望まぬ世界
はい、さぼってました。
もうめちゃくちゃさぼってました。
あ、受験は無事終わりました。
「あなたなんて生まれてこなければよかったのに。」
「自分みたいな出来そこないがこの家にいると迷惑なんだよ。」
「仕事で疲れて帰ってきてるんだ。自分の部屋に行ってなさい。」
誰も俺を見てくれなかった…
「青明君っていつも一人だよね」
いつだったか、話した事もないクラスメイトから言われた。
あいつの名前はなんだっただろうか。
「ねぇ、青明君のお兄ちゃんって彼女いるのかな。」
目的が見え透いている奴もいた。
確か嘘を吹き込んでやったら、それから話しかけてこなくなったな。
「おまえそんなんで恥ずかしくないのか。」
自分の事しか頭にないゴミが発破をかけてきた。
自分の事しか見えない屑に囲まれて息が苦しかった。
この世界が汚く見えた。
どいつもこいつも醜くてしょうがない。
そんな俺に対してショ―ウィンドーに映る俺が答えた。
『それはお前だって同じだろ。』
* * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *
「初めまして、新人さん!ようこそペースへ!」
目の前に猫がいる。
よくある猫耳という類ではなく、猫だ。
二本足で立ち、服を着て人並みの身長を誇り人語を解す猫。
訂正しよう、化け猫だ。
「あり?どうかしましたか新人さん?しーんじーんさーん!」
(状況が飲みこめない。何か情報を!)
自分が今座っている広場の様なスペースで交わるように四方から大通りが通っており、道の左右にはレンガを基調とした中世を意識させる作りの建造物が立ち並んでいる。
(近代的な建物を作る技術及び材料はなしか。)
「おーい、周りを見るより先に私に注目してくださいよ―!」
自分が背にしている噴水の中央にはベルのレリーフが鎮座している。
「あー、新人さんが今見てるその像はこの世界に昔からあるものらしいですよ。」
(ってことは何かしら意味があるのか。要チェックだな)
「転生するときにこの像に祈りを捧げるんですよ。」
(転生するときにね…)
「って、そこのところ詳しく教えてくれ!」
「きゃっ」
いきなり身を乗り出し尋ねた結果化け猫が転ぶ。
「はわわわわ…」
「あっと、すまん、つい…な…、大丈夫か。」
手を差し出すと肉球の付いた手で掴んできたので引き起こす。
「俺の名前は横永青明。17歳のしがない高校男子だ。」
「これは、ご丁寧にどうも。ミーシャです。享年15歳です。」
ミーシャは転んだ拍子に服に付着した土を器用にはたき落とした。
「んっと、付かぬ事をお聞きしますが、ミーシャさんは最初からこの世界で生まれたわけじゃないですよね…」
「え、ああ、そうですよ。これはこの世界に来る時に容姿を変更したんですよ。結構この世界に来る時に容姿を変えたり声を変えたり性別を変える人は多いんですよ。」
(まぁ、自殺した理由に関係してたら変えたくもなるだろうな。)
「あ、自殺した理由をこの世界で聞くのはタブーですから、むやみにそういう行為はしないで下さいね。」
その後諸々の諸注意を受け、話が一段落した所で気になっていた話題を聞いてみた。
「それで、ミーシャさん。転生ってのはっどういう事なんですか?」
この世界の確信に迫る様な質問にミーシャは答えた。
「転生っていうのはこの世界に生きる大半の住人の目標なんですよ。
自分の罪を償い、神様に認められた時、この像の前で祈りを捧げると、元の世界に生まれ変われるんです。」
明るく話すミーシャの話など頭に入って来なかった。
(生まれ変わりか…)
「そんなのっ…」
こぼれた小さな呟きは誰にも届かなかった。
久しぶりだったので色々挑戦してみました!
ルビが上手く振れてるといいなー