愛し合いの形
水奈とリノ、2人が眠った事を確認して、腕を引き抜くと同時に枕を差し込む。
枕、俺の腕の代わりを頼んだぞ。
あれ? 腕枕ってそもそも枕の代わりを腕がしてるんじゃなかったっけ?
まあいいか。穂乃香の部屋のベットへ直接転移し、腰をかける。
「来たぞ、穂乃香」
「あ、氷君! 氷君はいつも唐突だね」
俺に気付き次第、擦り寄る様に体をくっつけて穂乃香はそう言った。
俺が唐突に動くのは穂乃香に対してだけだ。
俺との奴隷契約者に用がある時は召喚術で呼び出すか、空間転移でこちら側から行く。
その場合、他の……例えば水奈なら、千里眼で大丈夫な事を確認していたとしても、ドアから部屋には入るし、召喚術で呼び出すにしても水奈の手が空いてる時だけだ。
それに対し穂乃香には傍に直で転移し、呼ぶときは躊躇いなく呼び出す。
これは穂乃香に対する甘えでもあるが、穂乃香が常に俺が来ても、呼ばれても大丈夫な体勢を作っている事が主な原因だ。
穂乃香的にはトイレ中以外なら何時でもウェルカムらしい。
やはりこいつの献身レベルはおかしい。
就寝中でも入浴中でも呼んでOKは意味分からん。呼ばねぇよ。
「穂乃香、お前は俺の幼馴染でありたいか? 恋人でありたいか?」
「ん? お嫁さん!」
二択の質問、選ばれたのは三択目。
穂乃香的には既に結婚済みらしい。ってゆうか答えがリノと一緒なんだけど。
リノの十年後って穂乃香みたいにならないよね……?
心配になって来た。教育はやっぱりしっかりして行こう。
「『サモン』」
「へ?」
穂乃香をベットに横になった状態で召喚する。超短距離ワープ。
横になった穂乃香の上に覆いかぶさって、強く抱き締め四肢を固定する。
顔は穂乃香の肩の上、頬同士がぶつかりそうな程近づける。
「ど、どうしたの!? 今日は氷君が大胆!」
驚きながらも嬉しそうな穂乃香。まだ俺の目的は理解できてない様子。
「穂乃香、俺はお前を抱き締めている」
「え? うん」
「それはもう動けないほどに強くだ」
「う、うん……」
穂乃香はいつになくドキドキしており、唾を飲み込んだ。
「そして――」
「……うん……」
「――このまま眠る」
「……うん?」
千里眼で見なくても分かる。今の穂乃香はキョトンとした顔をしてるだろう。
「え、氷君。エッチは?」
「穂乃香、俺はお前から甘やかされる権利を得た。だから俺はお前を甘やかしてやる。でもそれは『甘やかし』であって『エッチ』じゃない」
「えぇえええ~~!?」
先にとんちを利かせて来たのはお前だろう。
朝仕掛けてきやがった仕返しだ。
「穂乃香は俺とこのまま眠るのは嫌か?」
「嫌じゃない! けど…………」
穂乃香が口ごもってしまった。ちょっと意地悪過ぎたか?
「……氷君をこうして全身で感じてるとその内、間にある布切れが煩わしく感じちゃう……それで服を全部脱いで氷君の服の中に潜り込んだら、今度は色んな所が擦れて気持ち良くなって、氷君の匂いや体温を感じてムラムラしちゃう……そしてしたくなちゃうと思う」
……穂乃香って正直だよね。
仮定なのに欲望に忠実で、且つそれをわざわざ説明しますか君。
服の中に潜り込むって、俺の服伸びちゃうよ。
脱がすんじゃなくて共有しようってあたりガチ過ぎる。
「穂乃香、お前が俺を求めてくれるのは純粋に凄く嬉しい。俺もお前が大好きだからな、お前としたくなる事もある。でもな、穂乃香。俺はお前と激しく愛し合うだけじゃ無くて、静かにも愛し合いたいんだ」
「……静かに愛し合う……?」
「ああ、こうして抱き合う。してる事はそれだけだが、全身で穂乃香の鼓動、柔らかさ、温もりを感じて、お前と結ばれてる、繋がってると思う。それが、俺にとって幸せなんだ」
「氷君……」
「穂乃香は、こういうの嫌か?」
「ううん、嫌じゃない」
穂乃香の抱き締めてる力が強まる。
幸せの種類、愛し合いの形、それはきっと一つじゃない。
体で結ばれる事によって生まれる幸せ、愛し合い。それも一つだ。
でも一つである必要は無い。
色んな愛し合いの形を作って、たくさんの幸せになれば良い。
「でも氷君。明日は水奈と一緒にたーっぷりして貰うからね」
「……おう」
水奈ごめん、今日我慢させた手前断れなかった。
まあ、そっちも一つだもんね……うん。