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朝起きたらスパダリ材料になっていた ~転生物騒女が失業戦士に捧げる、最凶のモーニングコール~

挿絵(By みてみん)


 ナーセル中尉 24歳 199cm ビッグマッチョ戦士

 暮田ぐれたないら 16歳 174cm 日本からの転生者

「おはようございます。突然ですが、貴方あなたはスパダリ材料になりました」


 俺は、元・魔王討伐軍のナーセル中尉。24歳独身。

 隊員宿舎のベッドで目を覚ましたら、変な女に意味不明な事を言われた。


 枕元に立つ、白い服を着た黒目黒髪で長身の若い女。

 肩まで伸びた頭髪を大きな赤いリボンでまとめている。


 その風貌を見て、寝起きの頭で思いついた言葉がつい出てしまう。


「そのリボン似合ってないぞ。小さい子なら可愛いと思うが」

 

 ドベキッ 「ゴフッ!」


 いきなり腹筋に拳を撃ち込まれた。

 

 でも俺は、肉弾戦専門のデカブツ戦闘職。

 まぁ【戦士】というやつだ。

 女の拳でダメージは受けない。


 むしろ、女の方が腕を押さえてうずくまっている。


「おい。なんか変な感触したけど、大丈夫か?」

「大した腹筋ですね。腕が折れましたよ。フフフフフ……」


 女が変な方向に曲がった左腕をぶら下げて、虚ろな目をして笑っている。


 怖い。


…………


 2カ月前。

 長年世界を苦しめていた【魔王】が、四カ国連合軍の活躍でついに討伐された。

 それは良かったのだが、魔王討伐という人類共通の目標を達成したことで、世界は静かに混乱を始めている。


 身近なところでの最大の問題は、俺達の失業だ。



「えー申し遅れましたが、貴方あなたに腕を折られた私はグレタ=ナイラと申します」


 変な女ナイラは淡々と喋り出した。

 腕を折ったのは俺じゃないけど、そこはツッコまない。

 既にツッコミたいことが溜まっているから、順序良く後回しだ。


「ここ来たのは昨晩です。前の世界で確かに自害したので【異世界転生】ですね」


 若いのに死んだのか? そして、異世界転生って何だよ。

 いや、もうちょっと待とう。ツッコミは全体を整理してからだ。


「全裸でお湯にドボンで降臨。場所が男風呂と気付いた時は焦りました」


 うわぁ。なんてとんでもない。


「でも、入浴中の男達が私を見て蜘蛛の子を散らすように逃げまして」


 まぁ、普通に驚くだろうな。無事でなによりだ。


「正直、あの扱いは傷つきました。姉と違って容姿は褒められるのに」


 めんどくさい女だな。ひどい妹だな。


「すぐに食堂のお姉さんが助けに来てくれて、服を借りました」


 よく見たらその白い服は宿舎の食堂の制服だな。


「あちこち掃除を手伝った後、女子寮に一晩泊めてもらいまして。この部屋に来たというわけです」

「待て。そこが分からん。何故俺の部屋に来た」


 不条理に耐えられずとっさにツッコんでしまった。

 まぁいいや。ここから順序良くツッコんでいこう。


「助けてくれた料理長のサミーラさんに事情を話したら、この部屋の大男なら好きにしていいと言われました」


 ゴルァァァァァ!


 何してくれてるんだサミーラ!

 似合ってない大きなリボンもサミーラの仕業か!


 いや、今はそこへのツッコミは我慢だ。ツッコミどころを整理せねば。

 ベッドの上に座ってポンコツな頭をフル回転だ。


「異世界の食べ物が気がかりでしたが、美味しいビーフジャーキーにありつけたのは良かったです」


 ナイラは干し肉をポケットから出して、俺の目の前で食べだした。


 干し肉は戦闘糧食として支給されるもので、別に珍しくない。

 だけど、彼女の食べ方が何かおかしい。


 繊維と垂直方向に前歯で噛み切って食べている。

 結構硬いはずなんだが。


「サミーラさんから聞きましたよ。4年付き合った彼女を振ったそうですね」

「仕方ないだろ! 再就職の見通し立たないんだから」


 しまった!

 痛い所を突かれたので、また順序無視してツッコんでしまった。


「噛みちぎりたいですね」


 ナイラが干し肉を噛み切りながらよくわからないことを言い出した。

 視線を追うと、俺のズボンを凝視している。


「女を守る気が無いならソレ要らないでしょう。伴侶の居ない男が付けててもロクなことしないんだから、いっそ私にくださいよ」


 ぎゃぁぁぁぁ!


 本能的に恐怖を感じて、ベッドから飛び出し窓際に逃げる。

 ナイラは俺のズボンに視線を固定したまま、イヤな感じの太さに束ねた硬い干し肉をこれ見よがしに噛みちぎって食べだした。


 怖い。怖い。怖い。


「干し肉程硬くないから、簡単ですよ」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁ!


 窓から外をチラッと見る。

 この部屋は3階だけど、俺なら飛び降りて逃げられる。


 いや、ここで逃げたら余計危ない気もする。

 どうする俺。頭を使え!


 そうだ! 話をそらそう。


「腕! 折れた腕治療しないと! 痛いだろ」

「露骨に話をそらそうとしていますが、私もその方がいいので乗りましょう」


 ありがとうナイラちゃん。


「それにしてもすごい腹筋ですね。鍛えていたのに腕がバッキリですよ」

「俺は【戦士】だからな。でも、折れた原因は殴打のフォームの歪みだ。自己流だろ。ケガの元だから治っても拳は控えたほうがいい」


「鍛え直すにしてもまず治療ですね。まぁ、3カ月ぐらいでしょうか」

「いや、【回復魔法】ならすぐ治るぞ」


「えっ? この世界は【魔法】があるんですか?」 


…………


 ナイラの前に居た世界では【魔法】が無いそうだ。


 治療に連れて行こうとしたら、【魔法】のほうが気になると言うので俺の蔵書を見せたら、腕が折れたまま熱心に読みだした。


 ちなみに俺は【魔法】は使えない。

 適性が重要らしく、使える人でも魔法の種類は人それぞれだ。

 【回復魔法】の適性を持っている人は貴重で、病院や診療所で重宝される。


 そうなんだよなぁ……。

 俺もせめて魔法が使えれば再就職先もあるのになあ……。


 回復魔法が使える【治癒術士】に次いで、火魔法や風魔法が使える【魔導士】も求人が多くて、魔王討伐が終わってすぐに新しい職場に行った。


 そして、筋肉バカの【戦士】だけが隊員宿舎に残された。

 とくにバカでかい俺は、前線では活躍したけど社会に居場所がない無職。


 何とか魔法を習得できまいかと、魔法の書籍を沢山買って読んではみたけど。知識を付けても適性が無いとどうにもならないんだよなぁ。


 サミーラには申し訳なかったけど、無職の俺じゃ家族を養えない。

 仕方なかったんだよ。


「本当に治りました。【回復魔法】ってすごいですね」


 ナイラが、折れていた左腕を復元して拳を振っていた。

 正拳のフォームがズレているけど、ツッコミどころはそこじゃない!


「なんで本読んだだけで【回復魔法】習得してるんだよ!」

「自分でも本当にできるとは思いませんでした」


 適性がある人でも3年ぐらい訓練必要なのにオカシイだろ。

 コレできるだけで生計立てれるぐらいのレアスキルなんだぞ。


「いやでも、いっそコイツ連れ出して診療所開業すれば俺働かずに食っていけるんじゃね?」

「声に出ていますよ」


 しまったぁぁぁ!


「前世で死に際に、姉の稼ぎで女遊びをしていた義兄に【実践】をしましてね」


 ナイラが俺のズボンを凝視しながら語り出した。

 実践ってまさか不倫か? 重罪だぞ。


「ソコに骨は無いと聞いていましたが、練習の甲斐あり前歯で根元から一発でちぎれました。噴き出す動脈血を吸い出したらすぐ逝きまして。【急所】とはよく言ったものです」


 ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!


 【実践】って【噛みちぎる】の方かよ!

 淡々とした口調で語る内容が恐ろしすぎる!


「姉を取り返せた気分でした。で、私の稼ぎで暮らしますか? ソレをくれたら考えますよ」

「不適切な発言でした。申し訳ありません」


 女の稼ぎで食おうなんてクズな発想はダメだよね。

 噛みちぎられてもしょうがないと、そう言いたいんだよね。

 

「貰ったとして、ソレを私につける魔法ありませんかね?」


 絶対にやらん。

 男になりたいのか? 勿体ない。


「生命改造は【禁術】だ。俺の蔵書には載ってない」

「残念です。まぁ、ここでソレ付けても姉が居ないから意味ないですね」


 姉を一体ドウしたいんだよ。


「仕事選ばなければ再就職先あったんじゃないですか?」


 話が変わった。ここは乗っておこう。


「【国防軍】にスカウトされたけど、断った」


 【戦士】の力を人殺しに使うのは避けたかった。


「他の戦士の方はどうなんですか?」

「全員国防軍は断ったな。でも、皆それぞれ再就職先見つけたのか、何も言わずに出ていったよ」


 もう残っているのは俺だけだ。


「早く仕事を見つけて私を養ってくださいよ」


 長身美形は惜しいけど、無感情に噛みちぎるを連呼する女は無理。

 腕も治ったし、俺の心身の安全のためにも早急に追い出そう。


「ナイラは他にいい人見つけたらいい。再就職出来たらサミーラとよりを戻すよ。俺は小柄な娘が好きなんだ」


貴方あなたの無思慮な発言で世界が滅亡の危機に陥りましたよ」


 窓の外から熱を感じたので振り向いたら、

挿絵(By みてみん)


 炎の鳥の大群が空を埋め尽くしていた。


「あれは! 禁術【鳳凰皇帝爆撃弾フェニックス・ツァーリ・ボンバ】!」


 鳥の形に凝縮した魔力を落とすことで、地形を変えるほどの巨大爆発を起こす。

 発動成功は60人がかりで過去に1例のみ。

 実験場所は巨大な湖になったという伝説級の超威力攻撃魔法。


「これは禁術でしたか。でも本に載ってましたよ」

「やっぱりナイラの仕業か! 誰も再現できないから秘匿してないんだよ! なんでそんなのあっさり習得してるんだ!」


「もし魔法使えるなら私は【火属性】と思っていました。姉は【水属性】ですね」

 

 それは説明になってない。

 窓の外から大衆の悲鳴が聞こえる。

 国中パニック間違いなしだよ。


「どんな理由か知らないけど、何考えてこんな目立つ事をするんだ。1羽でも危ないのにあんなに沢山必要か? 術者の居場所を探す魔法もある。取り返しがつかないじゃないか」


「元カノと復縁したい理由なんて知りません。何考えて私にアレを言いましたか。あの発言必要でしたか? 無表情でも心はあります。口から出た言葉ってのは取り返しがつかないんですよ」


 ぐうの音も出ない。

 無表情で淡々と喋ってるけど、怒ってるのか?

 確かに余計な一言だったかもしれん。


 ここはもう、謝り倒すしか!


「俺が悪かった! どうか怒りをお鎮めください。そんなことで世界を滅ぼさないでください」


「子供の頃から役者芸鍛えたせいで自前の感情が出ませんがね。怒りより悲しみですよ。中学で170cm超えて男子に怖がられて。それで大男にまでアレ言われてもう絶望です」


 長身を気にしてたのか。

 そして、無感情は見せかけで、内面は激情家なのか。


「生き残った姉は孤島で逆ハーレムで救国の女神様なのに。国滅ぼして死んだ私は、異世界来てまた滅ぼさないといけないなんて」

「滅ぼさなくていいから。誰も頼んでないから」


 まぁ、俺の失言が悪いんだけど。


「調理場に毒薬の空き瓶がありました。用済み戦士を兵士に転用企んで拒否したら処分とか、この世界の指導者共は真性のアタオカです。魔王討伐で崩れた均衡を政治と外交で持ち直すのは無理。一年持たずに全面戦争で破滅です。殺し合いで皆が苦しむ前に焼き払って灰を肥やしにするしかありません」


 なんだって!

 じゃぁ、何も言わずに退居した戦士仲間達は!


「元カレを後回しにして時間稼ぎなんて。サミーラさんは健気ですね」


 なんてこった!

 上層部の腐敗はそこまでひどかったのか。


 散り際に魔王は討伐完了後の国家間の戦争を危惧してた。

 あの時は負け惜しみと思ってスルーしたけど、現実はこれか。


 魔王討伐で世界が混乱する中で、確かに各国は軍備増強に走っている。

 ナイラの読みと合致する。このままでは戦争が始まる。


 人間同士で殺し合うぐらいなら、魔王が居たほうがマシだ。


 その魔王にトドメ刺したのはこの俺だ。

 だったら俺が何とかしないと。


 どちらにしろ、ここにはもう居られない。


「ナイラ! 俺に力を貸してくれ。【魔王】を復活させる」

「でかい癖に小柄な娘が好きなんでしょ。食堂行ったらどうですか? 健気な元カノが最期の朝食を用意して待ってますよ」


 うわぁーもう。めんどくさいなぁ。


「俺から見ればナイラも小柄の範疇だ。俺達ならこの世界を存続に導ける」


 ナイラが顔面を紅潮させた。

 分かりやすくて可愛いじゃないか。


「嬉しい事言ってくれますね。お礼にあのトリを貸しましょう」


 世界を滅ぼして余りある力だ。


「ナイラの人生と世界の未来。俺が預かる」


 俺は、ナイラを抱き上げて窓から跳んだ。


 炎の鳥が埋め尽くす空の下。

 混乱する街を見下ろしながら、建物の屋根から屋根へと跳び渡る。

 向かう先は【魔王城】。


 俺とナイラで【魔王】を再現して世界を救う。


「イイですね。お姫様抱っこで空中散歩。コレを長年夢見ていました。私のスパダリついにゲットです」


 ナイラは嬉しそうだ。


 ツッコミ損ねていた最初の疑問の答えが見えた。

 スパダリって【魔王】の事だったんだな。


●オマケ解説●

 スパダリはスーパーダーリンの略称で、女性が望む理想的な旦那様のことです。

 そこに【魔王】が該当するかどうかは人によります。

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