新婚旅行、どこに行こう?
仕事が一段落したある休日、ふたりはリビングのテーブルを囲んで、ノートパソコンを開いた。
「そろそろ、新婚旅行の計画立てようか」
カノンが微笑みながら言う。
「うん!どこに行きたい?」
恋は目を輝かせて、色々な旅行サイトをスクロールしながら答えた。
「温泉旅館、どうかな?やっぱりゆっくり過ごしたいし」
「いいね、温泉なら疲れも取れるし、のんびりできる」
「海とかも好きだけど、今回は静かに癒されたいな」
「じゃあ、山間の温泉街でのんびりってのはどう?」
「それいい!自然の空気も美味しいし」
「部屋に露天風呂がついてるところも探そう」
恋はメモ帳にどんどん書き込む。
「あと、美味しいご飯も大事だよね!」
「もちろん。新鮮な魚とか、地元の名物料理を楽しみたい」
カノンは楽しそうにページをめくりながら言った。
「そういえば、旅行中はゆっくり話す時間も作りたいな」
「そうだね。普段は忙しくて話せないこともあるから」
「これからのこととか、赤ちゃんの話とか」
恋の顔が少し赤らんだ。
「うん。二人でいろいろ話そうね」
計画がどんどん膨らんで、ふたりの笑顔が輝く。
***
ぽかぽかした午後の陽だまりの中、リビングのローテーブルにノートパソコンと旅行雑誌が広げられていた。
カノンと恋は、ソファに並んで腰を下ろし、旅の計画を立てている。
「やっぱり、温泉旅館がいいな。静かで、ゆっくりできる場所」
恋がぽつりとつぶやくと、カノンは頷いてスマホで地図を開いた。
「いいね。じゃあ、山の方とかどうかな。川の音が聞こえる露天風呂つきの……」
「うわ、それ最高じゃん」
ふたりの視線が、宿泊サイトの“人気旅館ランキング”に集まる。
「ここどう? 木造の古民家風で、夕飯が部屋食。お風呂も源泉かけ流しで、貸し切り露天風呂があるって」
カノンが見せてきた画面に、恋が身を乗り出す。
「……ここ、すごく素敵。雰囲気あるし、お料理もおいしそう」
「ね、口コミもめっちゃいいよ。“静かで、時間が止まったみたいな旅館”だって」
「うん、そこにしよっか」
即決だった。旅館の名前は**『湯ノ嶺』**。緑に囲まれた山の中、川沿いにひっそり佇む老舗の宿だ。
「……なんか、夢みたい」
恋がぽつりとつぶやく。
カノンが、不思議そうに顔を向けた。
「どうして?」
「私、昔は“将来、結婚とかしないかも”って思ってたから」
「……そうなんだ」
「うん。恋とか、誰かと一緒に暮らすとか、ずっと他人事みたいで……。でも、カノンと出会って、変わった」
恋は、少しだけ照れくさそうに笑った。
「私もだよ」
カノンは、そっと恋の指先に手を重ねる。
「男だった頃は、こうやって誰かと旅行の計画立てたり、“一緒に未来を選ぶ”ってことが、想像できなかった。でも今は――」
恋の頬にカノンの指がそっと触れる。
「今は、あたりまえに君といたいって思う」
「……ん」
ふたりは小さく笑い合った。
パソコンの画面には、旅館『湯ノ嶺』の予約フォームが開いている。
あとは、出発の日を決めるだけ。
「荷物、どうしようか。おしゃれもしたいし、でも動きやすい方がいいし」
「……ちょっとだけオシャレしてほしいかも」
「え、それ私の方? カノンもだよ、ちゃんと着てってね」
「了解です、奥さん」
笑い声がリビングに響いた。
新婚旅行――ふたりで計画する時間そのものが、もうすでに思い出になっていた。
***
「……あっ」
カノンが何かを見つけたように目を見開いた。
「恋、ちょっと見て。さっきの『湯ノ嶺』、今週末の予約……空いてる」
「えっ、ほんとに!?」
恋が身を乗り出す。予約ページにはぽつんと「空室あり」の文字。
「偶然って、あるんだね……これって、行けってことじゃない?」
「……うん。行こう、カノン」
ふたりは顔を見合わせて笑い合った。
未来のことを話して、想いを重ねて、そして――一緒に旅に出る。
ささやかだけれど、確かな新婚旅行の始まりだった。




