穴
心に空いた穴はなかったことにはできない。常に何かで埋めておかないと命が落ちることになる
ある日朝起きるとなにかが足りない気がした。胸にドーナツの形をした穴が浮かんでいた。いやおかしい、前まではこの穴はなにかが入っていてこんな空洞はなかったはずである。思い出そうとしても全くだめだ。このドーナツ型の筒は金属質で所々黒く、ドロドロとしている。そして内側から外側へとうごめいていた。そしてその穴に何かを埋めるとその蠢きをとめることができるようだった。きっちり埋まる何かがあったはずである。いや、穴を詰めるものは今まで本当に存在していたのだろうか?どこかに逃げてしまったのだろうか、それとも今まではあると信じていただけなのかもしれない。しかし私はこの社会に存在している。もし穴の詰め物がこの世に存在してなかったとしても私はこの社会に置いてけぼりになるわけにはいかないのだ。
私はスーツという透明マントをかぶり電車に乗る
そして
会社に着くと私は仕事をし、仕事も仲間から透明マントを黒く塗りたくられる。
さて、私の家族の話をしよう。家族と孤独は距離がある言葉であるが、思い出してほしいあなたは家族の中で孤独を感じたことはないだろうか?家族は子供の父親と子供の母親から始まる。そしてその子供は親も子供だったということをいつか認識する。母親はいつ母親になり、父親はいつ父親になるのか。そう要は父親になるまでに父親ポテンシャルを持っておかないといけないのだ。
そう自分に言い聞かせ、ドーナツの穴の中には今後できるはずの家族をいれる代わりに取りあえず、自分を入れてみる。ドーナツの穴に比べていささか小さいが、これが大きくなってドーナツの穴を押し広げ、家族を穴な押し込まなくてもいいように準備しようと決める。