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クエストだらけのVRMMOはお好きですか?  作者: 薄いの
トルス村と異界の少年
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Quest9

 玄関らしきものを見つけた。見つけた……のはいいんだけれども群れてる。マリオネットが種類は色々数自体は二十くらいは居るんじゃないだろうか。レアっぽいのだと杖を持った【マリオネットウィザード】まで居た。絶対術式使ってくるよね。相手したくない。

 正直突っ込むのは得策じゃないので硝子の割れた窓から巨大なホールらしき場所に侵入することにする。


「……ありゃりゃ」


 窓を乗り越えた先にはメイド服……のマリオネット。キミたち本当に種類が豊富だね。


マリオネットスレイブ Lv10 状態:敵対


 スレイブ? メイドじゃなくてスレイブ? カタカタと耳障りな音を立てて現れる無数のマリオネットたち。執事服を着ているヤツまでいる。


マリオネットスレイブ Lv11 状態:敵対


 どいつもこいつも【マリオネットスレイブ】で統一されている。これは、アレかな。操っているヤツが居るパターン。

 よく見れば此処はダンスホールと言われる場所のようで、古びた装飾やカーテン、埃だらけだが、特徴的な床がそれを教えてくれる。とりあえずはダッシュ。何体ものスレイブがボクに追いすがるように駆けてくる。十体ほど引き寄せた所でボクは振り返った。


「ショックウェイブ!」


 ボクが左から右へ大盾を振れば半円状に広がった灰色の衝撃波がマリオネットたちを襲う。当然、というべきかショックウェイブ一発では【マリオネットスレイブ】は倒せない。なによりもショックウェイブは威力が控えめだ。アサルトストライクの方が威力が優秀なのは、まぁ分かってた。範囲攻撃のお約束というやつだ。というかボクが個人的にアサルトストライクの方が使ってて楽しい。


 集めてはショックウェイブ。集めてはショックウェイブを繰り返す。やっぱりというべきか、弱いというか、脆い。数を減らしながらマリオネットたちの様子を見ていると、やっと見つけた。不自然に攻撃に参加してこない一体。


マリオネットマエストロ Lv15 状態:敵対


 試しに【マリオネットマエストロ】にナイフを投擲してみるとやや大げさに避けられた。だが、ボクに追いすがっていたスレイブたちの動きが総じて鈍った。やっぱりコイツが操っているということで間違いないらしい。


「泥濘の、陣!」


 走りながら背後に最大まで広げた泥濘の陣を配置。数秒後、スレイブたちが次々と陣に沈んでいく。ちょろい。操り人形の操り人形ならこんなもんだろうか。


「アサルトストライク!」


 吹き飛んだ【マリオネットマエストロ】に残りのナイフを全て投擲。全身からハリネズミのごとくナイフを生やしたマリオネットは消滅した。ドロップらしき物体を残して。

 ドロップ! 久しぶりのナイフ以外のドロップですよ!


 マエストロのタクト Rank3 マリオネットマエストロのタクト。術式の力を高める効果と支配の力を高める効果がある。


 ……支配の力。テイミングLv1……。うっ、頭が。

 貴重な先天性スキルを潰した上に空気すぎるテイミングなんてなかったのじゃ。

 先天性スキルは盾で良かったんじゃとかそんなことはない。ないのじゃ。


 ダンスホールを抜けると長い廊下。当然のようにマリオネットが待機している。


マリオネットメイド Lv11 状態:敵対


 メイド。メイドが来た。これは勝つる。

 やるか。やってみるか。やってみるだけならタダだしね!

 マエストロのタクトを握り、【マリオネットメイド】へと向ける。


「よ、よし、キミ、ボクのメイドになれ!」


 沈黙が周囲を包む。

 【マリオネットメイド】は沈黙したまま唐突にぺこりと申し訳なさげに首を下げた後に手にしたナイフで斬りかかってきた。




 ◇




 マリオネットメイド? ……知らない魔物だ。「ボクのメイドになれ」? そんな抱腹絶倒ものの台詞を吐いた人は居なかった。……そうだね?


 長い廊下を抜ける途中。インクの滲んだ札の立てかけられた部屋を見つけた。気になる。お邪魔してみるかな。

 中に入るとぶわっと埃が待った。これは酷い。この埃の積り具合、魔物も入らない部屋なのかもしれない。安全地帯かな。


 椅子の埃を軽く払って少し痛んだ椅子に座り込む。疲れた。ぶっ通しの戦闘は精神的に来るものがある。でも、やっぱり楽しいっていうのが一番に来る。ふと、机の上に上に古びた手帳が載せられているのに気付いた。


「なんだこれ?」


 手に取って眺めてみる。

 相当紙が痛んでいるようで、丁寧に広げないと破れてしまいそうだ。




 私がリリア様の付き人兼、護衛になって今日で三年になる。

 感慨深いものだ。



 鍛錬をしているとリリア様からお褒めのお言葉を頂いた。

 リリア様はこの頃丸くなった気がする。肉体的に。菓子ばかり食べているからだろう。

 久々にリリア様を交えて鍛錬した。最終的には涙目だった。メニューはまだ半分も終わっていないのに。



 傍付の巫女に叱られた。解せない。

 巫女姫とて鍛錬は必要だ。多分。そう言ったら余計に怒られた。やはり解せない。



 本気になられたリリア様ほど恐ろしいものなどない。あの方は身体能力こそ幼児級だが、本来の力を解き放てば龍とすら張り合えるような存在だ。本当に巫女姫とは恐ろしいものだ。



 昔の夢を見た。

 リリアさまが焔蛇を私の首に纏わりつかせて「さぁ、隷属なさいな。コウモリ女」と嘲るように笑うのだ。今思い出してもあのお方はナチュラルにサディストだと思う。素晴らしい。



 リリア様の真紅の髪は美しい。巫女姫は生まれつき体内に持つ精霊の影響を外見に受けることがあると聞いたことがあるが、彼の火精霊とてこれほど美しい紅は出せないだろう。



 今日やってきたあの男が気に入らない。

 人形遣いを名乗る男は口調こそ丁寧だが、力に飢えている。手段を択ばない獣だ。



 ヤツは強かった。永き時を生き、それなりに腕のある自信があった私だが、ヤツには適わなかった。典型的な後衛型だが、でしゃばらないが故に、強い。自身が弱いことを理解しているからだ。



 屋敷内でのヤツの評判は、すこぶる高い。私の考えすぎだったのだろうか。



 メイドの一人が庭園で転んでいた。助け起こしたが、膝から血を流していたようで靴までべっとりと血で濡れていた。だが、表情からは苦痛の色を感じ取れない。まるで当たり前のように私に礼を告げると、戻っていった。地面に血の跡を残したままで。



 私と同じようにヤツに訝し気な目を向けていた者の一人が掌を返すようにヤツを称賛していた。そう、まるで人形のような無機質な瞳で。



 遅かった。全てが遅かった。紅の精霊大剣を通していつも感じていたリリア様の精霊の力が喪われた。巫女姫とその精霊は一蓮托生。考えたくない。こんなことはありえない。



 私のこの書き散らしたページを誰かが見ることがあるのだろうか。

 あるのならば伝えなければならないだろう。

 この館は人形遣い、アルクスによって占拠された。

 アルクスは恐らく単なる人形遣いではない。恐らく人形遣いと死霊術式の二つのスキルを習得している。死霊術師は忌避すべき外法を平然と行使する。

 この館の人間は人形となったのだ。生ける人形、リビングドールだ。しかし、それらは失敗作、ただの肉の塊だ。魂だけを砕かれた彼らに意思はなく、只々アルクスの命令に従うだけ。私をそれを、かつての友人を、同僚を斬る。それこそが救済であると信じて。貴方が訪れた時、恐らくリビングドールはもう居ないだろう。

 アルクスは求めたのだろう。至高の人形を。四大巫女姫の一人、焔蛇のリリア・エルアリアを。忌々しいことだ。だが、ヤツは失敗した。巫女姫と精霊は魂で重なった存在、肉体など単なる器でしかない。ざまぁみろ。そのリビングドールは所詮リリア様の貧弱で貧乳で低身長なただの萌え人形でしかない。……すまない。忘れてくれ。まぁ、私は命を賭してアルクスを討たねばならん。リリア様の魂が籠められたアイテムは未だヤツの手にあるからだ。そして、このページをあなたが見ているということは私は敗れたのだろう。敗れていなかったら自分で処理するからな。


 もしも、私が人形として、あなたを襲うことがあれば斬って欲しい。。ただ、正直、私は強い。心して挑むことだ。この館は色々と事情があるが元々私のものだからな。これを報酬としよう。少なくともこれらの案件を処理してくれればこの館はキミのものになるだろう。なに、気にすることはない。要らない? 遠慮することはない。 私も盛大にぶっ壊したので直すのが手間だろうなとかそういう嫌がらせではないのだ。

 どうか、終わらせてくれ。


     コレット・テスタリア



「これは……」


 どうやらこの邪悪な人形遣いのダンジョンは予想以上にどろどろしたバックストーリーに彩られていたらしい。

 人形遣いアルクスは生きているのだろうか?

 少なくとも食料も水もない状態で生きていける人間は居ないと思う。

 では、このダンジョンのボスとはなにか。その一、人形遣いアルクス(生存)その二、人形遣いアルクス(アンデッドor人形)、その三、コレット・テスタリア(人形)、その四、人形遣いアルクス&コレット・テスタリアのどれかなのだろう。その二か三だとは思うけどその四はちょっと厳しい。いや、大分厳しいかも。


 いまいち晴れない気分のまま、部屋を出る。

 リビングドール。生きた人形。それがこれまでに出現しなかったことにボクは安堵しているのだろう。人型の相手に盾を向ける勇気は今のボクにはいまいち湧かない。だが、このダンジョンのボスは間違いなく人型だろう。NPCに近づきすぎたのは失敗だっただろうか。いや、そんなことはないはずだ。村長やアドルさん、ついでにラティアとの会話は楽しかった。……そうだ、ボクは遊び尽くすんだ、この世界を!


 長い廊下を抜けるかどうかの時、脇の部屋の扉がぶち破られた。

 ボクは盾を構え、破られた扉に向けて睨む。

 木片や埃が周囲に充満する中、現れたのは両手に包丁を握る小さな人形だった。


殺戮人形 Lv19 状態:敵対 


 強い。格上狩りを繰り返してるしてるボクだけど、これは強いと一瞬で理解した。


「泥濘の陣」


 【殺戮人形】(キリングドール)の足元に陣を迅速に、巧妙に設置する。


「……ケヒッ」


 サクリ。と、陣に二本の包丁が突き刺さった。同時に陣が霧散する。

 ……はっ?

 ちょっと待って、陣ってそんな簡単に破壊されるの!?


「ケヒヒッ!」


 包丁を引っこ抜いた殺戮人形が跳ねるようにしてボクに迫る。。

 阿呆みたな大跳躍をした【殺戮人形】が振りかぶる。見覚えのあるモーション、というかこれは……。

 慌てて大盾をかざせばガィィンと派手な音を立てて、衝突音。やっぱり投擲か!


「……っ! ショックウェイブ!」

「ケヒィッ!?」


 空中で身動きできない【殺戮人形】が盾から放たれた衝撃波で吹き飛ぶ。

 やっぱり中距離攻撃が出来るようになって凄く便利になった。

 さぁ、反撃だ。【殺戮人形】の着地点へと駆け、叩き付けられるように地面を跳ねた【殺戮人形】へと追撃を与える。


「アサルトストライク!」

「……ケッ! ヒッ!」


 確かに手ごたえを感じるのと同時に脇腹に熱を感じた。

 目を向ければボクの腹部には包丁が突き立っていた。コイツ、追撃喰らう前に置き土産を置いていったな。お返しとばかりにボクに突き刺さった包丁を抜き、【殺戮人形】へと投擲した。脇腹に痺れは感じるが、痛みはない。

 同じように腹部に包丁を突き刺した形になる【殺戮人形】は壁に縫いとめられるようにして力尽きた。これでタフネスまであったら恐ろしい敵だった。ドロップは……ない。ちょっとショックです。


「…巧妙の陣」


 ボクを中心にして小さな陣を敷くとリジェネレーションポーションを煽る。

 不味い。青臭い。でもちょっと癖になりそう。腹部が熱を持って、少しずつ傷が塞がっていくのが分かる。


ユラ Lv13 性別:男 称号:なし 

【陣術】Lv11 【テイミング】Lv2 【自衛の心得】 Lv9 【盾】Lv8 【投擲】Lv3


 テイミングがLv2になっている……だと……。

 なんで? あっ、メイド……。やっぱり忘れよう。ボクは過去は振り返らない未来に生きる人間なのだ。うむうむ。

 というかスキルLv10で新しい術理を覚えられるかなと思ったらそんなことなかった。楽しみだな、うぇへへ。


 うきうきしながら廊下を抜けた先には重厚な扉があった。

 精緻な細工の施されたソレは永い年月を経てはいてもその威圧を損なってはいない。この先にナニカ居る。

 そうボクに思わせるには十分な代物だった。

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