『第6回「下野紘・巽悠衣子の小説家になろうラジオ」大賞』参加作品集
キミの寝言が世界を救う
20xx年、世界は滅亡の危機を迎えようとしていた。
だが、人類も黙っていたわけではない。そんな運命を回避すべく世界中の叡智が結集され未来予測型AI『キボウ』が開発されたのだ。
その驚異的な未来的中率は実に八割を超え、稼働から五年経過した現在その精度はほぼ百パーセントにまで向上していた。
皮肉なことに人類が滅亡するという予測に関しては一貫しており、その精度の高さ故に研究者たちも複雑な想いを抱えていたのだが。
『むにゃむにゃ……さすがにもう食べられないよ』
幸せそうな笑顔で寝言を発したのは大学生の佐藤大輔。
「博士、対象者の寝言確認しました」
「急いで映像解析!」
脳波を解析することで寝言の内容を映像化することが出来る最新機器を惜しみなく投入するスタッフ。
「山のようなフライドポテトを食べているようね……誰しも若かりし頃一度はやってみたいと思うことランキング上位……でもこれはさすがに関係ないか……」
真剣な表情で映像を確認する博士だったが、助手は半信半疑の様子で尋ねる。
「あの博士、本当に彼の寝言に人類を救う鍵があるんでしょうか?」
「あのキボウが初めて滅亡を回避できる予測を出したのよ?」
「それは……ですが、彼はごく普通の大学生ですよ?」
「まあね、でも大輔は善良な人間よ。動物好きだし」
博士と大輔は同じ大学だ。もっとも年齢は同じでも教授と学生なのだが。
「今もこうして研究に協力してくれているわけだし他に手も無いわけだしね」
「そうですね……あ! また寝言を――――」
「映像解析急いで!!」
『だ、駄目だよ亜里沙、こんなところでキスしたいだなんて』
「ちょ、ちょっと映像消しなさい!!」
耳まで真っ赤になる亜里沙こと博士。今まさに亜里沙が大輔にキスを迫っているシーンが映像化されたのだ。
「だ、大輔貴様ああ!! なぜ私がキスを迫らねばならんのだ!!」
「落ち着いて博士、ただの夢ですから」
そう言いつつもスタッフたちは皆生温かい視線で博士を見ている。
『お前は本当に可愛いな亜里沙』
「ば、馬鹿じゃないのか!! わ、私がか、可愛いとかそんなわけ――――」
「落ち着いてください、ただの夢――――ぐえ」
鳩尾を押さえて崩れ落ちる助手。
『亜里沙……大好きだよ、俺と結婚して欲しい』
「はい……喜んで!!」
「博士っ!?」
こうして、本人が寝ている間に結婚が決まり――――
二人の間に生まれた子が将来人類を救うことになるのだが
今はまだキボウのみぞ知るお話。