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3話

結局、俺は翌日からあの村をしばらく観察していた

もし目を離して何かあったら、助けた意味がないからな

そうして観察していると、人間という生き物は強いという事を思い知らされた


最初はまだまだトロール達に対する恐怖が目にみえて残っていた村人達だったが、日が経つにつれ、徐々に活気が戻ってきていたのだ


毎日村の近くの木の上からひっそりと見守っていた甲斐があった

それと余談だが、トロール達もまた逞しかった

俺という理不尽な力に蹂躙されたトロール達は、その数が半数以下にまで減った筈だった

だが、村の近くに行くとき、ちょいと巣を覗いてみると、そこには前ほどではないが数を増やし、ユニコーンを貪っているトロール達の姿があった

もっとも、俺の姿を見ただけで慌てて逃げ出すようになっていたが…


しかし両者が逞しいのは良い事なのだが、生活圏がこうも近いと、また同じ事が起きるんじゃないだろうか?

何せ村と巣、距離はほんの数キロしか離れてないのだ

それに人間より力が強く数も多いトロール達にとっては、あの村は絶好の餌場だろう

…何にせよ、前と同じ事になるのだけは防がなければならないだろう

とりあえず俺は同じ事が起こるのを回避する為、村に交渉しに行く事にした、何も思い浮かばなければ行動あるのみ、そう思っていた

…だが、その考えは少々甘かったようだ

俺はここの村人達を助けた時、まともに会話が出来ていたので、今回もまともに会話が出来ると思っていたのだ

だが、現実は違った

村人達は俺の姿を見た瞬間に悲鳴をあげ、家に閉じこもるのだ

確かに今の俺は怪人顔だが、それでも一度会話した相手にあの脅えかたは異常といえないだろうか?

しかしそのまま村に居てもしょうがないので、一度研究室に戻り、考える

どうすれば脅えさせないで会話ができるか…

そうして考えているうちに、俺の考え…興味は、研究室にあった白紙のノートに移っていた

少々色が黄ばんでいるが、現代の紙に劣らないような出来の紙の質だ

よく観ると、おびただしい数の研究記録は、それが新しくなればなるほど、紙の質が良くなっている

更に研究記録を読み直すと、おかしな事に気がついた

最初の研究記録の日付から、最後の研究成果の日付まで、およそ百年も経っているのだ

コレはおかしい、明らかに異常だ

俺を造ろうとしていたのは人間の筈だ…それなのに百年…研究を続けたと言うのか?



…まあ、異世界だしな、人が百年や二百時生きるなんて事もざらにあるかもしれない…そう自分を納得させた時、俺は雷にうたれたかのように閃いてしまった

俺はその圧倒的な閃きに従い行動を開始する

まずは白紙のノートを手にとり、ペンとも筆ともつかないモノで用件を書く、続いて村の村長らしき人物を発見、その人の家の隙間にコッソリとノートを入れておくのだ

これで朝、気づいたかを確認し、気づいているようなら書いた通りに、気づいていないならもう一度書こう、我ながら名案だ

ちなみに書いた内容は『話があるので隠れるな』だ


※※※

朝、どうやらノートに気づいていたようなので、そのまますぐに会いに行った

すると村人達はガタガタと震えながらも隠れないでいてくれた

…きっとトロール達の件で、俺が自分でも信じられないくらい暴れてたから、それに脅えているのだろうか?それとも助けた見返りでも要求したりすると思っているのだろうか?

とにかく俺は村人達に敵意が無いことを懇切丁寧に、それも数時間かけて説明した

それから村人達が落ち着いたのを見計らって、トロール達との生活圏の問題について説明した


村人達は、トロール達がまた来るかも知れないと知り、1も2も無く村を出て行く事を決めたようだ


……村人達の顔に恐怖と失意の色がみえる

やはり長年住んでいた村をトロール達のせいで離れなければいけないのが悔しいのだろうか?

いや、悔しいとも思えないのだろう

あれほどの事があったのだ


なんとか出来ないのだろうか…

話を聞けば、この村は比較的最近出来たらしく、トロール達の存在は誰も知らなかったそうだ

…別に長年住んでいた訳じゃ無いのか

…とにかく俺は、村長にこれからどうするのかを尋ねた

すると、俺が西の方で見つけたあの公道を通り、村人全員で町を目指すと答えてくれた

という事は…またあのトロール達の巣を横切るのか…

しかもあの辺にはヤマタノオロチも居た筈だ

正直、この村の人達だけだと厳しいんじゃないだろうか…

俺は村長に、町に着くまでの村人達の護衛を申し出てみた

ダメだと言われてもコッソリついていけば良いし、良いと言われたのなら堂々と一緒に行ける

早い話がどっちにしろ着いていくという事だ

村長は村人達と話し合って決めると言い、俺にここで待って居るように告げると、村人達と一緒にゾロゾロと家に入って行った

俺は路上に放置された訳だが、子ども達の視線をあちこちから感じる

やはり俺は珍しいのだろうか?

俺は黙ってその場に立ち続けた

すると一人の小さな男の子…7歳くらいか?…が近づいてきた、少し震えていたので、俺は出来るだけ優しく、『何ダ?』と尋ねてみた…もっとも、怪人顔なので優しく言っても一緒かも知れないが…

すると少年は、震えながらも俺を睨みつけると、『なんで…もっとはやくたすけてくれなかったの?』と、ポツリと言った

俺は思わず目を見開き、黙ってしまう


…そうだ、この少年の家族や友達も、何人かは犠牲になったのだろう…

俺がもっと早く行動していれば…助けられたかも知れないのに…俺はアホか

俺が黙っていると、少年の姉だろうか?少女が駆け寄ってきて、その少年の頭を叩きながら、震えた声で『弟の無礼な発言を許してください』とだけ言い、頭を下げた

俺はその震える姉弟を見ながら、漠然とした思いで自分の行いを考えていた

俺の行いは、確かにこの村の人達の命を救えたハズだ、だけど、この村の人達の心には、深い傷が残っている

きっと、今すぐ死にたい人も居るだろう、まだまだ生きたかった人も居るだろう

活気が戻っていると俺が思ったのも、きっとそう振る舞っていないと、やってられなかったんだろう

…俺にはどうする事も出来ない問題だ

『スマン』

気が付くと、俺はしゃがみこみ、少年に謝っていた

――この体は人間を基本(ベース)に造られている為、喋る事は出来る、だがその声は歪でおぞましい声だ――

目の前の少年に、ひたすら謝っていた

遅れて、すまなかったと

歪な声で、おぞましい声で

俺はひたすら謝っていた

俺には、謝る事しか出来なかった

…何時の間にか、少女が俺の肩に触れていた

『もう、充分ですから』

少女は俺にそう言った

声の震えは、もうなかった

『…どうしてアナタは…私達を助けてくださったんですか?』

少女は、俺にそう尋ねた

震えは無い、真っ直ぐに俺の目を見ている、深い碧色(あおいろ)をした、綺麗な目だ

『…タダ、トロール達ノ行イガ許セナカッタ

理不尽ニ命ヲ弄ブトロール達カラ、キミ達ヲ守リタカッタ』

嘘は言ってない、この体になって…最強の存在になって…俺は自由になった

だからこそ俺は、理不尽な悪意を…出来事を壊したかった


この力なら、それが出来ると…そう思った

だが俺は、テレビのヒーローみたいに、みんなが笑顔でいられるようには……

『――ありがとう』

ふと、少女がそう言った

『ありがとう』

今度はさらにはっきりと

自然に俯いていた俺は思わず顔をあげ、少女の見た

そこには、年相応の笑顔をした少女が居た

気が付くと、少年の震えも止まっている

さらに俺達の周りには、いつの間にか子ども達が集まっていた

『ありがとう』

また、別の子が俺にそう言う

どの子も、遅れて来た俺を責めるような事は言わない

…この体は、人間を基本(ベース)に造られている、だが、人として残っている器官は少ない、殆どが別のモノになっている

俺は、泣けなかった

この体には、涙腺が無いみたいだ


俺は…自分が情けないと思った

防げた事を防げずに、それで妥協した自分が情けなくて仕方がなかった

俺は、その場に立ち尽くすしかなかった

……しばらくすると、村長達が出てきて護衛を頼むと言ってくれた

『今度ハ、絶対ニ守ル』

俺は子ども達にそう言った

これは誓いだ

俺は、子ども達の笑顔に応えたい

遅れてきた俺に…助ける事が出来なかった俺に…ありがとうと言ってくれたこの子ども達に応えたい

…元の世界で、こんな気持ちになった事があっただろうか


その日、俺は村に泊まった

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