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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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カノンという名前の意味

引っ越してきたばかりの新築の家で、私は恋と遊んでいた。


リビングから続く小さな庭に出ると、恋が嬉しそうに私を見て言った。


「ここがカナの新しい家?」


私は歩きながら、その言葉を訂正する。


「"カナ"じゃなくて──"カノン"」


「カノン?」


首を傾げる恋に、私はもう一度はっきりと伝える。


「そう。それが今の私の本当の名前」


「そっか。カノン……いい名前だね」


「今までカナって呼ばれてたから、カノンはまだちょっと慣れてないけど……でも、気に入ってるんだ」


「うん。私も好き、その名前」


「……そう言ってもらえると、嬉しいな」


言葉が嬉しくて、胸の奥がじんわりと温かくなる。


「それで! 今日は何して遊ぶ?」


恋がはしゃいだ声で言う。でも私は、先にどうしても聞いておきたかったことがあった。


「遊ぶ前に……確認させて。ねぇ、恋は私のこと、どう思ってる?」


恋は一瞬、目を丸くしたあとで、ふいと視線を逸らして言った。


「そんなこと、私の口から言わせないでよ……」


その反応を見たとき、私は──確信した。


「ありがとう。──私のことを、好きになってくれて」


恋は恥ずかしそうに俯きながらも、真っ直ぐに私の手を取る。


「……私のことはいいから、カノンの気持ちを聞かせて」


その手は少し震えていて、それでも確かに私の右手を握っていた。


「……そんなの、この家に恋以外誰も呼んでない時点で、察してよ……」


「言葉にしなきゃ、伝わらないよ?」


その言葉に、私は口をつぐんでしまう。


──私はずっと、「好き」がどういう感情なのか分からなかった。


天も好き。美羽のことも大切。だけど、恋に向ける想いは、それとも違う。


LIKEとLOVE。その違いが、ずっと分からなかった。


「カノン?」


黙り込む私を心配そうに覗き込む恋の瞳。


「……私も、恋のこと好きだよ。でも、いいの? 私は女の子なんだよ? きっと親に反対されて……」


「大事なのは、私たちの気持ちだよ」


「……そう、だよね。──私、恋が好き!」


「ありがとう。私もカノンが好き」


お互いの気持ちを確かめて、私はもう一度、きちんと想いを伝えた。


「私は恋のことが好きです」


そう言って深くお辞儀をし、右手を差し出す。


「もし、お付き合いしてもらえるなら──この手を握ってください」


目を閉じたまま待つ私の手に、温かな感触が重なる。


「こちらこそ。お願いします」


恋は、私の右手を両手でそっと包み込んでくれた。


「ありがとう……」


目を開けて、その瞬間を確かめる。胸がじわじわと熱を帯びていくけど、恋人になったという実感は、まだ少し遠い。


「人生で初めての彼女だよ」


「ふふっ。……よかった」


私たちが未来の話をし始めたそのとき、背後から声が響いた。


「ゆっくり考えなさい」


──ママの声だった。


「ママ!? 帰り、早かったね……仕事は?」


「用事があってね。あと、お客さんよ」


扉の向こうから姿を見せたのは──恋の両親だった。


「パパ! ママ!」


驚いたように声を上げる恋。その両親は、にこやかに私たちを見るとこう言った。


「今日から親戚になるわけだし、顔合わせでもしようと思ってね」


「……親戚って?」


「だってあなたたち、結婚するつもりでしょ?」


「……それは、そうだけど……!」


ママはさらりと言って、バッグから数本の小瓶を取り出した。


「それにね、言い忘れてたけど、薬はまだあるのよ。試作品だけど、時間が経てば効果は切れる。でも、また使えば戻れるわ」


「え、てことは──男に戻ることもできるってこと?」


「そゆこと」


「それを先に言ってよ……!」


でも、今は焦って決めなくてよかった。そう思える自分がいた。


そのころ、恋は両親と三人で話をしていた。


「パパ、私この人と結婚したい」


「その人のことを、本当に支えられるのかい?」


「うん!」


父親はしばらく考えて、静かにうなずいた。


「……分かった」


そして私の母に向き直り、こう提案した。


「まだこの子たちは高校を卒業したばかりですから……婚約者にするというのはいかがでしょう?」


「それはいいですね」


「幸いにも、うちの娘とカノンくんは同じ大学に通うようです。まずは同棲をさせて、二人で暮らすとはどういうことかを学ばせましょう」


「賛成です」


こうして──私と恋の、新しい生活が始まった。

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