傷
のぼせた頭もだいぶ良くなったので水奈の部屋へと向かう。
今日はリノがフィサリスと寝る為、水奈と2人だ。
穂乃香も今日は自室で寝る為本当に2人である。
まあ……流石にね?
水奈の部屋に入る。すると水奈にジト目で見られてしまった。
「2人してのぼせる程、お風呂で何してたんだか……」
それはその……お察しの通りでございます。
ジト目の水奈も可愛いなと思いつつベットに横になり手を繋――
水奈に抱き着かれた。君最近随分と大胆になって来たね。
「やっぱり今日も穂乃香の匂いがする……」
そう言うと水奈は俺に体を擦り付け始めた。
「何してんの?」
「お兄ちゃんに私の匂いを擦り付けてるの」
なんと、穂乃香にプチ嫉妬。
そんな水奈だが、俺の匂いを堪能しながら、穂乃香の香りも堪能し始めやがった。
何だかんだで、お前穂乃香の事大好きじゃねぇか。
「穂乃香なら呼べば大喜びで来ると思うぞ?」
「いい。今日は……今からは私がお兄ちゃんを独り占めするの」
可愛い宣言をしつつ水奈が強く抱きつく。
柔らかい、温かい。
水奈も穂乃香も俺への依存度が高いんだよなぁ。
俺からもだろうけど。
「水奈、クーデターが終わった後、お前どうする?」
「どうするって何が?」
「クーデターが終われば急がないといけない案件は無くなる。クラスメイト達の安全も確保できるだろうし、強くないといけない理由もない。俺の奴隷である必要が無くなる訳だ」
俺が水奈を奴隷にしたのはクラスメイトを置いてこちらに来させるため。
そして奴隷から解放しないのはステータスの低さですぐに死んでしまわない様にするため。
だが、現在日坂と穂乃香は後1レベルで20に達するし、水奈と神奈もレベル17だ。
クーデターを迎えるまでにレベリングは後3回。20は確実に超えるだろう。
レベル20ともなれば俺の奴隷でなくても十分に戦えるだろう。
俺との関係が主従である必要が無い。自由にして良いんだ。
「私は変わらず奴隷で良いよ? ステータスは高いし、お兄ちゃんの為にもなるじゃん」
なんとあまり気にしていないご様子。
むしろ俺のステータスアップに貢献出来て嬉しいご様子。
お兄ちゃん的には肉親と主従にあるのはなかなか心苦しいけど。
「お兄ちゃんと繋がってるなぁと思うし…………足手纏いにはなりたくない……」
足手纏い……か。
強いモンスターと戦うのに、戦力にならないため連れて行かない。これは確かに足手纏いの扱いだろう。
じゃあ人を殺すのに、人を殺せないから連れて行かない。これは足手纏いなのか?
人を殺せれるようにすればいい話なのか?
戦力にするため鍛えて強くするのと、人を殺すため殺せるように経験させるのじゃ全く別じゃないか?
モンスターを倒すのも人を殺すのも生物を殺してる事に変わりは無い。
そんな考え方が出来るのは俺とフィサリスだからだ。
水奈と穂乃香に、俺の傍に居させたいが為に、人を殺させるつもりは無い。
こいつらは置いて行く。であるならばこいつらを甘やかし依存を強めさせるのは残酷な事だ。
理解はしている。頭では理解しているのに……
「お兄ちゃん……?」
置いて行くからこそ、甘やかしておきたいと思ってしまう。
今のうちに我が儘を聞いてやりたいと思ってしまう。
冷たく突き放すのが正解なのかもしれない。嫌われるのが正解なのかもしれない。
でもこいつらの俺に対する望みが、願望が、見えるんだよ……!
これでは駄目だ。そう思いつつも、俺は水奈を強く抱き締めている。
このツケは今までよりも大きくなって、俺では無く水奈と穂乃香に降り注ぐのだろう。
傷付けてしかいないな。本当に。




