姉妹ふたり旅 ~京都編・2日目の記憶~
朝7時頃。大阪のホテルの窓から差し込む光で、私はゆっくりと目を覚ました。
「おはよう!」
「おはよう、カナ」
隣のベッドから姉が声をかけてくる。私たちはこれから朝食のビュッフェに向かうところだった。
「今日も美味しいご飯あるかな!」
期待に胸を膨らませながら、姉と一緒にエレベーターで2階のレストランへと向かう。
「そういえば、姉さんに聞きたいことあるんだ」
ふと思い出して口にする。
「なになに? 聞きたいことって」
「人前で話すことでもないし……今夜にでも聞かせてもらうよ」
そう言うと、姉は「分かったわ」とだけ言って、静かに前を向いた。
私が聞きたかったのは、自分の身体のこと。女の子になる薬を飲んでから、もう何ヶ月も経っている。――でも、それがどれだけ続くのか分からない。元に戻ってしまうのか、永遠にこのままなのか。その答えを、姉はきっと知っている。
けれど、今は旅行中。こんなときに暗い話を持ち出すのは、空気を壊してしまうかもしれない。だから、今は聞かない。それが、私の出した結論だった。
「もう、カナったら! ボーッとしてないの!」
思考の渦から抜け出せないでいると、姉に呼ばれる。
「ごめんごめん! 今行くよ!」
笑って朝食会場へ向かう。そこには、色とりどりの料理が並び、あたたかい香りが漂っていた。
「ハンバーグ美味しかったな!」
「スイーツも絶品だったわ!」
「また晩ご飯のとき食べよ!」
「今日はこのホテルに泊まらないわよ?」
「あっ、そっか。京都に行くんだもんね」
ビュッフェの余韻に浸る間もなく、次の目的地――京都へ向かう予定だった。
「京都といえば、お寺や文化財よね」
「清水寺、行きたいな」
「カナは清水寺って言ってたわよね。私は本能寺がいいな」
ホテルの部屋へ戻る途中、廊下でふいに声をかけられた。
「君たち、可愛いね? よかったら、ご飯でも行かない?」
見知らぬ男たち。これは、テレビでよく見る“ナンパ”というやつだった。
「ごめんなさい、私たちもう出るので」
姉が即座に断るも、相手は食い下がる。
「チッ、せっかく気使ってやってるのによ。俺らと楽しいことしようぜ?」
その言葉に、私は無言で一歩前へ出て、思いっきり弁慶を蹴りあげた。
「ッッ!!?」
男たちはうめき声を上げ、足を押さえながら逃げ去っていった。
「助かったよ、カナ」
「気にしないで。それより、早く京都に行こうよ!」
荷物をまとめてチェックアウトし、予約していたタクシーに乗って京都へ向かう。
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京都のホテルに到着したのは、それから約1時間後だった。
「京都のホテルもいいところだね!」
「でも、荷物を置くだけ。早く本能寺に行くわよ!」
必要最低限の荷物だけ持ち、タクシーに乗ってまず向かったのは姉の希望の本能寺。
案の定、姉は本能寺に着くとテンションが上がりっぱなしだった。
「次は清水寺ですね」
タクシーの運転手にそう告げると、「かしこまりました」と快く応じてくれた。
「楽しみだな、清水寺!」
「そうね……」
私は浮かれていたが、顔には出さなかった。それでも心の中は高鳴っていた。
清水寺に着いたのは約30分後。
「お客さん、着きましたよ!」
「ありがとうございます」
清水寺では、思わず時間を忘れてしまうほど観光を楽しんでしまった。
「お待たせしました」
駐車場に戻ると、運転手さんが笑顔で迎えてくれた。
「次はどこへ行きますか?」
「そうですね……そろそろお昼ですし、オススメのお店ってありますか?」
「それなら、いい寿司屋さんがありますよ」
連れて行かれた先は、落ち着いた雰囲気の寿司屋だった。
「ここの寿司は上手いんですよ!」
出された寿司を口にした瞬間、それが本当だと分かった。
「美味しい……!」
「気に入ってもらえてよかったです、お嬢ちゃんたち」
店主の言葉に、少しだけ照れながらも頷く。
「次はスイーツの食べ歩きでもどうですか?」
「いいですね!」
京都に来たらやってみたかったことの一つ。それが叶った。
気づけば、時計の針は午後4時を指していた。
「いくら清水寺から移動したとはいえ、4時間も食べ歩きしてたのか……」
「もう、いいでしょ! 美味しかったんだから!」
姉の笑顔が見られたなら、それで充分だ。
「ホテルまでお願いします」
車内では、私も姉も眠ってしまった。
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「お客さん、着きましたよ!」
「今日一日、ありがとうございました!」
「いえいえ、私も楽しかったです」
「金額は……4万円ですね」
姉がためらいもなく万札を差し出す。さすが、姉さん。
「また機会があれば、京都で!」
そう言って運転手さんと別れ、ホテルの中へ入る。
「そうね、食堂でまだ夕食が食べられるはずよ!」
夕食には、大阪のホテルにはなかったサザエやホタテが並んでいた。どれもこれも美味しくて、私はついおかわりしてしまった。
「美味しかったなぁ!」
「明日はもっと楽しめるわよ!」
部屋へ戻る途中、姉が言った。
「そういえば、聞きたいことあったんじゃないの?」
「あったけど、帰ってからでいいよ。今日は食べすぎて眠い……」
「そうね、温泉に入ってゆっくり休みましょ」
「えっ!? 温泉あるの?」
「あるわよ」
まさかの温泉付きホテル。思わず声が上ずる。
姉妹ふたり、同じ湯船に浸かりながら、旅の思い出を少しだけ語った。
「また明日の朝も温泉入ろうね!」
「姉さんったら……」
ふたりだけの関西旅行、2日目はこうして静かに幕を閉じた。




