名づけ
『――、―――』
ん……
『氷―、起――と――香―――ない―』
うん……? フィアの声……?
「あ、氷君起きた?」
『氷河、氷河が起きないと穂乃香が起きれないでしょ』
あ、穂乃香を固定したままだった。
穂乃香は俺が起きるまで待っててくれたのか。申し訳ない。
「悪い穂乃香、重かっただろ?」
「ううん、大丈夫だよ」
(幸せな重みだった……)
圧迫感に幸せを感じていたようだ。
うん、まあ、お前が幸せならそれでいいよ。
穂乃香と一緒にベットから起き上がる。窓の外を見たら雨が降っていた。
「雨だ、久しぶりに見た気がする」
「……そうだな」
ブルーゼムで10日間、イエンロードで12日目。
曇りの日はあったが、雨が降るのは初めてだ。
本日は休み、朝食は神奈とラミウムが作っている。
俺はその間に木製の杖の加工作業を行っている。
木製の杖にワイバーンの魔結晶を埋め込む。その為にまず杖を変形させねば成らない。
金属を変形させるのは簡単だが、木となると難しい。
まず水を大量に含ませる。それと同時にフィアに加熱して貰う。
80度を越したであろう頃に重力魔法で力を加えて行く。杖の先端を魔結晶に巻き付かせる様に……この際杖の長さが短くなるのは仕方ない。
変形させ終わったら重力魔法で形を維持したまま乾燥させる。フィアに杖の周りの空気を温めて貰う。
お、産まれた。
「パパー! うまれた!」
三階の自室に居たリノが大きな声を出して一階のリビングまで走って来る。
普段ふてぶてしいリノがいつになく年相応の明るさを放っている。
その腕の中には小さな飛竜がいる。
「パパ……ワイバーン?」
「レベルが上がって進化すればちゃんとワイバーンになる。最初はその姿で、少し成長した姿を挟んで、最後にワイバーンになるんだ」
卵から直接ワイバーンが出てくる訳じゃ無い。今は鶏で言うヒヨコみたいなものだ。
自然界に置いて、生きていくとは得物を倒し、食べていく事だ。その得物を倒すという段階でレベルアップをして成長していく。その中でも特に強い者がキングゴブリンやハーピークイーンなどのボス級へと進化できる。
だからモンスター達は体の成長がレベルに依存していても、長寿になるほど強くなる。
この世界では人間ぐらいなものだ。強くなくても食べ物が食べれて、体の成長に関係するのがレベルでは無く時間である種族は。
まあ100になれば変貌はするけどな。
「リノが育てるんだ。名前を付けてやれ」
「なまえ……」
名前は一生の物だからしっかり考えるんだぞ。
うちの両親みたいに氷河や水奈なんて、キラキラネームグレーゾーンを攻めちゃ駄目だ。
水奈はまだ良いよ、氷河って……
さてリノは何と名づけるかな? ワイ太郎かな? ワイ太郎は無いな、関西弁で話してきそう。
「………………」
リノがワイ太郎(仮)と見つめ合っている。種類名で言うとフェアリードラゴン。
「…………」
「……キュア?」
「……キュア……」
「キュ?」
「パパ、キュアにする!」
なんと安直な。ピーと鳴いたピー介くん並に安直だよリノちゃん。
こうしてワイ太郎(仮)の名前はキュアとなった。回復魔法にありそうな名前だね。
フェアリードラゴンである今は良いけど、ワイバーンになってもキュアなんだよね……
だ、大丈夫だよキュアッキュアになるって。
例えギャオーと鳴いてもキュアはキュア。
リノがキュアと戯れていると杖が乾燥し魔結晶の杖が完成した。流石フィア。
魔結晶の杖 MIND+30 STR+5
ワイバーンの魔結晶を使った事だけあってマインドが高い。
ただでさえ既に合計値が500超えてるフィサリスにこれを渡すのか……恐ろしいな。
折角完成したのにフィサリスはリビングに居ない。自室でぬいぐるみと戯れてやがる。
呼び出すべきだろうか……朝食に降りてきてからにすべきだろうか。
ぬいぐるみに関して俺とリノ以外には知られたくないみたいなんだよなぁ。
止めといてやるか。ロータスもラミウムも知ってるけどな。




