公爵令嬢、遠乗りする。
青い空、白い雲。
今日は秋晴れの上天気だ。
絶好の遠乗り日和である。
「さて行こうか」
今日は勉強やダンスのけいこは休みだ。
「ふふふふ~ん」
肩までのショ-トヘア
毛先に行くにつれ、ほんの少し桃色かかった白髪。
少し細めの蒼い瞳。
スレンダーな身体にぴったりとした乗馬服。
身長は百七十センチくらいか。
年齢は十代前半。
マキナ・デ・ハヴィラント公爵令嬢である。
「おや、マキナお嬢様、お出かけですか」
老練なる執事、ミハイルが聞いた。
廊下に立つ姿勢は恐ろしく良い。
「うん、ちょっと遠乗りに行こうと思ってね」
横を歩きながら言う。
「ほほお、どちらまで」
ミハイルがななめ後ろをついてきた。
「うん、セイレン湖まで行こうと思うの」
少し振り向きながら言う。
「おお、秋の湖の道は気持ちがいいでしょうなあ」
ミハイルはゆっくりとついてくる。
「でしょお」
――ふふふん、着いた
マキナは、目の前の扉に手をかけた。
扉を開けると我が愛馬が目の前にあった。
◆
排魔量1000ccの縦置きVツインエンジンを前後向かい合わせに配置した、2000cc空冷縦置きV型四魔筒のモンスターエンジン。
前輪と後輪をそれぞれ1000cc縦置きVツインエンジンがドライブする前後二輪駆動。
各タイヤにはシャフトドライブでパワーをアクセス。
シャフトの回転を反対にすることでシャフトの回転モーメントを軽減。
回転をあげると車体が左右に傾くのを最低限に抑えている。
前後片持ち、油気圧サスペンション。
悪路にも強く美しいスポークホイール。
オンオフ両対応のタイヤ。
予備タイヤが後部キャリアに横向きにつけられている。
このキャリアは横に展開してサイドカーの船。
予備タイヤはサイドカーの三つ目のタイヤになるのだ。
四角くて低くて大きい。
この魔動馬の名を、”デ・ハビラント、スクランブラー2000X”と言った。
◆
「マキナお嬢さま、昼食の弁当を用意いたしました」
バスケットを持った侍女。
「ありがとう、セナ」
彼女の専属侍女のセナである。
少し年上の黒髪黒目の侍女だ。
ほんの少し背が大きい。
彼女とは幼いころからに付き合いだ。
「OHVエンジンのプッシュロッドにミスリルを入れてみたの」
「まあっ」
「試作品よ」
公爵家が経営するデ・ハヴィラント重工の試作品だ。
◆
このエンジンはOHV方式である。
OHVはカムシャフトがシリンダーの根元にあり、シリンダーヘッドまで長い棒が伸びている。
この棒がバルブ(エンジンの入り口と出口のふた)の開閉をするのだ。
ちなみに、OHCはシリンダーヘッドにカムシャフトがある。
DOHCは吸気用と排気用に二つカムシャフトがあるのだ。
◆
「さらに、サスにはオーリンズを入れたの」
「それはようございましたねえ」
セナがティーワゴンに昼食のサンドイッチの入ったバスケットとピクニックセットを入れた。
ピクニックセットは中にティーカップやティーソーサー、お皿などが入った、小さなトランクだ。
◆
ティーワゴンの荷台には、異世界から伝わったといわれる、OKAMOTIシステムが搭載されている。
ラゥメンやウゥドンをのせてもこぼさないという一品だ。
スクータータイプで古風な侍女服のロングスカートでも両膝をそろえて乗ることが可能だ。
前輪二輪後輪一輪(←LMW:Leaning Mukti Wheelテクノロジー)、155CC、短魔筒油冷原動機を床下に水平に設置。
フロントカウルは後部まで伸びて屋根になった。
彼女のティーワゴンは、技術大国、ジャポネのスマハ製、”トリシティ155SX”といった。
未舗装路も走るお嬢さまについていくために、車高をアップ、タイヤはオフ寄りの選択だ。
◆
「エンジンをかけるのを手伝って」
「はい、お嬢さま」
向かい合う二つの巨大な1000CC、Vツインエンジン。
メインスイッチオン。
その間にあるスターターにL字クランクを差し込んだ。
ティクラーを押し込みキャブレターに。”燃焼”を付与したマナをあふれさせる。
「回すわよ」
「はい」
グウウ
二人が全身を使ってL字クランクを回す。
グウウウウウ
エンジンから響く重低音。
ゥウウウズドウン
左右二本出しのマフラーから盛大に火を吹き出す。(←アフターファイヤー)
「かかったわっ」
ドロッ、ドロッ、ドロッ
いまにも止まりそうな低くてゆっくりとしたアイドリング。
マキナがシートにまたがる。
「少しお待ちくださいませ」
セナがすかさず、前輪二輪、後輪一輪の原動機付きティーワゴンに座る。
カチャリ
キーを回し、
キシュルルン
スターターを一度押す。
スマハ独自のワンスイッチスターターだ。
スターターボタンを一度押すだけでエンジンがかかるのだ。
トントントン
静かで軽快なエンジン音が聞こえる。
セナの原動機付きティーワゴンのエンジンがかかるのを見て、
「じゃあ行こうか」
左手でクラッチレバーを引き、
ガキン
右手でタンクの横に突き出したシフトレバーを、ニュートラルから一速へ。
ハンドシフトなのだ。
左足のフットペダルは前後輪同時ブレーキ。
右足のフットペダルは後輪ブレーキ。
右手レバーは前輪ブレーキ。
昔のモト〇ッチによく似た機構である。
ドロウン
トルクの塊である2000CCエンジン。
右手のアクセルを開けずとも、クラッチを当てるだけで何事もないように前に進む。
少し前に進むとぺたりと下部のカウルを地面につけていた車体が、油気圧サスペンションにより、走行位置まで上がった。
身長の低いマキナは、またがると地面に足はついていないのである。
ドロロロロ
石畳の屋敷を抜け、デ・ハビラント領都の道を時速60キロメトルくらいの速さで走る。
有り余るトルクは一速で十分だ。
城門で一度止まる。
「お姫様。お出かけですか」
「今日は晴れそうですね」
「どちらへ」
と門番に声をかけられた。
「湖へ」
「行ってらっしゃいませ」
「お気をつけて」
なだらかで黄緑色の下草が生える丘陵地。
石畳の道を走る。
「少し飛ばしますわぁ」
サイドミラーでセナがついてくるのを確認して声をかける。
「はい、お嬢様」
ド、ド、ド、ド、ド
アクセルを開け、クラッチを切り、
ガキン
シフトレバーを手前の二速に。
クロノメトリック方式のSUMITHS製機械式メーターがカチカチと時速80キロメトルを指す。
オーリンズ製の油気圧サスが石畳の凹凸を吸収していた。
「ふふふ~~ん、新しく入れたサスはいいわね」
ギアを三速へ。
さらに増速。
ドドドドドド
メーターは時速120キロメトルを指した。
「加速もスムーズになったわ、チタンコンロッドのおかげね」
「わああ」
目の前にセイレン湖が見えてきた。
キラキラと光る水面の歓声を上げるマキナ。
「美しいですね、お嬢様」
セナも答える。
湖が一望できる展望台に愛馬とティーワゴンを止めた。
「お昼にしましょう」
セナがOKAMOTIから昼食を出す。
レジャーシートを景色のいい場所に引いた。
「わあい」
マキナとセナが、景色を楽しみながら、美味しそうにサンドイッチを食べた。
食後湖の周りを一周して領都に帰る。
マキナは青空の元、存分に遠乗りを楽しんだのである。




