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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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37/70

大晦日、最後のごちそう

 冬の陽がゆっくりと傾きかけている。テレビの音をBGMに、私はソファでゲームに夢中になっていた。


「さて! 昼食の準備するよ」


 不意に姉の声がして、現実に引き戻された。振り向くと、エプロン姿の姉が立っていた。


「え、まだ十一時になってないけど?」


「手料理は時間と手間がかかるんだよ。カナも台所来て、手を洗っておいで」


「そっか~。なら仕方ないね」


 ゲームを中断して、私は洗面所へ向かう。冷たい水に手をさらしながら、心のどこかでほんのりと期待していた。姉と過ごす大晦日も、もう最後かもしれないのだから。


「昼はカナの好きなハンバーグだよ!」


「やった〜!」


 キッチンに戻ると、姉はすでに玉ねぎを炒めながら、ミンチに下味をつけていた。その手つきは慣れたもので、包丁の音が心地よく響いていた。


「姉ちゃんって、なんでも作れるよな」


「当たり前でしょ。小さい頃はお母さんの手伝いとかもしてたんだから」


「そうなの? 全然知らなかった」


「知らないのは、カナが見てなかっただけよ」


「……そっかぁ」


 その横顔は、いつもよりちょっと大人びて見えた。


「よし、あとはフライパンで仕上げるだけね」


「できた?」


「もう少しよ」


 じゅう、と肉が焼ける音。香ばしい匂いが部屋中に広がる。お腹が鳴るのを我慢して待っていると、やがて姉の声が響いた。


「できたわよ!」


「美味しそう〜!」


 我慢できずに手でつまもうとすると、


「箸使いなさい!」


 と、即座に注意された。


「いただきます!」


 一口頬張れば、肉汁がじゅわっと広がる。ああ、やっぱり姉のハンバーグは最高だ。来年から、これが食べられなくなるのかと思うと、胸が少しだけ締めつけられた。


「ご馳走様でした」


「お粗末さまでした。じゃあ、皿片付けといてくれる?」


「うん! あ、ねえ姉ちゃん、久しぶりにゲームでもしない?」


「ゲーム?」


「スマブラX!」


「いいね。少しは強くなった?」


「当たり前でしょ! 対戦したの、もうずいぶん昔じゃん」


「あれ? 対戦したことあったっけ?」


「なに訳わかんないこと言ってるの!?」


「ちょっと思い出せなかっただけよ」


「ならいいんだけど!」


 そんなやり取りを交わしながら、私たちはコントローラーを握り、画面の中でキャラクターを操作した。笑ったり、叫んだり、あっという間に時間は過ぎていく。


「強くなったわね」


「そうでしょ!」


「……そろそろやめるよ」


「えぇ!」


「夕飯の準備しないとだし」


「てか、大晦日なのにオードブルじゃないんだね?」


「オードブルなんて頼んでも、そんなに食べられないでしょ? それに高いのよ」


「いくらするの?」


「四人前で五千円くらいかな」


「意外と高いんだね」


「代わりってわけじゃないけど、この前材料買っておいたから、今日は握り寿司でも作ろうか」


「握り寿司? 食べたことないな」


「きっと美味しいよ」


「……だといいんだけど!」


 そして迎えた夕飯。姉と一緒に手を動かして、シャリを握り、ネタを乗せる。自分で作った寿司を一つ口に運んだ。


「いただきます!」


 思っていた以上に、ちゃんと寿司だった。


「やっぱり、自分で作ると美味しいね」


「そうでしょ? 料理って、手作りだと美味しいのよね」


「また食べたいな」


「気に入ってもらえて嬉しいな」


 大晦日は、あと六時間。年越しそばを食べて、歳が明ければ、私はこの家を離れる。もう、こうして毎日一緒にご飯を食べたり、ゲームしたり、そんな時間は減ってしまうのだろう。


 でも、今日という一日は、私の記憶の中でずっと温かく輝いている気がした。

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