未来を話す夜
夜の静けさが部屋を包む頃、ふたりはようやく一日の家事を終えて、リビングのソファに並んで座っていた。
照明は落とし気味で、カノンの手元にはホットミルク、恋は缶のミルクティーを握っている。
「……なんだか、一週間があっという間だったね」
恋がつぶやく。
「うん。でも、不思議と疲れてない」
カノンが笑う。
「きっと、恋が一緒だからだと思う」
「ふふ。ずるいな、それ」
そう言いながらも、恋はまんざらでもなさそうに笑った。
小さな静寂のあと、カノンがぽつりと口を開いた。
「ねえ、恋。……将来って、どう考えてる?」
恋は一瞬だけ目を丸くしたが、すぐにまっすぐな目でカノンを見つめ返す。
「将来って……仕事とか? それとも、私たちの?」
「両方……かな。いや、後者のほうが強いかも」
少しだけカノンの指が震えていた。でも、逃げずに言葉を継ぐ。
「私、いつか──恋とちゃんと結婚したいって思ってる。
ただ“一緒に暮らしてる”だけじゃなくて、“家族”になりたいって」
恋の目がわずかに潤む。
「……私も、同じこと考えてた」
「ほんとに?」
「うん。でも、カノンにとってそれって、すごく勇気のいることじゃない?」
カノンは黙った。
“私は女の子の姿で生きてる。でも、生まれたときは違った”──その事実は、未来のすべてに影を落とす。
「私ね、正直まだ悩んでるよ。
大学を出て、就職して、ずっとこのまま“カノン”でいるのかどうかも。
でも……恋と結婚したいって気持ちに嘘はない」
恋はカノンの手を取って、やさしく言った。
「じゃあさ──悩んでるままで、いいよ。
私はどんなカノンでも、ちゃんと好きだってもう分かってるから」
「……恋って、ずるい」
カノンは目を伏せて笑った。涙がにじんでいるのを、恋にだけは見られても平気だった。
「それにね」
恋は続ける。
「“今すぐじゃなくても、いつか結婚する”って思ってるなら、それってもう、気持ちとしては結婚してるようなもんじゃない?」
「……そうかもね」
カノンがくすっと笑う。
「じゃあ……」
「うん?」
「ちゃんとプロポーズ、待ってるから」
「──!」
恋の顔が一気に真っ赤になる。
「そ、それ私のセリフなのに!」
「言うの遅いから、先に言っちゃった」
からかうように笑うカノンを見て、恋は照れながらも返した。
「じゃあ、いつか“本物”の指輪、渡すよ。ちゃんとしたやつ」
「その時は、泣いてもいい?」
「うん。泣いても怒っても、キスしてもいい」
「……じゃあ全部、するかも」
ふたりは顔を見合わせて、また笑った。
それは、ふたりの未来を繋ぐ、静かな約束だった。




