呼び名
洋館の外装をみるため門の前に転移した。
「此処が今日から住む新たな拠点だ」
「……お兄ちゃん……この屋敷お化けとか出ないよね……?」
「ああ、出ないぞ」
もう全員成仏したからな。
(じょ、成仏って事は……居たのでしょうか……?)
あ、顔に出すなよ。水奈が怖がるから。
居たけどもう居ない。よって問題ない。
「俺らの新拠点。そしてコイツの家だ」
俺は頭上を指さす。
「その子の……? その子の家族は?」
「もう居ない。詳しくは中に入ってからにしよう」
玄関から入ってリビングダイニングへと進む。
俺がソファーに座るとリノが肩から降りてきて、俺の膝の上に座る。
なに、そこ気に入ったの?
さてどこから説明するか……どこまで説明して良いのか……
……水奈が怖がることを覚悟した上で全部話すか。
経緯を全て話した。
水奈は予想通りゴーストがいた事に怖がったが、最後まで聞くとリノの境遇に涙を流していた。
感情豊かだな君。
神奈の俺に対するロリコン疑惑も無事に消えた。
「そういう訳だから、実際の家賃は0だが、コイツを少なくとも独り立ちするまでは面倒見ないといけなくなった」
「なるほどな……俺は別に構わねぇよ」
日坂のOKが出たのでもう問題ない。
基本決定権は奴隷主の俺と日坂だから。
それに子供の面倒見るとなって真っ先に嫌がるのは他でもない俺、時点で穂乃香。
その二人が発端な訳だから嫌がる奴は……かろうじてフィサリスぐらいか。
「パパ、お腹減った」
「もう少し待ちなさい。後パパって呼ぶんじゃねぇ」
「いや」
「……随分と懐かれてんなぁ」
「子供の相手は苦手なんだ。日坂こういうの得意だろ、引き取れ」
リノを日坂に渡そうとする。
リノが俺の方へ振り向いてしがみ付く。
この野郎。
「お兄ちゃん! 乱暴にしない! リノちゃん、よろしくね!」
「……だれ?」
「こいつは俺の妹、水奈だ」
「みな」
「うーん……お姉ちゃんって呼んで貰えると嬉しいな!」
「みな」
「諦めろ水奈。穂乃香もほのかとしか呼ばれてない」
「え~……お兄ちゃんはどうしてパパって呼ばれてるの?」
「俺が聞きたいわ」
月島氷河って名乗ったんだけどなぁ……
「私! 私は!?」
「……だれ?」
「こいつは神奈だ」
「かみな」
「ちょっとお兄さん! 苗字で教えないで下さいよ! 美鈴、美鈴お姉ちゃんって呼んでね」
「かみな」
「どうしてくれるんですかお兄さん!」
いや、俺に言われても。
覚えたのリノだし。
「で、こいつが日坂だ」
「ひさか」
「おい」
「じゃあリノ、確かめてみるか。穂乃香」
「ほのか」
「水奈」
「みな」
「神奈」
「かみな」
「日坂」
「ひさか」
「氷河」
「パパ」
この野郎。
断固として俺を名前で呼ばない気か。
「どうやら氷河様を特別気に入っているようですね。私はラミウムと申します」
「らみうむ」
「私はロータスです」
「ろーたす」
「お姉さんはお姉さんでもいいな~」
「…………」
「……? どうしたの~?」
リノがフィサリスをジッと見ている。
何事? ――!? それは不味い!
「ママ」
「――え? ま、ママ?」
あかん……やってしもうたなコイツ。
穂乃香が目を見開いてこっち見てる。……オーケー、説明する。
「リノの白髪は母親譲りだ。フィサリスの髪は明るい銀髪……白に見えなくもない。それに実際にフィサリスとこいつの母親の見た目が少し似てるんだ」
だが、父親と俺は全然似てない。
俺がパパと呼ばれる意味が分からない。
(私がママ……ご主人様がパパ……つまり夫婦!?)
(ずるいずるいずるい私がママって呼ばれたかったのに! 呼ばれたかったのに!)
あぁ……カオスな事になって行く……
「リノ、そうだよ。ママだよ~」
「ママ!」
リノが俺の膝から降りてフィサリスの膝の上へと向かった。
どうやら懐いたようだ。
「うぅ~!」
「穂乃香……ママと呼ばれたかったか」
「……呼ばれたかった……」
「そうか……じゃあせめて俺の膝の上に座るリノに嫉妬するの止めなさい」
「うぐっ……だって……」
(私も氷君の膝の上、座りたいもん!)
座りたいもんって……可愛いけども。
「水奈ならまだしも穂乃香だと絵面的にアウトだろ」
「私ももう少し……身長が小さければ……」
水奈は大きくなりたいと悩んでいるがね。
難儀だね君たち。
俺? 俺は後五センチぐらい欲しいかな。




