単身赴任
日坂たちを回収し屋敷へと戻る。
神奈と夕食を夕食を作る準備に取り掛かろうとしたのだが。
「………………」
「……リノ、掴まれたままだと料理できないから放して」
「……や」
リノが俺の服の裾をギュっと握り放さないのである。
甘えん坊さんめ。昼間たーっぷりと甘やかして上げたでしょ?
穂乃香と神奈の手合わせそっちのけで。
いや、千里眼と並列思考でずっと見てはいたけどね?
新固有スキル『並列思考』を持ってすれば、リノと遊びながら稽古指導など造作もないのである!
こういう使い方してばっかりだな俺。
「氷河様、料理は私が変わりましょうか?」
俺が作ったエプロンを持ったラミウムが、一向に離れようとしないリノを見てそう言った。
エプロン、気にって貰えてる様で何よりです。
特にどっちが作るというのを決めてる訳ではないのだが、昨日の朝食と夕食を両方任せてしまった手前、今日も任せてしまうのは忍びない。
(気になさらないで下さい。氷河様はリノ様のお相手をしてあげて下さい)
うーん……でもこのまま夕食が遅くなってしまうのも良くないな。
明日は可能な限り俺がするから。
「ラミウム、頼む」
「かしこまりました」
選手交代、俺はリノの相手をする事にした。
流石に夕食前には満足するかなと思っていたが、よみが甘かった。
俺の膝の上で夕食を食べ、俺の膝の上に座りながら湯船に浸かり、俺の腕を抱き締めてベットに横になっている。
まるで俺の半身とばかりにべったりである。
君も中々強情ね。
水奈は俺の隣で眠っているが、リノが一向に眠らない。腕は放してくれそうにない。
「という訳で今日はリノも付いて来た」
甘やかし3回分の1回目を行うため穂乃香の部屋へとやってきた。
「氷君まさか……親子丼!?」
「アホか、今日はそういうの無しだ」
「え~」
5才相手に何を言い出すかなこいつは。アホなのか、アホだったな。
「リノちゃんは今日ずっと氷君にべったりだったね~。いいなぁ、私もべったりしたい」
「リノだから許されるようなもんだろ。穂乃香がべったりしてたらただのバカップルだろ」
「私はそれが良いんだけど」
それでも、ではなく、それが、かよ。ブレねぇなホントに。
3人でベットに横になる。俺、リノを挟んで穂乃香。ちゃんとした川の字である。
穂乃香の手がリノ越しに伸びてきて、俺に抱き着く。
「こうして3人並ぶと親子みたい……えへへ……親子……夫婦……」
リノと穂乃香の年なら親子じゃなくて姉妹だろうに。
まあ、穂乃香が満足そうならいいか。
いつか穂乃香との間に子供が生まれて、実子と一緒にこうして眠る日が来るかもしれない。
そんな夢を思い描き、
「……ずっといっしょ」
リノの寝言によって現実に引き戻される。
リノは賢いが故に理解してしまった。俺が近々居なくなる事に。
俺も出来る限り早く終わらせて、帰って来た後はずっと一緒に居てやりたいと思う。
だが終わるのがいつかは分からない。数ヶ月かもしれないし、数年かもしれない。
寂しい思いをさせると思う……単身赴任をする父親ってこんな気分なんだろうか。
戻って来た時に、そういえば居たねこんな奴、みたいな顔されたらどうしようか。……旅にでも出ようか。
リノならそんな事ないと信じてる。パパ信じるからね。
リノを挟んで穂乃香ごと抱き締める。リノの呟いた願い事は叶えて上げられない。
だから今だけは傍に居て……甘えさせてやろうと思う。




