家族になった日々の先で
「――よく飲む子ね、この子」
恋が笑いながら、小さな我が子を抱きかかえている。
その腕の中にいるのは、俺たちの娘――結花。
生まれてまだ数週間。けれど彼女は、確かな命としてこの世界に存在していた。
「ミルクのあと、ちゃんとゲップ出してあげてね。出さないとまた泣いちゃうから」
「……なるほど。子育てって、けっこう繊細なんだな……」
恋の指導のもと、俺も必死に奮闘中だ。
オムツ替えひとつとっても、最初はおっかなびっくりだったけど、
今では少しずつ慣れてきた。
泣き声が部屋に響いても、もう慌てたりはしない。
……いや、たまにはパニックになるけど。
それでも、不思議と毎日が幸せだった。
ある日の午後。
結花がようやく眠ったあと、2人でソファに並んで腰を下ろす。
「……なんか、夢みたいだよね」
「うん」
カーテン越しに差し込む夕日が、部屋をやわらかく染めていた。
「君と出会ってから、ほんとにいろんなことがあったけど……
こうして3人でいる今が、一番現実っぽい」
「ねぇ」
恋が俺に寄りかかる。
「この子、大きくなったら何になるのかな」
「どうだろうね。元気に育ってくれれば、それでいいけど……
でも、もしかしたら――何か、大きな運命を背負う子になるかもしれないな」
それは、直感だった。
この子の中には、俺たちのすべてが詰まっている。
かつて男だった“僕”の記憶も、女として生きる“私”の人生も。
そして恋が愛してくれた、その全てが――彼女の中で、未来になっていく。
結花は、小さく寝息を立てている。
その穏やかな顔を見ていると、胸の奥が温かくなる。
「結花。君がどんな道を選んでも、パパとママは味方だよ」
恋が、そっと娘の額にキスを落とした。
「いつか、この子が主人公の物語も……始まったり、するのかな」
「そのときは、僕たちがちゃんと見守ってあげないとね」
「……うん」
窓の外、春の風がそよぐ。
未来は、まだ何も決まっていない。
だけど――この手の中にある“確かなもの”が、俺たちに教えてくれる。
今ここにあるこの瞬間が、人生そのものなんだと。
(つづく)




