繋いだ手
さて、水奈の部屋の前にやってきました。
夜になると妹の部屋を訪れる兄の絵。
ヤバいシスコンにしか見えない。
そして間違ってない。
変な噂が立つ前に早く入ろう。
「水奈ー今大丈夫か?」
『お兄ちゃん!? ちょっと待っててね!』
おや、待てと言われてしまった。
ならば待つとしよう。
でも変な噂が立つ前には入れてね?
「はい。どうぞー」
目を赤くした水奈に入れて貰った。
月島 水奈 恐怖度 70
「お兄ちゃんはまた心配して来たの?」
「まあな」
「もう、心配性だなー」
まるで大丈夫とでも言わんばかりに明るく振る舞う水奈。
そんな腫れた目しながらじゃ説得力ないぞ。
そんな水奈を優しく抱き締める。
うん、やっぱり小さな背中だな。
この背中にクラスの期待が乗りきれるとは思えない。
「ダンジョン行ってみてどうだった? 初めての戦いは……やっぱ怖かったか?」
「…………うん……」
水奈は俺を抱き締めた。
その手は、肩は、震えていた。
「……モンスターは……本当に私たちの命を取りに来て……私たちは……モンスターを殺した……ゲームなんかじゃないんだよね…………本当に……本当に死ぬかもしれないんだよね……っ……」
ダンジョンに居る時の水奈は、恐怖度が常に80を超えている。
回復役である水奈はみんなの傷を癒さないといけない。
それ故に毎回目撃するわけだ。実際に傷付いて行くクラスメイト達を。
そして目撃するわけだ。負けたモンスターの死体を。
水奈は怯えている。
次そうなるのは自分か、みんなかもしれないと。
帰って来た時は安心感から数値が下がっていた。
でも部屋で一人になると駄目だ。
一人になると頭に浮かぶのは血を流すクラスメイトと、モンスターの死体。
そして明日もまたあるのだという事。
水奈は死に怯え、明日に怯え、泣いていた。
俺を部屋に入れた時の70は、俺が来た事により下がった上での70だ。
やはり毎日ケアをする必要があるな。
しばらく水奈を抱き締めて、頭を撫でていた。
少しは落ち着いたらしい。
「ねぇお兄ちゃん……? 今日も……眠るまで手握って貰っていい?」
「ああ、もちろんだ」
ベットに横になる水奈は俺の手を握る。
その手の繋がりが、水奈の安心であり、居なくならないという証明だった。
俺は水奈が眠った事を確認すると、握られたその手を放す。
「……ごめんな水奈……また明日繋ぎに来る」
俺は水奈の頭を撫でた後、部屋から出た。
そして自室へ戻り、再び夜の草原へと飛び出す。
それが俺のするべき事であり、俺のできることだから。




