第三話
ある寒い日の夜、由緒が帰宅すると、繭子が青い顔をしていた。
「ものくろが、・・・・何にも食べないよ。・・・・どうしよう」
見ると、いつものように炬燵掛けの端に丸まっているものくろは明らかに衰弱して、しかも小刻みに震えていた。
口の周りには不自然に出た涎のあと。目は固く閉じられている。
「ど、どうした?何かあったのか?」
「わからない。・・・風邪なのかな、と思って薬を買って飲ませても、ちゃんと飲めないの」
由緒は着替えるのも忘れて、ものくろの傍に膝をついて、触る・・・・・
ものくろは前後の足こそ抱え込むようにキュッとしているが、首や尻尾は力なくだらっとしている。
声をかけても全く反応はない。耳も動かない。
(振るえているってことは寒いんだろうけれど、この様子は普通じゃない)
「マユ!ものくろに毛布をかけてやろう。それと、暖かいミルクだったら飲めないかな?」
「わかった、あげてみる」
繭子はキッチンへと小走りで向かう。そのあいだ、由緒はノートパソコンを開き、ネットを繋ぐ。
(どこか開いている病院はないか?)
今の時刻はPM20:40。普通に考えればどこだってやっているはずはない。
それでも、由緒はそうせずにはいられなかった。ものくろのことが心配だった。
4つの病院が、見つかった。ただ、どこも診療時間外である。構わず、4つ全部に電話をかけた。
2つは留守電が対応した。つながった2つのうち、一方はとりあってもくれずに切られた。
もう一方も同情の言葉をいくつも並べて、しかし最後は「他を当ってください」と断られた。
・・・八方塞がりだった。由緒は見捨てられたような気持ちになって、急に悲しくなった。
そうしているあいだも、ものくろはガタガタと震えている。繭子が持ってきたひと肌のミルクを飲むことも、見ることもできない。
「ユウ、・・・どうしよう?」
何かできることはないか、と誠意一杯頭を働かせるも何一つも考えが浮かばない。それが、自身の不安をさらに煽った。
・・・・・・結局、由緒はどうすることもできず、その夜はものくろの隣で眠ることにした。
それができる唯一のことに思えたから。
繭子も同じ気持ちだったのだろう。彼女も炬燵で横になる。
ものくろを間に挟んで二人が向い合せになるように寝転んで、・・・じっと見つめて。
弱弱しく震える身体に少しでも自分達の力が流れて行ってくれないか、と強く願って。