任務とは
その日、アンドラーシュがおびた任務とは。
エリート天使の、救出。
カウンターテナーとソプラノの美声を誇る、双子の天使。
ホールを埋め尽くす聴衆を前に最高のパフォーマンスを披露し、全員を魅了した、その直後。
暗幕の影から突如現れた魔物に、攫われた。
ガーディアンたちは必死に応戦したが力及ばず。
レスキューに出動命令が。
天使の中で、エリートは一握り。
アーティストが最も、多く。
ガーディアンはアーティストに次いで、多く。
レスキューはエリートよりは多いが、ガーディアンよりも少ない。
ゆえにレスキューは、逆エリートなどとも、呼ばれたりする。
むろん、蔑称。
魔物は天使を、狩りに来る。
魔物にとって、天使はご馳走。
とくにエリートは、美味。
執拗に、付け狙ってくる。
エリートを守るガーディアンを、魔物は連れ去らない。
芸術から見放された者は、魔物にさえも、見向きもされぬ。
だが魔物に傷を負わされたガーディアンは、魔界へ落とされる。
傷口から魔に侵蝕されて、いずれ魔物そのものに変化してしまうから。
天使は死なない。
エリートも、ガーディアンも。
レスキューも。
魔物へと変貌を、遂げるだけ。
天使は死なない。
天使でいられなくなるだけ。
死ぬ、とは言わない。
落ちる、と言う。
そうして、魔物は増殖する。
魔物を消せるのは、唯一、レスキューがふるう大剣のみ。
レスキューは文字通り、天使救出のためにしか、大剣の使用を許されていない。
魔物殺戮のためには、ふるえない。
それが、ルール。
ルールを破れば、レスキューは、落ちる。
天使では、いられなくなる。
天界の門は、狭く。
魔界の門は、広い。
天使は、希少。
だからこそ、貴重。
その天使を救うため。
レスキュー天使アンドラーシュは、魔界へと降り立つ。