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朝起きたら父親になっていた ~転生物騒女が異世界に捧げる、最凶の新時代憲法~

挿絵(By みてみん)

 【魔王城】在住で製材所勤務の俺は、


 【魔王】ナーセル 24歳。


 異世界からやってきた物騒女ナイラとそこそこ楽しい同棲生活をしている。

 何故に結婚ではなく同棲なのかと言うと、彼女の実年齢が16歳だったので【婚姻届】が受理されなかったのだ。


 それでもナイラはあまり気にすることなく、【専業主婦】を自称して手の込んだ料理を作ったり裁縫をしたり小説を書いたりと【魔王城】での生活を楽しんでいる。


 4つの国では、不●兵士1ダースによるクーデターが完了した。

 ナイラの持つ【鳳凰皇帝爆撃弾フェニックス・ツァーリ・ボンバ】の目を借りながら、官民問わず不穏分子を容赦なく粛清。

 逃げも隠れもできない現実を悟ったのか、抵抗勢力はすぐに無くなり彼等は政権を掌握した。


 このクーデターにより世界の枠組みも少し変わり、東西南北4つの国は【魔王】が統括する属国とされた。


 つまり、【魔王】を名乗っている俺が世界の王ということだ。

 なんかすごいことになってしまった。


………………

…………

……


 不●兵士1ダースが【魔王城】に来る日は、俺は製材所の仕事を休んで【魔王】の仕事をする。


 今日は【新憲法】の制定会議。


 会議室にて、彼等から【新憲法草案】を受けとる。

 分厚いファイルを開いて、細かい文字を読む。

 ポンコツな頭では無理と悟り、ナイラにファイルを渡す。


 いいんだ。

 俺はできる事をすればいいんだ。


「噛みちぎりたいですね」

「ええっ?」


 読み終わったナイラが暴言を吐きながら窓からファイルを投げ捨てた。

 そして、ファイルは閃光を放ち跡形もなく消える。

 いつぞやの恐ろしい火魔法を見て兵士達が驚く。


「ナイラ様! 一体何がいけなかったのでしょうか!」


 【新憲法草案】が気に入らなかったのか?

 彼等ならナイラが納得するもの作ると思ってたけど。


「資本主義の暴走が前首相達のアタオカ行動を招いたからと言って、憲法を経済活動の規定集にしてどうしますか? 憲法ですよ? 他に考えること無いんですか?」


 よっぽど気に入らなかったのか、ナイラが辛辣だ。


「でも、国の運営には経済活動は重要です。各国の専門家の知見から共産主義と資本主義の利点を組み合わせた健全な競争による持続的な発展を実現するための手法をですね」

「社会に対する考え方が根本的にズレてます。一からやり直しです」


 兵士達がしょげている。

 頑張っただろうに。ご愁傷様です。


「だったら、どう作ればよいのでしょうか?」

「皆さんは女を口説くときに【どうしたら付き合ってくれますか?】って聞くんですか? だから【●能】なんですよ」


 本当に辛辣だ。そんなに気に入らなかったのか。

 兵士達が絶望的な表情になったぞ。


「私は口説かれた事はありませんがね。姉と違って容姿は褒められたのに」


 会議室に緊張が走る。

 お前ら。笑うなよ。ツッコむなよ。

 こういう時のナイラはめんどくさいんだ。


「ブフッ」


 東国の兵士の1人が空気に耐えられず噴き出した。


 気持ちは分かるけど、そのリアクション! アウトォォォ!


 ナイラがエプロンのポケットに手を入れた。

 昨日台所で作っていた【すごくイヤな形】に成型したコンニャクを出すつもりだ。ウズラ卵も用意していたから、とんでもないブツが出る。


 【魔王】の品格を守るためにも阻止せねば。


「うおりゃぁぁぁぁぁぁ!」

 「うわぁぁぁぁぁぁ!」


挿絵(By みてみん)

 俺は噴き出した兵士を掴んで窓から投げ捨てた。

 そして、予測した通りのブツを取り出して唖然とするナイラにツッコミ。


「そういうネタは自重してくれないかな。俺が【下ネタ魔王】って呼ばれてもいいのか? ナイラには分からないかもしれないけど、男目線だとそういうの地味に痛いんだよ」


「ああいう無茶は自重してください。【傷害魔王】って呼ばれてもいいんですか? 最強戦士には分からないかもしれませんが、普通の人間は3階から落ちたら痛いじゃ済まないんですよ」


 ぐうの音も出ない。

 

 兵士達の視線が俺に集中する。

 このままでは本当に【傷害魔王】になってしまう。


「降りて治療してきます。議論を進めていてください」

「お手数おかけしますが、よろしくお願いします」


 ナイラが会議室から出て行った。

 投げてしまった彼には後でちゃんと謝ろう。

 そして、俺も頑張って議論を進めよう。


「えーと、議論の前に聞きたいんだけど、【共産主義】や【資本主義】って何?」


 兵士達が微妙な視線を送って来る。

 ポンコツ頭で、本当にゴメン。


…………


「結局は、お金に対する考え方の違いということでいいのかな?」

「まぁ、簡単に言えば、そういうことですね」


 会議用テーブルから壁際の黒板前に場所を移して皆で立ち話。

 11人の兵士達から小一時間ほど講義を受けて、ちょっとだけ分かった。


 でも、どちらでも働いて給料をもらうのは同じなので大して変わらない。

 重要なのはそこじゃない。


「なんかこう。皆して【お金】を神格化しすぎじゃないかな? 手段を目的化しているように見えるぞ」

「いやでも、社会を構築するには経済システムの設計は重要ですよ」



 俺の故郷は狩猟と畜産で生計を立てている村だった。

 仕留めた獲物を解体したり、飼育している家畜の出産を手伝うのが日常だった。

 生と死が身近にある中で、人間の生物としての弱さを感じて生きてきた。


 牛や馬の子供は産まれた直後に立ち上がることができる。

 母子共に群れの中で生き延びるだけの力を持っている。


 でも、人間は違う。

 人間の新生児は獣に比べて弱すぎる。


 こんな弱い生き物が、過酷な生存競争の中で滅びなかったのは何故か。

 長年疑問に思っていたことだけど、ナイラの書いた壮大な小説が答えをくれた。


【人類の始祖となる女達が妊娠出産時の弱さを補うために数千年かけて男を夫に品種改良して文明社会を作り上げていく話】


 人類は二足歩行への進化により自由に使える両腕と大きな頭脳を獲得した。

 しかし、その代償として出産時に無防備になる致命的な欠陥を抱えてしまった。


 この欠陥を克服して子孫を残すため、女達は考えた。

 群れの頂点に立てる強い男ではなく、女子供を守れる優しい男を選ぼうと。


 そして、結婚や夫婦という概念を創造した。

 産み育てる女を専属で守るという条件で、男の血筋を残すという約束。

 群れの頂点に立てなくても子孫が残せる。男から見ても魅力的な提案。


 女子供を守る男だけがその血筋を残し、男は夫へと進化した。

 

 夫達は結託して、文明を創り出した。

 全ては女を守るため。自分の子孫を未来に残すため。


 今は多くの人が文明の原点を忘れているように思う。

 社会を維持するための手段に過ぎないお金に執着しすぎている。

 多分、それが前首相達のアタオカ行動の遠因だ。


「よし。ナイラの小説を【憲法】にしよう」

「えっ? あの作品ですか? 確かにファンタジーとしてアツいですが、【憲法】らしくないですよ」


「具体的な内容は【法律】とかで決めるんだろ。だったら、【憲法】は抽象的でもいいじゃないか。国民全員が共有する【理念】とか、【価値観】とか、そういう物を定めておきたいんだ」


「でも……。正直、誰にも意味が分からないというか……」


 生と死に触れる機会もなく、お金で食料を買うのが当たり前の社会で生きてきた人達にはすぐには分からないかもしれない。

 そもそも、人の価値観なんてそんなにすぐには変わらない。

 でも、ゆっくりと時間をかけて考えてくれればいいんだ。


「これは滅びないために大切な事だ。それに、ナイラの正体に関わる事でもある」


「ナイラ様の正体? 異世界出身とは聞いていますが」

 「他に何か正体があるなら気になります」

  「一体どんな生い立ちなんでしょうか」

   「そもそも、あの御方は何なんでしょうか」


 兵士達が食いついた。

 分かる。気になるよね。何処で育ったらあんな風になるのか。

 俺なりに答えはあるけど、説明難しいな。


「うーん。【地獄】かな……」

「声に出ていますよ。誰が【地獄】ですか」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁ!


 背後からナイラの声が聞こえて、部屋の中に緊張が走る。


「ナイラ。戻ってたのか。治療は済んだのか?」

「露骨に話を逸らそうとしていますが、今回も乗りましょう」


 ありがとうナイラちゃん。

 よく見たら俺が投げた兵士も一緒に帰ってきている。


「急斜面に逆さまに落ちていたので、近づくのに難儀しました」


 そういえば窓の外は斜面だ。俺も一緒に行くべきだったな。


「全身打撲と両足骨折でしたが、後遺症もなく治りました」


 重症だったか。それをすぐに治せるナイラはすごいな。

 とっさに投げちゃったけど、申し訳ないことをしてしまった。


「脚を治療している時に私のスカートの中を覗いて反応していたので、【不●】も治りました」

「そういうのバラすのやめてあげて!」


「足場悪い急斜面で治療に集中している時に覗く方がオカシイです。これで無反応だったら別の所を喰い破って中身を噛み砕いてました」

「ごめんなさい。不適切なツッコミでした」


 淡々と語る内容がめんどくさくて恐ろしすぎるけど正論なのが地獄!


「まぁ、1ダースで1人だけ【●能】を克服したのもバランス悪いので、今日は特別に私がハニトラ実践で鍛えた異性のオトし方を披露してあげましょう」


 よくわからないことを言いながら、ナイラが俺の前から近づいてきた。

 触れるぐらいに接近して、潤んだ上目遣いの笑顔で俺を見上げる。

 こんな可愛い表情もできたんだ。正直たまらん。


「アナタの逞しい腕に抱かれて【母】となれる日を心待ちにしていますよ」


 ふぶぅおおぉぉおぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉ!


…………


「……あれ?」


 寝室で朝日を浴びて目覚めたら、隣で俺の右腕を枕にしてナイラが寝ていた。

 お互い服は着ているのでナニかがあったわけではなさそうだけど、ナイラの髪と顔と服が血まみれなので別のナニかがあったのは間違いない。


「起きましたか? よく眠っていましたよ」

「えーと、まさか、また噛みちぎったのか?」


 兵士達の安否が気がかりだ。


「噛みちぎってません。無傷で帰りました。これは貴方あなたにぶっかけられた鼻血。最高のスパダリをオトした証です」


 そうか。俺はナイラにオトされて鼻血噴いて倒れたのか。

 それで朝まで寝てたのか。


 窓から朝焼けの空を見ると、【鳳凰皇帝爆撃弾フェニックス・ツァーリ・ボンバ】の鳥が半分ぐらいに減ってる。 


「いい天気だな。トリが減ってるけど、消したのか?」

「もうあまり数はいらないと思いまして。半分を姉の所に送りました」


 よくわからないけど、脅しなしで存続できる世界に近づいたってことかな。


「憲法はどうなったんだ?」

貴方あなたの案で通しました。近日発布されるはずです」


 そうか。それは良かった。


「でも、第一条に【妊娠中の妻に生活費折半を強要する男はサメのごちそうにすべし】の条項を入れました」


 一気に凶悪な憲法になったな。

 でもまぁ、伝えたい理念と矛盾は無いから、いいか。


「ゆっくりしたいけど、そろそろ出勤しないと」

「今日はお休みです。兵士達に頼んで製材所にも連絡してます。一緒に二度寝しましょう」


 そう言って、ナイラはまた眠ってしまった。

 仕方ないので、俺も寝る。


 今までナイラの寝顔を見たことは無かった。

 眠っているのを見たことも無かった。


 でも、今は幸せそうに深く眠っている。

 その寝顔を見て、ナイラの【正体】を確信する。


 彼女は【子供】だ。


 外見は大人。知力も行動力も大人以上。

 だけど心は子供だ。幼稚で、無邪気で、容赦がない。


 子供が大人になるには、信頼できる大人からの愛情と安らげる場所が必要だ。

 彼女はそれを得られないまま成長してしまった。


 誰に愛されることもなく心が子供のまま。

 役者芸と粗末な台本で大人を演じ続けた。


 そして、最凶物騒女になってしまった。


 親が子供を【大人】に育てられない世界。これこそが【地獄】だ。

 ナイラの故郷はそれが原因で滅びたんだろう。


 俺もこの世界も、子供のナイラに救われた。

 だから、ナイラを大人に育てるために俺とこの世界の全てを使ってもいい。


 当面の俺の役割は【父親】だ。

 少なくとも【婚姻届】が受理される歳になるまでは。


「朝起きたら、父親になっていた。というところか……」


………………

…………

……


 ナイラの小説を基にした新憲法は発布された。


 第一条が若干意味不明という意見はあったが、ヒトという種の生存戦略を説いた内容はゆっくりと浸透し、全国民が義務教育で学ぶ内容となるほどに定着した。


 次世代の育成を社会の目的と明確に定めたことで、技術の進歩や娯楽の多様化を伴ってもブレない価値観を共有し続け、4つの国は【魔王】の統治下で平和に末永く発展したとか。


 めでたし めでたし

●オマケ解説●

 こんな【子供】が居るかぁぁぁぁ!

 と思うかもしれませんが、子供ってのは怖いんです。

 親から受けた扱い、周囲の大人の行動、これらを正解として育つんです。

 学んだ正解に疑問を持たないんです。


 それに恐怖を感じない程、ちゃんと生きてる自負ありますか?

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