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第1話


「こんばんは、が言えない」


「……ぁ、っ……」


コンビニのレジで、また声が詰まった。


店員の高校生バイトが、一瞬だけ困った顔をする。


僕はその顔を見るたび、

「あぁ、またか」

と思う。


ホットコーヒーひとつ頼むだけなのに、

喉の奥で言葉が渋滞する。


後ろに並ぶ客の気配が怖い。


早くしろ。


そう言われている気がする。


もちろん誰もそんなこと言ってない。

でも、不安障害ってそういう病気だ。


“現実”より先に、

“最悪の想像”が始まる。


「……ホ、ホット……」


やっと出た声は、自分でも驚くほど小さい。


店員が聞き返す。


終わった。


僕の脳内で警報が鳴る。


耳が熱い。

視線が痛い。

逃げたい。


「……すみません、やっぱ大丈夫です」


そう言って逃げるように店を出た。


買えなかった。


また。


情けない。


六月の夜風が、妙に冷たかった。


コンビニ前のベンチに座り、スマホを見る。


通知、ゼロ。


LINEも来てない。

SNSも静か。


でも僕は、誰かと繋がりたくて、ずっとスマホを握っている。


だったら話しかければいいのに。


それが出来ないから、こうなってる。


その時だった。


「……また逃げたんだ」


突然、隣から声がした。


びくっと肩が跳ねる。


いつの間にか、女の人が座っていた。


黒いパーカー。

眠そうな目。

コンビニ袋にはエナジードリンクが二本。


年齢はたぶん同じくらい。


「え?」


「いや、なんとなく。そういう顔してる」


失礼な人だ。


でも否定できない。


彼女は僕を見ないまま言った。


「私も、コンビニで“箸いりますか?”が怖いタイプだから」


思わず吹き出しそうになった。


そんな人、本当にいるんだ。


「……わ、わかります」


「あ、今ちょっと笑った」


「え」


「その顔のほうがいいね」


心臓が変な音を立てる。


知らない人と話してる。

しかも会話が続いてる。


普通の人なら当たり前のことなのに、

僕にとっては奇跡だった。


彼女は空を見ながら呟く。


「眠れない人ってさ、夜のコンビニに集まるんだよ」


その言葉を聞いた瞬間、

少しだけ世界が静かになった気がした。


自分だけじゃなかった。


その事実だけで、

救われる夜もあるんだと思った。



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