庇護下
「――、―――」
ん……
「――、起―――ば」
……久しぶりだなこの感じ。
「おはよう、氷君」
相変わらず良い笑顔だ。
やはりこの角度から見上げる穂乃香は絶景である。
でもなんでここに? 水奈は……俺の上に覆いかぶさっていらっしゃる。
「ふふ、水奈の寝顔可愛い」
そう言って微笑む穂乃香はまるで聖母の様である。
様であるが、
(唇柔らかそう……食べちゃいたい)
頭では邪な事考えていやがる。
朝からブレねぇなお前。
「氷君と水奈が起きてくるの待ちきれなくて、起こしに来ちゃった」
来ちゃったって……今日のパーティーメンバーが穂乃香的にベストとは言え、やる事はレベリングなんだよ? あと連携強化。
楽しいような事でも無いだろうに。
「あ、ねぇ氷君。おはようのキス、要る?」
「要るって……お前が欲しいんだろ? …………貰う」
「えへへ」
穂乃香と唇を重ねる。大変幸せそうである。
「…………また二人でイチャイチャしてる……」
俺に乗ったまま目覚めた水奈が少し不機嫌である。
独り占めすると宣言し眠った後に、起きて最初に目に移り込んだのは俺と穂乃香のキスシーン。
不機嫌にもなるな。
「――んっ。おはよう、水奈。大丈夫だよ~水奈にもおはようのキスするからね」
「はえっ!? ちょっとっ穂乃香!?」
穂乃香が水奈の頬に手を添える。
なんでも良いけど一旦体勢を変えません?
穂乃香に膝枕され、水奈に覆いかぶさられる。
そりゃあ体勢は俺的にも大変幸せだけれども、どんな心境でお前らのキスシーン見るのよコレ。
何でローアングルでお前らのキスシーン見せられてるのコレ。
朝食を終えた後、水奈と神奈に今日の事を説明する。
日坂とロータスはレベリング兼スキルアップに出かけている。
休みの日まで頑張るね。俺らもする事はほぼ一緒だけども。
説明した所了承は得たが、神奈が穂乃香、水奈の2人と一緒になれて嬉しい反面、俺ら3人に加わるのかぁと複雑そうである。
今日は君たち3人の連携が主だから。神奈が疎外感を感じる展開にはならない筈。
穂乃香に自重させればきっと大丈夫。
リノの面倒をフィサリスとラミウムに任せる。
細かい面倒を見るのは主にラミウムだと思う。
よろしく頼んだよ。
(かしこまりました。気を付けて行ってらっしゃいませ)
うん。行ってくる。
3人を連れて森へとやって来た。
何を倒させようか……
「お兄さん、休日って私達だけで外出ちゃ駄目なんですか?」
ん? ああそう言えば俺やフィサリス達の同行無しで、遠くまで行かせた事はまだ無いね。
「街の商店街なら良いけど、モンスターの発生地帯は駄目だ」
「何でですか? 私達だいぶ強くなりましたよ?」
まあ、ステータスだけで言えば1.5倍補正があってレベル30相当だもんな。
ステータスだけはな。
「モンスター相手なら問題ないだろうが、割と盗賊や山賊が出るんだよ」
「そうなんですか? 今まで一度も会った事無いですよ?」
「そりゃ俺が千里眼で確認して居ない所に連れてきてるからな」
毎回近くに人がいるのかどうかとか確認してるのよ?
「一般人では強い方に含まれるが、レベル40の騎士や冒険者に比べるとお前らはまだまだだ。襲って来た盗賊なんかがお前らよりレベル低くても、数で囲まれれば不利だろ? 殺す気で来るかも知れない相手に太刀打ちできるか?」
「う、そう言われると……」
こいつらはまだ命の危機的状況の中で戦った経験が少ない。
俺やフィサリス、ロータスの庇護下で戦っていたため、レベリング時はもし何か合った時の助けがすぐ傍に居る状況だった。実際にこいつらが命の危機にあったのはトラップに掛かった時の一回だけだ。
庇護下の中での戦いと危機的状況での戦いは全く違う。
危機的状況では一歩間違えば命取りだ。パニックに陥りやすい。
モンスター相手に危機的状況になったとしても倒せれば助かる。こっちも殺す気で戦ってるからな。
じゃあ人間相手に危機的状況になったら? 命の危機にあるのに、殺す事に躊躇いを持ってたら?
勝つのは難しいだろう。即ち死だ。
水奈はまだ対人戦すらしたことが無い。穂乃香と神奈も組手や稽古はしたものの、本気での殺し合いはしたことが無い。
水奈と神奈に人を殺すのは無理だろう。穂乃香は……二人の為なら躊躇いなく殺すだろうが、それは俺の望む所じゃない。
だからこいつらだけではモンスター発生地帯を歩かせない。俺がいつも見守ってて、すぐさま駆け付けられるとも限らないからな。




