さらば、地球
高校三年の夏。
俺こと月島氷河は特に何がある訳でも無く、普通に過ごしていた。
進学希望先の大学も判定はA。安全圏である故に、特に勉強する気にもならなかった。
今日も授業受けた後は部活で将棋して終わりかな~。
そう思い家から出ようとすると母さんに呼び止められた。
何?今日何かあったけ?
「水奈がお弁当忘れて行ったから、渡してくれない?」
なんと、あの妹弁当忘れて行きやがったのか。
水奈は俺の二つ下の妹で陸上部に入っている。朝練があるらしくいつも俺より早く家を出ている。
弁当忘れ常習犯である。いや、学べよ。
「あーわかった」
妹がため、弁当を追加で持って登校するマジ兄の鏡。
いや、それぐらい普通するか。
アホな事考えながらも学校に到着。
自転車で約十分。
歩ける距離だって?
何故こんな暑い中汗だらだらと歩かねばならんのだ。
自転車とは偉大である。作った人、よくやった。
早速教室に荷物を置き、水奈の弁当を持って一年教室棟へ向かう。
「お? 氷河、お前また水奈ちゃんに弁当渡しに行くのか?」
さわやかオーラ全壊のイケメンが話しかけて来た。
コイツは日坂統也。ちょっとした腐れ縁。
爽やかで明るいコイツと、大人しく暗い俺は正反対の人間だが、どういう訳かウマが合う。
コイツと二人でいると視線を集める。一人だとそんな事ない。
つまりコイツのせいである。
名前に掛けてか校内で『太陽と月』と呼ばれる事がある。
なんとなく勝手に小さくされた気分。俺の中で『水と油』と呼んでいる。
もちろん俺が水。
「ああ、毎度の如く忘れたんだと」
「俺も行っていいか? ちょうど神奈と今週の練習の、打ち合わせをしなきゃいけなくてな」
「あー、まあ構わねえよ」
水奈の親友で日坂の後輩、神奈美鈴。
日坂が部長を務める剣道部のマネージャーで、日坂大好きっ子。
あれは怖い。外堀を埋めるために俺にも近寄って来るガチの奴だ。
水奈と親友なのは中学からなのでマジだが、俺に対しても目がマジだった。
まあ、日坂が居る間は日坂につっききりだから、コイツが居れば大丈夫だろ。
という訳で日坂と一年教室棟に向かった。相変わらず視線が多かった。
それが水奈の教室に着くとまた理由が変わる。
「水奈ー弁当」
「あ、お兄ちゃん! ありがとう~助かったよ!」
明るく礼を言うコイツが妹の水奈。
兄とは違い明るい子。同じ兄弟でどうしてここまで違うのか。
弁当忘れの常習犯であるが、コイツはこんなんでも、学級委員を務めていると言うのだから驚きである。
見た目はクラスで三番目ぐらい。我が妹ながら絶妙なポジションに居やがる。
「水奈は相変わらずだね。氷君おはよう」
「おう。おはよう」
三年生である俺に対しタメで話すコイツは幼馴染の如月穂乃香。
前に先輩と呼ばせてみたが、なんかのプレイに思えたので止めさせた。
視線の理由が変わる原因である。
穂乃香は校内で一、二を争う美少女だ。
そんな美少女と仲良さげに話す男子。うん、快く思われない。
しかも理不尽な事に日坂は怒られない。
あいつは誰にでも優しくお世話になった奴も多いため、日坂が穂乃香と話していても怒られない。
その矛先は大人しい俺へと向くわけである。理不尽この上ない。
「氷君、今日もよろしくね?」
「……ああ。放課後な」
そう、コイツ将棋部なのだ。
いつも俺より早く来ていて、俺が座る席の前に座り、相手をする。
いつもそうなのだが、部内で一番強いのが俺で二番目が穂乃香なので誰も何も言わない。
三番目との実力差が大きいからな。
そんなこともあって俺は男子からキツイ視線を当てられる。
解せぬ。
「日坂せんぱーい! どうしました? さっきぶりですね!」
「おう。練習メニューについて話したくてな」
出た、神奈。
見た目ランキングで穂乃香と水奈の間に居座る二番目。
見た目に反して恐ろしい子っ。
まあ、日坂が居る限り平和である。
そう思っていた矢先、事件が起こった。教室の床が光り始めたのである。
「は?」
光は教室にいた生徒を全て包み込み、そして俺たちは見知らぬ世界へと飛ばされた。