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閑話 とある学生視点

私が『彼』と出会ったのは、丁度一週間程前の事だったか…

確かあの日は、季節外れの豪雨の所為で、一日中木の下でうずくまっていた

私は木の下の「くぼみ」に身を隠し、濡れた毛布を枝に引っ掛けた簡易な屋根で、滝のように降る雨を凌いでいた

……そんな時だ、轟音と共に、全身を今まで感じた事の無い衝撃が貫き、私は意識を失った

人生で初めての気絶だった

目が覚めた時、雨は更に酷くなっていて、体が倒木の下敷きになっていた

私は雨に打たれながら、夢心地で暫くほうけていたが、体中から訴えられる痛みと共に、徐々に意識がハッキリとしてきた

雷が落ちたのか…というのが、意識が戻った私が、最初に理解した事だった


私は荷物の無事を確認しようと、痛む体を少し捻った、そして、それと同時に言いようの無い激痛が私を襲った

声すら出せなくなる程の、体が千切れたのかと錯覚させる激痛だった

改めて考えてみれば、倒木の下敷きになっていたのだ、生きている方が不思議なものだ

倒木の下で、仲間も居らず満身創痍、更に豪雨で体温も下がっていく……不覚にもあの時は涙が出たものだ

この森に来てからの調査で、それほど凶暴なモンスターが居ない事は知っていたが、身動きがとれない上、満身創痍の体とくれば、野垂れ死にの可能性が非常に高く……

……嫌な未来が頭をよぎり、不安だった感情が溢れたのだろう

涙がポロポロとこぼれ落ち、父と母の名前を何度も何度も呟いた、死にたく無いと、普段は非科学的だと思い信仰していなかった神にも何度も祈った

だが、そんな私に追い討ちをかけるように、パチパチという音と熱が襲ってきた

…雷が木に落ちているのだ、普通に考えてみれば、火がついていてもまるでおかしく無いわけだ

半身は雨でぬかるんだ泥でグチャグチャ、また半身は今にも炎にまかれてしまいそう、体は節々が悲鳴をあげて、動けば激痛が走る……笑いがこみ上げる程絶望的な状況で、いよいよ私は声を上げて泣き出した、恥も外見も、こんな森の奥地では関係無いだろうと、まるで子供だった頃に戻ったように泣きじゃくった


――コンナ所ニイタノカ――


雨と、私の泣き声で、若干かき消されていたものの、確かにその声は私に聞こえた

まるで虫が無理に人間の言葉を喋ったかのような、生理的に嫌悪感が湧き上がる声だった


――今、ドケルカラ――


雨と私のしゃっくりで、若干かき消されていたものの、確かにその声はどけると言った

次の瞬間、体を圧迫していた感覚が無くなり、肌を焼くような熱さも消えた

信じられない事だが、声の主は1人で倒木を持ち上げたらしかった

私はなんとか首を動かれ、声の主を観た

そして――

「ひぃっ!」

――声の主の、あまりに恐ろしい外見を直視してしまい、失神した

――――――

――――

――


……次に目が覚めた時、私は洞窟の中に居た

それもただ洞窟の中に居たのではなく、荷物と服が焚き火で乾かされ、私は肌着のみとなって寝かされていたのだ

…あの時は混乱したものだ…なにせフと気がつくと洞窟の入口あたりに例の声の主が居たのだから

声の主は、まるで虫と人とを融合したかのような、異様な姿をしていた

…あの時は怖かった…彼がモンスターにしか見えなかったからな

声の主…彼は私が目を覚ましたのに気が付いたらしく、私に近づき、こう喋り出した

「大丈夫カ?ドコカ痛ム所ハ?」

私がその時、自分がどんな顔をしていたのかを彼に聞いてみたのだが、鳩が豆鉄砲をくらったような、キョトンとした顔をしていたらしい

「薬ハ持ッテイナイノカ?」

そう心配そうに聞く彼を見ていると、何故だかホッとして、また泣けてきた

私は半分泣きながら荷物の中に緊急事態に備えた秘薬があるのでそれを渡して欲しいと伝えた

彼はすぐに荷物の中から秘薬を取り出し、持って来てくれた

…彼はどう観ても亜人というよりはモンスターという見た目だったが、本当に優しかった

私が秘薬を飲ませてくれと頼めば、少しも嫌がったり惜しんだりせずに飲ませてくれた

割と高級な秘薬なので、私にトドメを刺し、薬屋にでも売ればそれなりどころか、かなりの儲けになる筈なのにだ

結局、彼はそのまま私が元気になるまで看病を続けてくれた


そして、私が元気になった頃には雨も上がり、服も荷物も乾いていた

……元気になった頭で考えてみると、亜人とはいえ、異性に肌を晒し続けていたという……更に普段なら絶対に人前で見せない泣き顔まで見られてるという……あの時、実はまた泣きたくなっていたのは秘密だ

私がそんな事を考えていると、彼が『あること』を聞いてきた

私の服装についてだった

確かに私の服は、世界には出回っていない特別なデザインで、服について聞かれる事は珍しい事ではなかったのだが、彼の場合は何時もと少し違っていた

「ソノ白衣ハ…ヤッパリ君ハ…」

彼は私の服の名前が、白衣だと分かっていたのだ、私の通う『大学』の、それも教授と学者志望の生徒しか着る事を許されない服の名前を

「ドウカ、俺ヲ『大学』ニ連レテ行ッテクレナイカ?」

…そもそも、彼はどこで『大学』の事を知ったのだろうか?

あの『大学』が、情報を漏らすとは思えないのだが…関係者なのだろうか?

私は彼に事情の説明を要求してみる事にした

「…コノ『ノート』、ソレト地図ヲ見テクレ」

そうすると、彼は一冊の古ぼけたノートと、ボロボロの地図を渡してきた、彼の荷物はこれだけのようだ

「ソノ『ノート』ノ中ニ書イテイル事、君ナラ解ルダロウ」

……そのノートには、今私が大学で学んでいる、【人工的な人間の進化について】のレポート、そのまとめが記されていた

彼は…このノートに記されている実験の被験者なのだ

いや、彼はただの被験者じゃあない…被験者にして、この実験の考案者だ

…本当にこのノートに記されている事が真実なら、なんておぞましい事だ

彼は知っているのだろうか?

自らの体内にある石の重要性を

こんな…デタラメな…

「……わ、判りました…『大学』へ案内します」

コレが、一週間前の私と彼の出会いだ

まさか彼に、手術前の記憶が無く、殺される為に『大学』を目指し、教授を探していたとは…

話を聞いた時は驚いたものだ

贖罪か…私には現実逃避にしか思えないのだがね

まあ、彼の決めた事だ、私がとやかく言う必要は無いだろうが……一週間一緒に過ごしたせいで、彼が死ぬのに少し抵抗があるな…情でも移ったか?

「今更…だな」

「ン?ナニガダ?」

「いや、何でも無い、それより此処だ、教授の部屋は」

私は数ヶ月ぶりにその戸を叩いた


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