第10話 光に還る日
朝の光が柔らかく、墓地を包んでいた。
紅はそこに立っていた――立っているはずなのに、体が軽く、風のように自由だった。
自分の体を確かめようとするが、手はすり抜け、足は地面に触れない。
葬式が始まっていた。
離婚した妻の肩は震え、涙が頬を伝う。
息子と娘も、小さな手でハンカチを握りしめ、泣いている。
紅は彼らの姿を見つめ、胸の奥で温かいものが広がった。
――ちゃんと泣いてくれたんだ。
こんなに愛されていたんだ。
水の弟の影も、そっと光に溶けていく。
水が前に立って微笑む。
「紅さん、もう大丈夫です」
紅はうなずき、声にならない声で感謝した。
――ありがとう。
ありがとう。
思い出すすべての温もりが胸に満ちる。
家族の愛、友の優しさ、人生のすべて。
もう恐れることはない。
風が優しく頬を撫でる。
葬式に集まる人々の顔は、涙で濡れているが、温かい。
紅は微笑みながら、その光の中にゆっくりと溶けていった。
最後に心の中で、家族に向かって呟く。
――さようなら。でも、ありがとう。
光は紅を包み、闇や痛みをすべて溶かした。
胸の奥に残ったのは、温かい愛だけ。
そして紅は、静かに、安らかに、成仏した。
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このお話はここでおしまいとなります。
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