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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第2部 同棲編

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ふたりだけの、秘密の指輪

新居の準備もほぼ終わり、春風がやさしく吹き抜ける昼下がり。


私はダンボールを一つ閉じながら、ふと隣で黙々と棚を組み立てる恋の横顔に目をやる。


──この人と、私は婚約したんだ。


まだ「婚約者」って言葉には、どこかくすぐったい違和感がある。でも、それは嫌な感覚じゃない。ただ、少しだけ──こそばゆいだけ。


「ねえ、カノン。午後は家具屋さん行くんだっけ?」


「うん。カーテンもまだだったしね」


「じゃあ、あと一箱だけ片付けちゃおうか」


そう言って微笑む恋に、私は無意識に手を伸ばして、小さく指先を重ねた。


恋が驚いた顔で私を見る。


「……どうかした?」


「ううん。ただ、さ。婚約したのに、なにも“それっぽいこと”してないなって思って」


「それっぽいこと?」


「たとえば……指輪、渡すとか」


言ってから、自分で照れてしまう。まだ恋人になったばかりなのに、“婚約指輪”なんて口にするの、早すぎるかなって。


けれど恋は、ふわっと笑って言った。


「じゃあ、作ろっか。ふたりだけの指輪」


「えっ?」


「売ってるやつじゃなくて、手作りの。ペアリングじゃなくてもいい。ひとつだけでも、ちゃんと“カノンと私のしるし”ってやつ」


恋はそう言って、小さな紙箱を取り出した。


中に入っていたのは、銀の細いワイヤーと、淡い色のビーズ。


「これ、ハンドメイドアクセサリーのキット? いつの間に……」


「前にカノンが言ってたじゃん。“指輪っていいな”って」


「……覚えてたんだ」


私はそっと、膝の上に手を置く。


手のひらは、今まで何かを守ったことも、誰かに守られたこともないような気がする。でも──恋と出会って、この手に意味ができた気がした。


「じゃあ……一緒に作ろっか」


「うん!」


私たちは並んで床に座り、指輪づくりを始めた。笑いながら、ふざけながら、たまに真剣になって、ビーズを通していく。


完成したのは、不格好だけどどこか愛おしい、細くてやさしいリング。


「どっちの指につける?」


「左手の薬指は……まだ早い、かな」


「でも、いつか本当にそこに“本物”がくる日が来たら、さ……」


「うん。覚えてて。今日のこれが、その最初のしるし」


私は恋の手を取り、ふたりの指にそっとその指輪を通した。


世界にたったひとつだけの、ふたりだけの婚約指輪。


この瞬間、恋人ではなく、確かに「婚約者」になった実感が、胸に静かに広がっていった。

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