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◇1.再開した◇

 前回までのあらすじ!


 主人公は寂しい奴だった!!

 日曜日。アパートから何処にも出かけず、朝から晩までずっと大学の課題を黙々とやる僕、風螺 玄紅〔フウラ ゲンク〕です。

 遊びに誘われる事もないので仕方なく、扇風機を強に設定し、整理整頓されてない部屋でひたすら作業に勤しむ。実に楽しくない…。

「暑い…暑い…熱い…厚い…篤い…アツい…」

 いけない、また独り言喋ってる。もう癖になってるのかも…。

 そういえば独り言が増え始めたのは大学に入ってから、つまり一人暮らしを始めた頃からだったような気がする。この癖は寂しさから来ているのか。それとも別の…まあ、考えても答えはでない。僕は仕方なく精一杯このつまんない生活を続けるだけだ。

 つまらないとは言ってはいるが、人付き合いが悪く、友達と呼べる相手も少ないからつまらないのは当たり前なのだが、かろうじて唯一楽しいと感じられるのはサークル活動。こう見えてテニスをしたりしている。まあそれでモテる訳無かったけど…。

 サークル活動以外には特に何も感じない。一人暮らしも少々飽きてきたし、ドラマやアニメとかのテレビ番組も最近は僕好みの物は来ない。


 ………………テレビ。

 ………………テレビ?


 ドンドンドンッ!…ドンドンドンッ!


 ドアを激しく叩く音が響く。

「…? はい!」

 大家さん? 押し売り? こんな時間に人が来るのは珍しかった。まあどっちにしろ、早く課題を終わらせたいから適当に話して作業を再開しよう。




●●●○●●●◎●●●




「久しぶりね、風螺 玄紅〔フウラ ゲンク〕! 一ヶ月ぶりぐらいだけど貴方は私を覚えているかしら?」


「……いや全然? 全く知らないので新手のセールスならお断りします。ではでは」


 玄関の前に変な金髪少女がいたのでドアを閉めた。終わり。先生の次回作にご期待下さい。

「ちょ、ちょっち待ちなさい! あれだけ斬新かつインパクトのあるされど甘酸っぱさを秘めた出会いを忘れたの!?」

 と思ったらこじ開けようとドアにつかみ掛かってきた。

「甘酸っぱさは無かったと思うけど…」

「ふっ、墓穴を掘ったわね! やっぱり覚えてるじゃない! 何だかんだ言っちゃって私のこと忘れられないんでしょ!?」

「別れた彼女みたいに言うなッ!」

「貴方は彼女持ち経験ないでしょが!!」

「ただ今絶賛募集中です!!」

「だったら好きな人ぐらい作ったらどう!? どうせ妄想でしか女の子と喋ったりチョメチョメしたりしないんでしょ~?」

「好きな人ぐらいいるっての! 近くのファミレスで働いてる茶髪の子がだなぁ……て、何言ってんだ僕!!」

 焦りすぎの僕である…。

「だからもう…あんまり騒ぐと大家さんが…!」

「知ったこっちゃないわ! さっさと入れなさい!」

 こじ開けてくるのを必死に止める僕。

 記憶が間違ってなければ、この金髪少女は僕の夢に出て来た子だ。実際は本当に忘れていたのだが、顔を見た時にあの恥ずかしい夢を思い出す事が出来た。

 内心かなり驚いてはいるが、不思議と冷静でいられた。それどころか、異性と普通に喋ってることに一番驚いた。大の仲良しのように。まともに異性と喋る事が出来るのは母親か大家さんぐらいなのに…。

「わかった、合言葉ね! 合言葉が必要なのね!」

「そんなの無いから…」

「『そんなの無いから』……待ちなさい。それは一度解読した暗号に似ているからすぐわかるわ」

 聞いちゃいねえ…。

 そして、しばらく玄関で言い合っていると、


 カツ、カツ、カツ、


 と。誰かが階段を上る音が聞こえた。

「ヤバい…ヤバい!」

「え、何?」

 しまった、騒ぎすぎた! このままでは皮を剥がされる!

 気が動転する僕に容赦なく、その人は現れた。

「五月蝿い。日曜日の夜遅くに騒ぐな。ぶち殺す」

 アパートの大家さんが階段から上がって来た。

「ひっ……!」

 黒髪の若い綺麗な女性だけど、常に殺意を振り撒くような怖い人。正直苦手だ…。

「すいません。死ぬ程すいません。すぐに黙らせるんで許して下さい」

「そうか。ならその子を入れてやれ。女の子を外で待たすのは男として情けないぞ」

「そうそう! ではお言葉に甘えてお邪魔~」

 金髪少女はスルリと中に、滑り込むように部屋へ入っていった。

「あ、おいって!」

「次、大声出してみろ。削ぎ落とす」

「………はい。すいません」

 ……なんか、楽しくないな…。




●●●♂●●●♀●●●




「うん、市販のグレープジュースにしては美味しいわね! でも今度からはワインを所望するわ。ブルゴーニュとか」

「借金する事になるわ……」

 勝手に冷蔵庫から出しやがってコノヤロウ。

 入られたのはもう仕方がないので適当に部屋を片付け、小さいテーブルを挟み、向かい合うようにフローリングの床に座った。少女も大人しく正座している。

 …それにしても、ゲームから飛び出したような金髪少女がフローリングの床の上に正座してペットボトルのジュースを飲んでる。…かなりシュールだなぁ。

「…君、見た感じ外人だよね?」

「ん? う~ん、てゆうかハーフかな? まあ日本産だけど」

「日本産って…」

 女の子がそんな事言うなよ…。

 不思議な子だった。少女の長い金髪も気になったが、特に気になったのは服装。白いワンピースに見えるが綺麗で上質な布だし、所々に金色の豪華な刺繍が施されている。服に興味感心のない僕でさえその服の価値がわかる。

「さて、まず貴方に受け取って欲しい物があるんだけど」

「え? いや、待てよ。まず君が誰かを説明して欲しいんだけど…」

「え~? 仕方がないわね…。じゃあ名前から」

 何でめんどくさそうなんだよ!? めんどくさいの僕ぅ!!

 少女はペットボトルをテーブルに置き、立ち上がる。

「改めましてお久しぶり。私の名前はイルナチェア。イルナチェア・カルマよ! 親しく呼びたいならイルナと呼びなさい!」

 長い金色の髪を揺らし、少女は誇らしげに名乗った。

 …やっぱり外国人か。でも僕に何の用が…


「人間とエルフのハーフだから耳もそんなに尖ってないし魔力もちっとしかないけど、立派なエルフ族の一人よ」


 ………………………。


「しかも、私はあの有名な妖精貴族、カルマ家の一人娘! ふっふっふっ、驚いたかぁ」

「ああ、驚いた。現実とゲームの世界を区別出来ない人間って外国にも居たんだ」

「違うから! 区別出来るし現実だから!」

 リアルRPG少女は顔を真っ赤にし、必死に否定した。

「キャラになりきるのはいいけど、髪を染めてまでなりきるのはお母さんが泣くと思うよ?」

「ちーがーうー!! 本当ったら本当なの!!」

「ほら帰りなさい。僕これから課題を片付けないといけないし…、何なら君の家に電話して迎えに来てもらう? 番号は?」

「電話は無いよ? 家は富士の樹海から通って行くの」

「富士の樹海に住むエルフなんて聞いた事ねえよッ!!」

 より胡散臭くなったな。どうしよ…。

「信じられないならあれ、私がテレビを使って一ヶ月前に会いに行ったじゃない? あんな手の込んだ会い方エルフにしか出来ないわ!」

「人間にも出来るっちゃあ出来るのでは?」

 それなりの機材は必要だけど…。

「樹海から直接電波を飛ばしたのに通信が途切れた時は焦ったわホント」

「富士から飛ばしたの!? ってか、やっぱし夢じゃなかったって事なのか?」

 だからって彼女がエルフだと決まった訳じゃないけどさ。はあ……。

 悩んだ挙げ句、僕は彼女…イルナチェアの話を聞く事にした。話が終われば気が済んで勝手に帰るだろう。イルナチェアは何故か立ったまま話を続ける。

「しっかりと話を聞きなさい」

「で、そのエルフ族の君の御用件は?」

「うん。実は今、私達エルフ族は絶滅の危機に陥っているの。原因は同族達の反乱。彼らは少数人だけど、それぞれ強力な力を持って私達を圧倒したわ。この事態に生き残りのエルフ族の皆とエルフの族長は敵を殲滅すべく………何で頭抱えてるの?」

「いや……予想以上に重症だなって…」

 そんな一気に言われても信じられねえよ…。いや信じたとしても理解出来ねえよ…。

「これは真面目な話なのよ玄紅! しっかりと聞いて欲しいの!」

 と、言われましても……てちょっと待て!

「おい、何で僕の名前知ってるんだ!? 名乗った記憶は無いぞ!」

「言ってなかったっけ? それこそ単純な話、貴方の身元をちっと調べたの」

 イルナチェアは平然と言った。当然、唖然とする僕。

「調べた…? 何でまた…」

「事前調査よ。これから協力してもらう人間なんだから、多少身元とか人柄とか知っていた方がいいでしょ? とどのつまり…」

 協力? まさか、一緒に戦ってくれ的なお約束パターンなの


「一緒に戦って欲しいのよ」


 か……。

「………マジで?」

「生身で戦ってなんて酷な事は言わないわ。私達が用意した装備を受け取って、それで戦って欲しいの」

 渡したい物ってそれか…。いやでも、

「そ、そんな馬鹿な!? 漫画じゃあるまいし、武器とか防具とか渡されたって戦えないよ!」

 運動は自信があるけど、喧嘩すら一度もした事がないのに戦えなんて無茶だ! 本気じゃないよな!?

 イルナチェアはそんな僕の弱音を聞き、みるみると顔から笑顔が消えていった。そして、

「…あー、まあそんな事言わずに。何ていうかそのぉ……協力して下さい、お願いします」

 イルナチェアは一歩退いて正座しなおし、頭を下げ、両手を床に置く。

 五体当地、土下座の姿勢。

「頼れるのは貴方しかいないの。お願いします」

 声も身体も震えている。懇願する人間を、僕は初めて見た。

「え!? いや…おい、頭上げろよ…!」

 立ち上がって戸惑う僕。どうすればいいんだ!? このままだと泣かせてしまいそうだ…てか泣いてる!?

「わ、わかったわかった! とりあえず話し聞くから泣くな! な?」

「じゃあまずこれを見て」

 スッと顔を上げ、笑顔で背中に手を回して何かを取り出す。

 ……古い手を使いやがって。

「これは、私達エルフ族の錬成技術を一点に集めて造りだした『鎧』。究極と言っても過言ではないわ。これを着て、戦ってほしいの」

「おお…?」

 『究極の鎧』………。

 今度こそ夢ではないのなら、僕はその鎧を着て戦う事になるのか…。勿論まだ信じてるわけじゃないけど、なぜだろう…期待してしまう…。子供の時から憧れていた正義の味方…もしそれが出来るなら僕は…!


「さあ、受け取りなさい! サイズもバッチリ。軽量化済み。カラーリングは正義と神聖さを表すホワイト。身体をぴっちりと包み込むフィット感。手軽でスムーズなチャック式装着方。畳んでもシワが付きにくい。水洗い可能。伸縮性バツグンのこの『究極の鎧』をッ!!」


「ただの全身タイツじゃねぇかあああアアアアアアァァッ!!!」


 確かにシワは付いてませんでした。




●●●¥●●●$●●●




「ちょ、ちょっち! 閉め出す事無いじゃない!」

「いいから帰れって! もう暗いぞ!」

 これ以上話しても無駄だ。この子を家に強制送還させねば…。

 無理矢理外に放り出したイルナチェアがドア越しにワンワン叫ぶ。

「いい、これだけは言っておくわ! 敵が攻めて来るのは明日の晩よ! 狙いはまだ不明だけど、仲間の調べでは必ずこの街に来るわ! その為に早くこの『究極の鎧』を着て!」

「だから、それただの全身タイツだってば! てか狙い不明って何だよ!? …期待した僕が馬鹿だった」

「とにかく、明日の朝また会いに行くわ! その時は覚悟決めなさい! じゃあね!」

 ドタドタと足音が遠ざかる。帰ってくれたようだ。

「……………はあ」

 まあ、これはしょうがないよな?間違いなくあの子が悪いし、僕はただ「それは全身タイツです」って言っただけだ。

 …なのに何で罪悪感があるんだろ。


 ドンドンッ!


「………しつこい」

 前言撤回。罪悪感無し! ドアに向けてもう一度怒鳴る。

「だからもう帰れって! もう話しに付き合ってられ」

「ほう、このワタシに帰れと?」

 大家さんの声だった。

「カひゅッ!??」

「お前の帰る場所を無くしてやってもいいんだぞ?」

 ドア越しにでも殺意が滲み出ているのが視える…。

 異界の扉を開かんとするかの如くそっとドアを手前に引く。やはりそこには異界の生き…もとい、大家さんがいた。拳を握りしめながら…。

「えと、あの、その、あ、…あがります?」

「いや、臭いが移るから立ったままでいい」

 どういう意味!? 僕の部屋の臭いがってこと!?

「…君の彼女、暗い中たった一人で走って行ったぞ? 追いかけんでいいのか?」

「彼女じゃありません! …別にいいんですよ。僕には関係ないですし」

「そうか……」

 立ったまま腕組みをする大家さんは、いつも以上に神妙な顔つきだった。そして、口を開く。


「あの子が泣いていたのに関係ないか」


 ……………え?

「まさか、イルナチェアが!?」

「名は知らん。だが、階段ですれ違った時確かに涙を流していた」

 追い出されたのがそれほどショックだったのか? いやしかし、

「だ、大丈夫ですよ。あいつ嘘泣きが得意なんです。っつか、あの子の話自体が無茶苦茶ですよ」

 そうだ! さっきも嘘泣きして騙したじゃないか! おおかた周りに同情を求めて─

「本当に嘘か?」

「…はい?」

 大家さんは撒き散らす殺意を、僕一点に集めるように静かに怒っていた。

「君はあの子の顔を見て、あの子の感情を察して、嘘泣きをしていると、嘘をついたと決め付けたのか?」

「……………ぁ…」

 僕は一度たりとも、イルナチェアの顔を、瞳を視ていない。

「無茶苦茶だの言う前に、ちゃんと話を聞いてやることも出来ないのか君は。聞いてやるだけでも、少しは気が楽になっただろうに…」


 ──頼れるのは貴方しかいないの。お願いします──


 …彼女は声も身体も震えていたじゃないか。もしあれが、演技じゃなかったとしたら。僕が馬鹿馬鹿しいく思っても、彼女は真剣に悩んでいた事に代わりなかったら…。

「…君は初めて会った時からそうだったが、少々他人を自分から遠ざけ過ぎているな。そろそろ他人を察してやる事なり、信頼してやる事なりを覚えたらどうだ。君はもうガキではないだろ?」


 つまらないから関わらない。


 くだらないから察しない。


 楽しくないから近づかない。


 まるで子供のままだ。駄々をこねる幼い子供だ。「……僕を、本当に…頼りにしてくれてたんだ」

 初めて頼られたのに、僕はくだらないと拒否してしまった。僕は、ただのクソガキだ…。それが死ぬほど恥ずかしい。

「…………………」

 僕はもう口を開く事すらせず、ただ下を向いて突っ立ってるだけしか出来なかった。

「……ガキならガキらしく、悪い事をしたら謝ればいい」

「…え?」

 俯く僕に、大家さんは言った。

「君のご両親は教えてくれなかったのか? 一言、『ごめんなさい』と言えばいい。酷い事をしたなら、それについてしっかり頭を下げるべきだ」

 はっきりと、優しく助言をくれた。気遣ってくれたと受け取っていいのか…? でも、

「でも、彼女が何処に行ったかもう、わかりません…」

 もう手遅れだ。謝ろうとしても、謝る相手の居場所がわからない。もう会えない…。

「何だ、その全てが終わったような顔は? 一生会えないと決まったわけではないだろ。…まあ心配いらない。おおよその見当は付いている」

「…?」

 え? 大家さん、イルナチェアを知ってるのか?

「あの子の移動速度と向かった方向、日時と交通状況、あの子のおおよその心境と心理、そしてアタシの“勘”からして、今から走って行けば、ここから右の道へ曲がって真っ直ぐに10分程行くと到着するカヤノキ公園の正面口手前あたりにいるはずだ」

 サラサラと紡いだ言葉には確信しているような凄みがあった。そして、僕はやっと、目の前の腕組みしている女性が誰かを思い出した。

「……あ~、そうでした。流石、『私立名探偵』の欺霧 鴎〔アザキリ カモメ〕さんだ」

「『元・私立探偵』、だよ。勘は鈍ってはいないと思うが、はずれたらすまない」

 いや、大家さんの言う事ならそうなんだろう。

 大家さんの推理(大家さん自身はただの勘だと言いはっているが)は確実に当たる。実際、数々の難事件を、まさに小説や漫画の名探偵のように見事全て解決してきたらしい。詳しくは知らないが…。

 大家さんに言われてやっとわかった。僕がしなきゃいけないことを!

「…僕、謝ってきます。信じられないけど。力になれないけど。信じられなくてゴメンって。力になれなくてゴメンって!」

 そうだ、あんなさよならはダメだ! 謝ってどうにかなる訳じゃ無いけど、それじゃあ何時までも他人に近づけない!

「ありがとうございました! ちょっと謝ってきます!!」

「ああ、行ってこい。謝って、また頑張れ」

 僕はもう一度大家さんに感謝し、すぐに走り始めた。




●●●*●●●*●●●




 僕は、僕を含めた人間という生物が嫌いだった。


 心、心境、感情、思考、思惑、エトセトラエトセトラ。まるで視る事が出来ないじゃないか。自分の場合もそうだ。感情は制御出来ないし、無意識に思考を始める。視えない事が一番の恐怖だ。だから僕は思った。


 ─嗚呼、何て気味の悪い生き物だろう─


 僕は他人を遠ざけ、自分を現実から遠ざけた。自分の心を殺し、この日常をただ無駄に過ごす。楽しくないのは当たり前。だって、自ら現実を、無理矢理退屈にしているのだから…。


 だから、もうやめよう…。


 遠ざけるのはもうやめだ。現実を引き戻そう。他人に近づこう。そのために……、

「ハァ…ハァ…ハァ…この先か?」

 彼女に…イルナチェア・カルマに謝らないと!

 必死にイルナチェアを捜す。適当な服装だが勿論身だしなみを整える暇はない。上下が揃ってない半袖半ズボンで走る。

「ぜえ…はあ…ぜえ……あ!」

 街から少し外れ、街灯しか明かりのない道でカヤノキ公園らしき場所を見つけた。その出入口付近に、僕にでも価値がわかる程の、綺麗で価値の高そうな服を着た少女が立っていた。大家さん大当り。

「イルナ!!」

 思わずイルナチェアをそう呼んでしまった。親しく呼びたい時にと言われていたが、泣いているイルナチェアにそれはまずかったか? いや、それよりも、

「ちょっと待って!」

 呼び止める僕に長い金髪の少女が振り返る。間違いなくイルナだった。自然と足が速くなる。そして、僕は勇気を持って、イルナの泣いているであろうその顔をしっかりと見た。

「さっきはゴメン! まだ怒ってると思うけどでも──」


 しかし、イルナの顔は泣き顔でも怒り顔でもなく、その表情は、


「こ…来ないで!! 危ないッ!!」


 真っ青に青ざめていた。


「あ…え!? 何で…?」

 そんなに拒絶しなくても…、てか危ないって?


「あちゃー、しまったしまった。人間に見つかっちまったなぁ。やっぱし早めに来たのが失敗だったよ」


 そして、僕はやっとイルナの後ろに誰か居たのに気づいた。

「イルナチェアさ~ん、もしかしてもしかしたらもしかすると、お前らの切り札ってあの人間のこと?」

「ぐっ……玄紅、早く逃げて! コイツは」

「無視はよろしくないなあ…。それに、自己紹介は自分でするよ」

 街灯の明かりがその巨体の男の長く尖った耳を照らし出す。あまりに突然すぎて、僕は逃げることを忘れていた。

「人間…じゃ、…ない?」

「御名答! 俺はエルフ。しかも反乱軍、通称『十二ノ詞〔トゥエルブズスペル〕』の一人、拳闘〔ナックル〕って者でさぁ。ちなみに、名前がナックルってことね。ってなわけで!」

 そいつは、僕の敵は、ニタニタと笑って言った。


「君を殺しちゃうけど仲良くしてね、切り札君」




つづく!

 結局予告詐欺に終わった今回。今度こそ出るか、一撃必殺技!!

「俺の拳が真っ赤に燃えるぅぅぅ!!」

「それパクリだから!!」

 次回もご期待下さい!

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