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7話

暗い…暗い部屋、ただ俺の心臓の鼓動だけが響いている、暗い部屋


明かりも無く、鼓動以外の音も無く、あるのは古ぼけた机とおびただしい数の本だけだ


そんな部屋の隅に、俺はここ3日程の間、ずっと座り込んでいた

とは言っても、既に俺には時間の感覚は無く、座り込んでいた時間が、一時間なのか、1日なのか、一週間なのか…それすら分からないのだが…


あれからずっと、俺は考える事を放棄していた

ずっと、部屋の隅で震えていた

頭をよぎるんだ、あの少女の…変わり果てた……

――前の世界で、初めてゾンビを見たのは、一体いつだったか

小さい頃、テレビで人を喰らうゾンビを見た時は、夜寝れない程恐ろしかったのを覚えている

だが中学生にもなると、『架空の存在』に対する恐怖心も薄れ、ゾンビはゲームの中で簡単に殺せる雑魚と化していた

コントローラーのボタンを押すだけで、画面の中のゾンビは殺せるのだ、そりゃあ恐怖も薄れるだろう

それでも時々、前の世界で考えた事がある、それが俺に僅かに残った恐怖からの想像なのか、それとも架空の存在に憧れる人の本能なのか…それは判らないが…現実にゾンビが居たらどうなるだろう…と


その考えが今になって実現してしまった訳だ、見知った人達が【ソレ】になるという…

――【ソレ】?ああ、まだ現実を見ないでボカしているのか――

頭の中に、『俺』の声が響く

自分が自分に語りかけられているような、奇妙な感覚だ

――あれはどう見ても……ゾンビだったじゃないか――


「ウッ!オゲエェェェ!ゲホッゲホッ」

また吐いてしまった、これで何回目だ?

ビチャビチャと床に液体が落ちる音が、すぐにシュウシュウと床が溶ける音にかわっていく


「……帰リテェ…」

この言葉も、一体何度言った?

この言葉を吐くと、決まって感情が抑えられ無くなる

「俺ガ…何シタッテンダヨ……」

ほぅら、また逃げに走った

そうだよ、俺は何もしてないんだよ

自分でやるって決めた事も、何もかも、全部やって無いんだよ

ヒーローになる?笑わせるなよ

高校すらマトモに卒業できなかった奴にそんな重責が背負えるワケ無いだろ

俺が『ヒーローごっこ』なんてしてた結果が、村人達を……

村人達をゾンビにする事になったんじゃないか

何でだ?なんで最後まで護らなかった?

悪い気がした?ふざけるなよ

結局俺の自己満足だったんじゃないか

あの姉弟の少女の目を見たか?深く、青かった綺麗な目が、濁り、曇り、白くなっていたじゃないか

あの村の人達はあの後どうした?傭兵達に焼かれて処分されたのか?

そりゃあ処分されたのだろうな、既にゾンビなんだから!…モンスターなんだから…

…結局、俺は何がしたかったんだよ…

あの人達を…どうしたかったんだよ

助けたかった?なんて上から目線な考えだ、ヘドが出る


……『ヒーロー』は、こういう事も割り切れるのかな?……

ウルトラマンみたいな凄い力があったら…いや、今の俺の体って…十分凄いじゃん

結局、俺は言い訳言ってるだけじゃん

…コスモスみたいなヒーローだったら…なんとか出来たのかな?

ロールシャッハなら妥協しないんだろうなぁ

五代雄介ならどうしただろうか

『ヒーロー』になろう!…なんて意気込んだ割に、やってる事も、その在り方も、ヒーローでも何でも無かったなぁ、俺


これから…どうしようか…

…まだ『ヒーロー』を続けると?ムリムリ、出来るはずないよ

所詮、俺のは『ごっこ』遊びだし

既にこんな事考えてるし…ホント、何なんだよ俺

…もう、この世界に俺が居ても意味無いんじゃ無いか?

とは言っても、この体じゃ自殺も出来ない

どうしたものか…

――パサッ パラパラ

……ははは、どういう事だよ…

どうしたものか…なんて似合わない事考えた瞬間これかよ

本棚から一冊のノートが落ち、さらにご丁寧にページまで捲れたよ

このタイミングでこんな事が起きると、もうゲームみたいだな、笑うしかないよ

視力もずば抜けたこの体のお陰で、わざわざ見に行かなくても一字一句見えるし、ホントどうなってんだ?なんだよこの親切なイベントは

ノートには俺の体を造った人が移り住んだ場所の情報が書かれてる…行けって事かよ…はは

……でも、造った人なら…壊せるかな?……


ああ、ダメだ、地図がわからない

この国の名前なんていったかな?

本に書いてる地図、前に授業でやった事あるよ、確か

何だったかな?

日本がここで…今居るのがここ……インド…じゃない……分からん

まあ、いいや、南東だ、南東

…東南?南東?…どっちでもいいよ

南東に行こう

それで、もうこの体…壊してもらおう

壊してもらったら、意外にも目が覚めて、いつもの生活に戻ってたりしてな…はは………

……それじゃあ…行くか……


…人を助ける事が出来る…そんなヒーローになりたかったなぁ


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