新しい命と、これからの私たち
季節は、ゆっくりと春を迎えようとしていた。
恋のお腹は日に日に大きくなり、毎日が二人にとってかけがえのない時間だった。
「最近、赤ちゃんがすごく動くの。お腹の中でバタバタって」
恋が笑顔で言う。俺はその手をそっと握り返した。
「元気な証拠だよ。俺たちの子だもんな」
「ふふっ、やんちゃかもしれないね」
お腹に耳を当てると、小さな鼓動が聞こえた。
それは力強く、生きているということを教えてくれる不思議な音だった。
「ねえ、名前はもう考えた?」
「うん。いくつか候補はあるけど……」
俺は小さなノートを取り出す。そこには二人で考えた名前がいくつも書き込まれている。
「“結花”ってどうかな?意味は『結ぶ花』。君と僕の絆の象徴にしたい」
恋は目を潤ませて笑った。
「素敵……私も気に入った。女の子にぴったりだね」
俺たちは幸せな時間を過ごした。
だが、その夜、突然恋が不安そうな表情を見せた。
「お腹が……ちょっと張ってる気がするの」
「えっ?」
慌てて病院に向かう。深夜の待合室は静まり返り、緊張が張りつめる。
しかし看護師は優しく告げた。
「もうすぐご出産の兆候ですね。今夜はここで様子を見ましょう」
ほっと胸をなでおろした俺の隣で、恋はほほ笑んだ。
「ごめんね、驚かせちゃって」
「大丈夫だよ。僕もまだ慣れてないから、全部新鮮で怖いよ」
恋は俺の手を握り返し、ささやいた。
「でも、この子……女の子な気がするの」
俺は微笑んで答えた。
「僕もそう思う。名前は“結花”に決めよう」
そして数日後。春の訪れとともに、ついに新しい命がこの世界に生まれた。
小さな産声が病室に響き渡る。
頼りなくもまっすぐなその存在は、ただそこにいるだけで涙を誘う。
助産師が優しく尋ねた。
「名前は決まっていますか?」
俺たちは見つめ合い、静かに答えた。
「“結花”にします。僕たちの絆の証として」
恋は涙をぬぐい、赤ちゃんをそっと抱き寄せた。
「結花、ようこそ。あなたは私たちの希望の光」
小さな手が俺の指をぎゅっと握った。
俺は深く息を吸い込み、微笑んだ。
――これが、僕たちの新しい朝の始まりだった。




