ふたりの入籍日
「じゃあ……書くよ?」
日曜の朝、リビングのテーブルに並んだのは、
コンビニで受け取ってきた一枚の婚姻届。
カノンと恋は並んで椅子に座り、少しだけ緊張した空気の中、ボールペンを手に取った。
「こういうのって、もっと式とか挟むもんだと思ってた」
「私たちにとっては、毎日が“式”みたいなもんだったから」
恋の言葉に、カノンはくすっと笑う。
「……じゃあ、まず私から」
ペン先が紙に触れる音がやけに響く。
カノン・星宮。
恋・山岡。
書き込まれていく名前に、ふたりの未来が少しずつ重なっていく感覚。
「──書いた。次、恋ね」
恋も一つひとつ丁寧に書き入れていき、ふたりの名前が正式に並んだ瞬間、少しだけ沈黙が落ちた。
「……これで本当に、“夫婦”になるんだね」
「うん……私、実感してきた。怖くない」
カノンの声は少し震えていたけれど、目は真っすぐ前を見ていた。
***
その午後、ふたりは役所へと向かった。
婚姻届の受付窓口は思っていたより静かで、拍子抜けするほどあっさりと手続きは進んだ。
「これで完了です。おめでとうございます」
担当職員の女性が笑顔で言った瞬間、恋がぽつりと呟いた。
「結婚、しちゃった……ね」
「うん。……しちゃったね」
ふたりは手をぎゅっと握り合った。
誰にも見せる必要はない。これは、ふたりの物語の“はじまり”なのだから。
***
帰り道、商店街の花屋の前を通りがかると、カノンが立ち止まる。
「結婚祝い……お花でも買って帰ろうか」
「いいね。……でも、誰から誰への?」
「私から、恋へ」
カノンはそう言って、真っ白なかすみ草の花束を手に取った。
「これ、花言葉知ってる?」
「え?」
「“永遠の愛”。──私たちに、ぴったりでしょ」
恋はふっと息をのんで、それから笑った。
「じゃあ私からは……この手。ずっと、離さないって意味で」
ふたりは手をつないで、歩き出す。
新しい夫婦として、最初の一歩を。
***
エピローグ
その夜、婚姻届の控えが冷蔵庫にマグネットで留められていた。
ふたりで買った記念マグカップが並び、カレンダーにはハートマークのついた今日の日付。
「……おかしいね。名前、変わっただけなのに、全部が特別に見える」
「ううん、違うよ。名前じゃなくて、“関係”が変わったんだよ」
「そうかもね。じゃあ今夜は、旦那さんと一緒に寝ても?」
「その言い方はちょっと……照れる」
「じゃあ奥さん?」
「……もっと照れる」
ふたりの笑い声が、静かな夜に溶けていく。
こうして、恋とカノンは“家族”になった。
まだまだ未熟で、未完成だけど──
きっと、幸せになれると信じている。
ふたりで選んだ未来なら。
***
『同棲編』完結!




