僕が「私」になった日
僕は、昔から――可愛いものが好きだった。
ピンク色のフリルのついたワンピース。
ふわふわのぬいぐるみ。
大きな瞳をした人形たち。
男の子の遊びといえば、戦隊ヒーローやミニカー、恐竜図鑑。
だけど僕は、そういうものにはほとんど興味がなかった。
「それ、女の子のやつじゃん」
「男のくせに気持ち悪い」
そんな言葉を浴びせられたくなくて。
僕は「普通の男の子」であるふりをして生きてきた。
心のどこかにずっと違和感を抱えながら。
“本当の自分”に蓋をしながら。
けれどある日、すべてが変わった。
***
「おはよう……」
目を覚ました瞬間、自分の体が“いつもの僕”ではないことに気付いた。
細い指先。滑らかな肌。高くなった声。
鏡に映るのは、間違いなく「女の子」だった。
最初は、夢かと思った。
でも、何度目をこすっても、それは現実だった。
「あ……あれ?」
混乱の中で声を漏らした時、背後から姉の声が聞こえた。
「おはよう、カナ。ようやく目が覚めたわね」
「……姉さん?」
「ねぇ、嬉しい?女の子になれて」
「……え?」
「昨日の夕飯に、ちょっとだけ薬を入れたの。人体に影響はないって聞いたし、ちゃんと効いたみたいで安心したわ」
あまりにも唐突で、非現実的な話。
だけど、姉は真剣な顔をしていた。
「なんで、そんなこと……」
「だって、あなた――ずっと苦しそうだったから」
胸の奥が、ぎゅっと締め付けられた。
……バレていたんだ。
本当の自分を押し殺して、無理に「男の子」として生きてきたこと。
姉は、全部、気付いてくれていたんだ。
そして、今――僕は「私」になった。
***
もちろん、喜びだけじゃなかった。
不安も、恐れも、たくさんあった。
友達は出来るだろうか。
うまく話せるだろうか。
この“変化”を受け入れてくれる人なんて、いるのだろうか。
だけど、今の私には――やりたいことがある。
私のように、生まれた性と心が違うことに悩みながら生きる人たちが、堂々と笑って暮らせる世界を作りたい。
私は、男だった頃の自分も、今の「私」も大切にしたい。
その両方を受け入れてくれるような社会を、きっと築けると信じてる。
だから私は、前を向いて生きていく。
傷つくことも、迷うことも、きっとこれからたくさんある。
でも――それでも、私は私として、この世界を少しでも生きやすくするために歩いていきたい。
いつか、私のこの願いを、誰かが理解してくれる日が来ると信じて。
そしてその誰かが、私の意志を受け継いでくれる未来を信じて。




