌道事態を逸らせるのならダメージを受けずに済む。盾の使い方として基本はそれでやってみよう」
考えても仕方ない。とりあえずやって行けば分かるだろう。
最初に拳術、次に蹴技でゆっくり目にだが水奈に攻撃していく。
攻撃を逸らす感覚を覚えさせて徐々にスピードを上げていく。
……なんだろうな……心境的な問題だろうが水奈相手だと攻撃しにくいな……
これも訓練だ、そう訓練なのだ! 心を鬼にしろ月島氷河!
とりあえずもう少し慣れさせてから……剣を持とうかな。




