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年越しジャンパー

作者: 碧葉

序章:最後のジャンプ


 大晦日。街は新年を迎える準備でどこもかしこも賑やかだが、俺――風間遼かざま りょうはそんな騒ぎを尻目に自室でひっそりとカウントダウンを待っていた。

 今年で三十五歳。独身。何の変哲もない会社員。

 だけど、俺には一つだけ、人に言えないこだわりがあった。


 「年越しの瞬間にジャンプする」


 きっかけは、高校時代の友人との悪ふざけだった。

 「年越しの瞬間に地球にいなかったとか言えたら面白くね?」なんて言いながら、みんなでジャンプした。それだけのことだ。だが、なぜか俺はその習慣を20年も続けてしまった。


 今では友人も呆れているし、恋人なんてものもいないから誰に見られるわけでもない。だけど、ここまで来たら意地だ。今年でこれを最後にしようと決めた。


 「さて……いよいよだな」


 時計の秒針が11時59分を回り、世界中の誰もが新しい一年を迎えようとしている。俺は軽く膝を屈伸し、ジャンプの準備を整えた。


 「……3、2、1……ジャンプ!」


 地面を蹴った瞬間、視界が白い光で覆われた。


第1章:異世界の村


 気づけば、冷たい風が頬を刺していた。雪がちらつき、周囲には木造の家が点在している。


 「……ここ、どこだ?」


 訳が分からずキョロキョロしていると、近くを通りかかった老人が俺を見て目を見開いた。


 「おお! ついに来たか、伝説の年越し勇者!」


 「……は?」


 訳が分からない。伝説の年越し勇者って何だ?


 その後、村人たちが次々と集まり、俺を囲みながら口々に言う。どうやらこの村では、「年越しに空を舞う者が現れると、世界を救う勇者だ」という古い伝説があるらしい。そして、ちょうどその瞬間に現れた俺が、どう見てもその勇者だという話だ。


 「いやいや、俺ただジャンプしてただけなんだけど!」


 何度否定しても村人たちは「さすが勇者様!謙虚なお方だ!」と感動している始末だ。


 こうして俺は、異世界で「伝説の年越し勇者」として崇められることになった。


第2章:村人たちとの日常


 村人たちは本気で俺を勇者だと思い込んでいる。

 「勇者様、これをどうぞ!」とご馳走を差し出されたり、「勇者様、訓練場はこちらです!」と無理やり鍛錬に連れて行かれたりと、日々振り回される生活が始まった。


 中でも特に厄介だったのがこの三人だ。


 ティナ:16歳の村娘。とにかく元気で世話焼き。だが、彼女の作る料理はもれなく炭化する。

 ガルフ:筋肉自慢の鍛冶屋。見た目は完璧な戦士だが、モンスターを見ると腰が抜ける。

 バルダおばさん:村の肝っ玉母さん。何かと俺を働かせようとするが、実は一番頼れる存在。


エピソード:モンスター討伐


 「勇者様! 近くの森に現れたモンスターを倒してください!」


 ある日、村人たちからそう頼まれ、しぶしぶティナとガルフを連れて森へ向かった。もちろん戦闘なんてしたことがない俺にそんなことができるわけがない。


 「お、おい、モンスターって、どんなやつなんだ?」


 「巨大なオオカミのような姿をしていて、村人を襲うんです!」とティナ。


 そんな話を聞きながら震えていると、茂みから大きな唸り声が聞こえた。


 「うわああ!」


 俺はとっさにその場で大きくジャンプした。


 「!?」


 俺がジャンプする姿を見たモンスターが驚き、吠えることもなく森の奥へ逃げていった。


 「す、すごい……勇者様、戦わずして敵を退けるとは!」


 ティナとガルフは目を輝かせ、俺のことをさらに崇めるようになった。


クライマックス:異世界の年越し


 異世界で初めて迎える年越しの日、村人たちが俺のために大宴会を開いてくれた。魔王もなぜか参加し、村全体が一体となって騒ぐ。


 宴の最後に、みんなで「年越しジャンプ」をするというカオスな光景を目の当たりにしながら、俺はふと地球での大晦日を思い出した。


 「これ、帰れるのかな……いや、まあいいか」


 俺は仲間たちの笑顔を見て、もう少しこの世界にいてもいいかもしれないと思った。


結末:日常は続く


 こうして、俺の「年越しジャンパー」としての異世界生活は続いていく。いつか元の世界に帰れる日が来るのか。それとも、この村で一生を終えるのか――まあ、それも悪くないかもしれない。


(終わり)



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