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鑑定は死にスキル?  作者: 白湯
メインストーリー
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『焦り』

 夕食後。風呂に入って上がった所、ロータスさんに少し飲みませんかと言われた。

 ロータスさんからの折角のお誘いだから受けたが、まさか2日連続でお酒を飲むことになるとは……まだ慣れないんだよな。

 氷河はどうしてあんなに慣れてたんだろうか……あいつに限って前から飲んでたって事は無いだろうし、他の人から追体験でもしたんだろうか。

 と考えるとあいつずるいな。一人先に大人の嗜み覚えやがって。

 ロータスさんと二人でバルコニーに出る。今日は雲が出ていて月が見えにくい。

 ロータスさんが持ってきたのはワイングラスと白ワイン。

 ワイン似合うなこの人。

 でもワインってアルコール度数高いんじゃなかったな?

 俺昨日初めて飲んだのに大丈夫だろうか。

 

「日坂様はワインを飲まれるのは初めてですか?」

「はい」

「そうだろうと思い、飲みやすい白を貰って参りました」


 気を遣って貰ったようだ。

 こういう気配りがやっぱり大人だなぁと思う。

 

「ワインはあまり多く飲む物ではありません。香りを楽しむ物です」


 渡されたワインの香りを嗅いでみる。

 うん。この香りは嫌いじゃない。

 

「では」


 グラスを合わせて乾杯をする。

 少し飲んでみる。味は…………

 

「お口に合いませんでしたか?」

「いえ……別に……」


 なんかこう……飲めないと言うと子供っぽくて嫌だな。

 でもこの味は……うーん。

 

「お酒にも合う合わないはあります。白は苦手でも赤なら、ワインは苦手でもウイスキーなら、焼酎なら、発泡酒ならと好みは分かれるものです」

「ロータスさんはどうなんですか?」

「私は発泡酒があまり得意ではありませんね」


 ビールか。ビール飲んでるロータスさんはイメージできないな。

 

「日坂様、本題に入らせて頂きます。本日、貴方の剣から焦りを感じました。一体どうなさったのですか?」


 ……焦りか。

 まあ、焦ってるもんな。

 

「余裕がないんです」

「それは何故?」

「ああ、えっと、俺のじゃないんです。氷河がです」

「……月島様が、ですか……?」


 あいつは今、余裕がない。

 だから、俺が焦ってる。

 

「月島様に焦りは感じられませんが……」

「そうですね……ロータスさんから見て氷河ってどんな人間ですか?」

「……中身の無い、いえ見えない人間でしょうか」


 見えない、か。よく見てるなぁこの人。

 

「人間誰しも信念を持ち、自己があってこそ成り立つと考えています。しかし月島様からは信念は見えても自己が見えてこない。基盤が見えぬのです」

「その評価は間違っていません。氷河はこの世界に来て、牢で俺らと会ってから一度も自分を出してはいません」


 どうして昨日言われるまで気付かなかったんだろうな。

 

「あいつの今の行動はあいつが望んでいない訳じゃ無い。けれどもあいつの行動は全て誰かの為なんです。俺を助けたのは神奈の為、今日のフルーツアートは水奈ちゃんの為、穂乃香ちゃんを甘やかすのは穂乃香ちゃんの為。自分の為だけに動いてることが無いんです」

「それだけを聞くと博愛者のように聞こえますね」

「でもあいつの大元はそんなんじゃありません。あいつの感性は穂乃香ちゃん寄りですが、根っこの所は水奈ちゃんに近いんです」

「妹様にですか?」

「はい。あいつは元々誰よりも争いを好まない(・・・・・・・)人間なんです」


 昔から、穂乃香ちゃんとか身内がが争い事をしてると先んじて仲裁に入り、クラスとか関係ない所で争いが起きてると巻き込まれない様にすぐさま避難していた。

 無駄な争いを好まず、平和で居たい。それが月島氷河という男だ。

 

「その氷河が、人を殺した事があると言った。そして人殺しが今の自分の立場だと言った。あいつは今それほどに余裕がないんです」

「……余裕がないにしては行動に無駄が多すぎませんか? 周りに気を掛けるとは余裕あってこそ。本当に余裕がないのであれば私たちに会う前のお話にあったように睡眠時間を削って戦うような事になるのでは?」

「穂乃香ちゃん達に悟らせないためですよ。あいつはまだ何か隠してる。何かしようとしていて、それが出来るのは人を殺したことのある氷河とフィサリスさん、そしてロータスさんだけだと思います」

「フィサリスと……私ですか」

「ここからは俺の推測なんですが、氷河は最初俺を含める人を殺した事無い組を置いていこうとしていた。でも心配性のあいつは何か合った時の為に最大戦力である二人の内一人、恐らくロータスさんも置いて行くつもりだったと思います」

「どうしてフィサリスでは無く私なのでしょう?」

「ラミウムさんとの結びつきが強いからです。フィサリスさんは氷河に対してのみ固執しているので問題は無かったのでしょう。しかしイレギュラーが起きました。リノちゃんの存在です。リノちゃんは氷河とフィサリスさんに特に懐きました。だから氷河はフィサリスさんも置いて行こうとしている。だから氷河は俺に声を掛けたんだと思います。隣に立ちたいと思っている俺に、立つチャンスを」


 だから俺は焦っている。

 俺がこのチャンスを逃せば、あいつは1人で居なくなるつもりだ。

 守るべきものを全て置いて。

 

「あいつは義理は果たす男です。クーデターを止めるまでは一緒に居ると思います。でもその後は分からない。1ヶ月後かもしれないし、1日後かもしれない。あいつが確実に居るであろうクーデターまでの後15日間。この間に俺はあいつの隣に立てる器であると証明しなくちゃならないんです」

「レベリングやスキルアップを行ってるのはパーティーとしての強化では無く、自己防衛のためのものですか」

「恐らく。氷河が居なくなった後でもこの世界で問題なく暮らせるようにだと思います」

「……勝手な男ですね」


 まったくだ。

 喋り疲れたのでワインを飲む。……苦い。

 雲が月を覆い隠し暗くなってしまった。

 あいつは何かをしようとしている。

 それはきっと穂乃香ちゃんや水奈ちゃんの為になんだろうが、巻き込むつもりは無いらしい。

 穂乃香ちゃんには殺させないと言った。つまり人を殺すような事をするって事だ。

 なぁ氷河、お前は何をしようとしてるんだ?

 お前の目には、今何が映ってるんだ?





今氷河に見えてるもの……水奈の寝顔?

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