焦り
フィサリスと共にデスラインまで長距離テレポートを繰り返しやって来た。
これだけで割とMP使うんだよね。
千里眼で見てみるとそこら中にボス級や伝説級が居るのが分かる。
「グリフォン4体にミノタウロス6体、ケルベロス2体にお目当てのリバイアサンと大盤振る舞いだな」
「いや、割と洒落にならないよ? ご主人様」
ヘルハウンドやリザードマンが弱い方と言うのだから恐れ入る。
『氷河……前回のワイバーンはまだしも、今回は流石にどうかと思うよ?』
ポケットから出てきたフィアが頬を膨らませていた。
我がパートナー様は納得のいかないご様子。
でも私、月島氷河。無茶し過ぎと怒られて成長したと思うのです。
「ちゃんとフィサリスを連れてきたあたり成長したと思うんだけど、どう?」
『どうじゃない! 1人で来るつもりだったの!?』
いや、1人で来たら怒られるなぁと思ったから連れてきたんだよ。
あと流石にフィサリス無しだったらリバイアサンには挑まない。
その辺はちゃんと弁えてますって。
『氷河、レベル34でデスラインに来る時点で弁えてるなんて言わないからね?』
フィアにジト目で見られてしまった。
可愛いねそれ。
ところで気になったんだけど……
「雨降ってるけど、フィアは問題なく戦えるの?」
『……たぶんいつもより力が半分から3割ぐらい減ると思う……だからこそ心配なんだよ?』
「大丈夫だって。今回は別々じゃ無くて、連携して一体ずつ倒して行くからな」
「――! ご主人様とタッグ戦!?」
「俺が前衛で敵を引きつけて、お前が魔法で仕留める。後はアドリブで」
「雑だな~……ふふふ、了解!」
我がパートナー様はまだちょっと納得の行ってないご様子。
それに対しフィサリスは嬉しそうである。何故に。
ああ、二人で戦ったのって、ワイバーンを倒す前に襲って来た賊を倒した時だけか。
あれも連携と言うより、フィサリスの仕留めそこないを俺が処理しただけだしな。
今回が初めてといえば初めてか。……乙女か! 内容は物騒だけど。
さて……ミノタウロス、グリフォン、ケルベロスの順で行ってみようか。
月島 氷河
Lv 40
HP 205/205
MP 410/410
STR 43 (+29)(+50) 〔122〕
DEF 45 (+29)(+25) 〔99〕
AGL 89 (+54)(+20) 〔163〕
DEX 92 (+66)(+15) 〔173〕
MIND 136(+86)(+65) 〔287〕
INT 140 (+79)(+15) 〔234〕
LUK 30 (+22)(+5) 〔57〕
目標達成~。
え? 戦い?
圧勝だったよ。いや、フィサリス強すぎ。
なにMINDが546って。俺の倍近くじゃん。
あいつのサンダーボールが爆撃機にしか見えなかったもん。
怖かったのは敵では無く味方のフレンドリーファイヤーだった件。
いや、もちろんフィサリス先生の魔法は精密コントロールだから、当たる事は無かったけどさ。
あれに当たったらと考えるとヒヤヒヤするよね。
レベルが上がっても俺の紙耐久は未だ健在だから。
月島 氷河
固有スキル『鑑定(極)』『千里眼』『並列思考』
新たな固有スキル、並列思考。
人格が増えるのかと思いきやそういう訳では無いらしい。
鑑定の情報処理が早くなるとか、鑑定しながら戦闘に集中できるとか、剣を振りながら魔法を撃てるとかそんな感じ。
つまり超便利。いいね、こういうの待ってたんだよ。
ホントは無詠唱が欲しかったけどこれも悪くない。
「後は……リバイアサンか」
「ご主人様本気~? 目標レベルには達したんでしょ~?」
フィサリスが疲れたと言わんばかりに嫌そうな声を上げる。
まあ、既に連戦で12体倒してるからな。
リバイアサン
Lv 92
HP 1260/1260
MP 970/970
STR 425
DEF 322
AGL 283
DEX 267
MIND 387
INT 302
LUK 86
それに加えあのステータスの高さだ。
万全の状態ならまだしも、精神的に疲弊している今じゃ厳しいか?
騎士団長と戦う事を想定するなら戦っておきたい所ではあるが。
「氷河、ダメ!」
人間サイズ化したフィアに抱き止められた。
「氷河、目的を見失っちゃダメ。氷河の戦う理由は水奈や穂乃香を守る為でしょ? その為には確かに強くなる必要があるけど、そこで無謀な事して大怪我したり、命を落としたりしたら元も子もないでしょ? 焦る気持ちも分かるけど、一度冷静になってみて? 1日に格上相手に10回以上戦うなんて今日が初めてでしょ? 氷河が思ってるよりずーっと疲れてる筈なんだよ? そんな状態で今まで戦った事の無いほどの強敵相手に勝てると思う?」
……言われてみればまったくを持ってその通りだ。
自分では冷静でいたつもりだったが、焦っていたのか。
目標には届いた。分の悪い賭けを無理にする必要は無い。ここで引き上げるか。
「ありがとうフィア。フィアには気付かされてばっかりだ」
「まったく、氷河は仕方ないんだから」
リバイアサンは諦めて屋敷へ帰る事にした。
雨に打たれ続けて体も冷えた。帰ったらまず風呂だな。




