味付け
解体後、部屋の換気を行う。血抜きはしてあっても血の臭いはする。
普段は見物者はリノだけなのだが、今日は最初からリノを呼んで手伝せていたため見物者が多かった。揃いも揃って過保護ばっかりか。
水奈でも途中途中目を逸らしていたのに、黙々と俺と一緒に解体をするリノの肝っ玉の太さは半端ない。
お前のその胆力の強さはどこから来るんだ。
解体後は神奈へ料理を教える。
今日は調味料の分量を事細かに教えた。メモまで取らせた。完璧だ。
今日の夕食は肉じゃが。定番だよね。
9人揃って食堂のテーブルにつく。
ささ、召し上がれ。
「おいしい」
「美味しい……けど……お兄ちゃんらしくない……?」
お、そこに気付くとは流石水奈。
リノ、もっと丁寧に食べないと口の周り汚れちゃうわよ。
「………………」
「――ん? 日坂先輩!? なんで泣いているんですか!?」
くっくっくっく――計画通り。
「……おい、氷河……お前どうして俺のおふくろの味を知っている」
どうしてって……決まってるだろ?
鑑定様はなんでも知っている。未来の事以外。
なんでもじゃ無いな。
「追体験で知った情報を元に近いものを探す。作り方が分からずとも成分が分かればこっちの調味料でも再現は可能だ。尤も完全一致では無く似たような味だけどな」
「…………そうか」
間接的な追体験は出来ない。
日坂の経験を体験できても、日坂の記憶の中にある母親の追体験はする事が出来ない。
だが、日坂が食べた味を知り、それと近い味になる調味料を調べ再現する事は出来る。
鑑定と料理スキルのフル活用。やっぱり本気を出すポイントがズレてると思う。
そして完全一致では無いという点。実は日坂母の料理をベースに、より日坂の好みに寄せたオリジナルである。
そしてこの味は神奈に伝授済み。つまり神奈の味となる。
「味付けは神奈に教えてあるから、また食いたきゃ神奈に言え」
俺は可能な限り、穂乃香や水奈好みの料理を作ってやりたいんだから。
「……神奈、頼んでいいか?」
「はい! あ、多めに作ったのでおかわりありますよ」
「……貰う」
「……はい」
神奈が優しい笑みを浮かべている。胃袋鷲掴み作戦大成功だな。
しかし、おふくろの味か……うちは弁当は冷食だったし、母さんの料理は上手いって程でもなかったからなぁ。味付けがおおざっぱだから毎回味の違うアトラクションみたいだったし。
(私は料理長に当たりますね)
そうだよね。王妃自らは作らないよね。
むしろ何でお前は作れるのって話なんだけど。
(自分の事は自分で出来るようになりたいと、料理長に指導をお願いしました)
うん、知ってる。王女という立場上とれる時間は少なかったけど、色んな事にチャレンジしてたんだよね。弓とか。
ぶっちゃけラミウムって戦闘力に関しては王族トップクラスだよね。フィサリスに魔法を習った王子でもそこまで戦えないよ?
(最近特に戦う機会が増えましたので)
うん。俺がレベリングにばっか行かせてるからですね。すいません。
(いえ、私がじっとしてはいられないと志願した事ですので)
君、行動力あるよね。
フィサリスとロータスは料理らしい料理を幼少時食べれてないから……ね。
穂乃香は俺の料理で満足の様。小春さんが泣いちゃうぞ。
如月小春さん。穂乃香のお母さん。あの人の料理美味しいのに。
うちとは違ってちゃんと味が安定してるんだぞ。
毎回冒険してみるのは止めようよ母さん!




