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冬馬君の日常  作者: だかずお
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ボーリング事件




『ボーリング事件』



車の中では多美が助手席から後ろを見回して、嬉しそうにニッコリ笑っていた。


大喜は目が合うとまずいと思い、目をそらし外を向く


多網のお父さんは静かに、真剣に運転している。多網はまた鼻くそをほじくり、お母さんはサイドミラーで自分の顔を見ている


多網一家は、それぞれが自分の世界に没頭してる、そんな感じだった。


多網の性格の生まれの根源が、何だか、分かった気がした。



空は少し雲っている、なんだか雨が降りそうな天気


「軽くお昼 食べましょうか?」多網のお母さんの提案


みんな大賛成


「あっ、そこにある ラーメン屋さんどう?」大喜が言った


みんなオッケーだったので、そこに入る事に。

ラーメン屋には、カウンター席とテーブル席があり、人数が多かったので、みんなはテーブル席に座る。


「なんか雨降りそうだね」と多網父


確かに空は今にも雨が降りそう、一面の雲だ。外はさっき以上に曇っている。


するとラーメン屋の店主が「うちは味噌ラーメンうまいよ 注文決まったかい」


「じゃあ味噌食べようかな」と多網母


じゃあ、僕もと、多網父


冬馬君と、大喜は、醤油ラーメン


多網は餃子定食だった。


「夏休みは多網が良く泊りに行って、ずいぶん楽しかったって言ってたわよ」


多網は何故か照れている


「僕達も楽しかったよ」



すると、隣のテーブル席に一組のカップルが


「何食べる? きみこ」


多網は、一瞬気になりすぐ後ろを見る


それはきみこという名前だったが、もちろん違う人であった。


何故か、多網はチラチラそのカップルを良く見ている。

どうやら気になるらしい。


冬馬君の推測だが、自分のデートの時の為に観察してるんじゃないかと思った。


暫くしてラーメンがテーブルに


うわぁー良いにおいだ


「いただきまーす」


隣のテーブルの男は少しキザな男だった。


「君の顔はこのラーメンよりも美しい」


キザだが、なんちゅー例えだと、冬馬君も、大喜も、お母さん達もばれないように笑ってた。


多網だけは、真剣に何やらブツブツ言って暗記しているようだった


「やあね ダイキさんたら上手なんだから」


大喜は飲んでいた汁を吹き出してしまった。


「まいったな同じ名前か」と苦笑い


だいきときみこ 身内で名前がかぶる凄い組み合わせのカップルだった。


「このラーメンは美味しいだが 君の手料理の足元にも及ばない」


見ると店主は嫌な顔をしていた


もはやラーメンの味よりも、隣のカップルの言動の方が気になってしまう。


こちらは食事をすましたのでお店を出る事に。


隣の席のちょうど横を通ったとき


多網はすご技を見てしまった


「君にプレゼント」


「まあ」


ラーメンの麺を机の上にひろげて、アイラブユーと英語で作っていたのだ。


冬馬君と大喜は見て見ぬ振りをして通ったが


多網はあまりの感動からか隣で立ち尽くしていた


「多網行くよ」 冬馬君が呼ぶ


車に乗ると、皆はそのカップルの話題で盛り上がっている


「何だか面白いカップルだったわね」


「途中からラーメンより、あっちが気になっちゃったよ」と大喜


「しかも、だいきにきみこ」と冬馬君は笑う


多網父はふふふと笑っている


「若い時の私みたいで何だか懐かしかったよ」



えっ?



車内は一瞬沈黙につつまれたのだった



車はボーリング場に出発~~



「しかし、空真っ暗だね 凄い天気」冬馬君は空を見上げた


「こんな時間なのに真っ暗だ」と大喜


多美は静かと思いきや、ぐっすり眠っている



しばらくして、車はボーリング場に着き


「じゃあ行きましょうか」と多網の父が車を停めて言った。


中に入り、みんなはそれぞれ靴のサイズを言って靴を借り始める


もちろん多網父はマイシューズも持参だ。


一体どれくらいのスコアなんだろう?

冬馬君は少し、この熱の入れぶり男のスコアが気になった


「じゃあ、みなさん球選んで下さい」と多網父


最初は冬馬君


「よし行くぞー」


冬馬君はボーリングをやる時、両手を使い転がして投げている


えいっ ガーター 二投目 四本倒れた


次は大喜 一投目 六本 二投目ガーター


そして多網 かっと目を見開き


「やあぁぁぁぁ」


凄い気合だ


そして投げ方も独特なフォーム


しかし、二投ともガーター


次はお母さん 私そんなうまくないのよ


と言って投げたものの、ストライク


「やったー凄いわたし」



そして 父



何故か父は緊張していた。自分のもっとも得意分野のボーリング



そして家族と親戚の子供達の前


フーッ 深呼吸をして



カッと目を見開いた


あの仕草、多網はここから真似たんだろうか?


父は立ち上がった



そして慎重にマイボールを選び


いざ出陣



助走をつけて 走った


「サーーーーーーーーーーーーーーー」


これが父の掛け声だった」


「すっ凄い」冬馬君と大喜は球がカーブするのを初めて見た



球は左からグングン 真ん中 右側に


あれっ?ピンを通りこしていってしまった



ガーター


父は首を傾げた


母は少し心配そうに父を見てる


父はボールを変え 二投目に



フーッ




「サーーーーーーー」




すっすごいカーブだ すごい


カーブは凄いのである


だが右から 真ん中に あっあー 左にガタんっ


かかり過ぎてピンを通り過ぎていってしまった


ガーター


父はよっぽど悔しかったのか顔がマジだった


冬馬君は、多網父が小声でつぶやいたのをしかと聞いた


どうして?



次のターンも大体みな同じような感じで、絶好調なのは母二回連続ストライク


父はこのターン、まさしく全力で敵を打ちにいくつもりだった


あの床に立っている 10匹の白いピンならぬモンスター達 負けられない闘いがここにはあった


フーッ


カッ目が開く 行くぞ


「サーーーーーー」


カーブがかかる かかる かかる



ど真ん中ストライク



敵を打ち滅ぼした


父は歓喜に包まれ


両手を交互に天にかざした


そしてあまりの嬉しさからか雄叫びをあげた



「キシャアアァァーーーッ」


まるで別人


みな大爆笑


その後も、そんな感じでつづいていた


母は最初がまぐれだったのか、後は倒れない


父はストライク続き 絶好調である


そう奴等がくるまでは


六投目にさしかかった時に隣に奴等は現れる



そう だいきときみこ


みんな驚いた


そして事件は起こる。

多網父がいつものように投げた時だった


「サーーーーーーー」


またもストライク 本当に凄い、冬馬君達は感心していた。


どうだ凄いだろと言わんばかりに父は、隣のカップルを得意げな顔でみた チラッとね。


その時、カップルのダイキが

「あのおっさんサーはないよな、卓球じゃないんだっつーの、見てるこっちが恥ずかしいぜ」


その時ブチッという音を聴いた気がしたが、これは気のせいだったのだろうか?


ただ何か血管の切れるような凄まじい音だった


多網父はそれを気にしたのか次から、突然あの掛け声は消える


掛け声のなくなると同時にガーター連発


「うわーダイキうまい 天才 またストライク」


「次もう一回僕が投げる、その本数が僕の君への愛の気持ちだよ、ストライク出したら 僕の気持ち分かってくれるね?」


「うんもちろん」


多網はその言葉をメモして必死に書き写す


冬馬君は自分のターンで球を持ち、ちょうど投げようとしている


その時だった


多網の父がさっと冬馬君の球を奪いとり自分のレーンに球を投げた


「サーーーーーーーーー」


見事な掛け声だった


王権復活である



隣の男も球を投げ、後はストライクを待つだけ


多網の父の球は凄まじいカーブ


えっ 嘘だろ? 冬馬君達が驚く


球はあまりのカーブにレーンを越えて隣に行く、そして男の球をはじいて落としてしまった


驚いたのはストライクを待っていたカップル、球ははじき出され見事なガーターであった


その時すでに父の姿はなかった


冬馬君はハッと一人の男の姿を発見する


それは、走って店外に出る瞬間の多網の父の後ろ姿


カップルは「私への愛は、この程度なの」と喧嘩していた


その隙にゲームを途中でやめ、みんなは逃げる様にその場を後に。


車の中は大爆笑


「あなた何してるの?あり得ないわよ、でも笑っちゃった」


冬馬君達もあまりに大人気ない行動を目の当たりにして「最高だった」と大笑い。

そしてある意味、あれはうますぎる


多網の父はテヘヘと笑っていた。


多網は沢山メモをとったのを満足気にポケットにしまって、ほくそ笑んでいる


空は依然真っ暗だったが、車の中はみんな大笑いにつつまれている。

何ともおかしななボーリングであった。



今日はこれから多網の家に泊まる、楽しみだ。



つづく

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