最後の大晦日、姉と私
冬の朝。まだ陽も昇りきらない静かな時間。布団のぬくもりに包まれてうとうとしていると、珍しく姉の声が響いた。
「カナ! 幾ら大晦日っていっても、そろそろ起きな!」
いつもは私の生活に口出ししない姉が、わざわざ起こしてくるなんて、珍しいこともあるものだ。眠気まなこをこすりながら私はベッドから起き上がり、リビングに向かった。
コップに水を注ぎながら、私は姉に問いかける。
「どうしたの? 姉さん。普段は起こさないのに」
姉は少し視線をそらしながら、けれどもどこか照れくさそうに笑った。
「カナは、もう少ししたら引っ越すでしょ? だから……なるべく一緒に居たくて」
「姉さん、もしかして寂しい?」
「バカね! そんなわけないでしょ!」
そう言い返す声は威勢が良いけれど、表情はどこか寂しげだった。私は思わず、やさしく笑って言った。
「寂しかったらいつでも連絡してきていいからね!」
「ありがとう。寂しくなくても連絡するからね」
「分かったよ!」
その一言で、姉の顔がぱっと明るくなる。私はその笑顔が好きだった。いつだって、強がりで、不器用で――でも優しい姉の笑顔。
「今日の朝食は?」
「私の手作りよ!」
「久しぶりだね、手作りなんて」
「そうね。お昼は一緒に作りましょうね」
「分かった! 料理したことないから分からないけど」
「私もそうよ。でもね、誰だって最初から完璧な人なんていないわ。むしろ、完璧な人がいたらつまらないと思うの」
「どうして? 完璧のほうがいいじゃん?」
「完璧ってことは、それ以上、上達しないってことよ。不完全なら、いくらでも成長できる見込みがあるからね」
「そういう考え方する人もいるんだね」
「世の中にはいろんな人がいるからね」
そう言いながら、姉はテーブルに味噌汁とご飯を並べた。わかめの香りがふわりと鼻をくすぐる。湯気が立ちのぼるお椀の前で、私たちは自然と手を合わせた。
「いただきます」
「いただきます」
一口すすった味噌汁は、ほんのり塩気がきいていて、懐かしい味がした。
「美味しいね」
「美味しいわよね」
わかめの味噌汁と、ふりかけご飯だけの質素な朝食。でも、それが妙に心地よくて、温かくて。大晦日の寒さなんて、どこかへ消えていった。
「お昼は何にするか決めてるの?」
「さすがにまだ決めてないかな」
「そっか。ご馳走様」
「お粗末さま」
「作ってもらったし、私が洗うよ」
「ありがとう! 私は昼の献立考えてるよ」
「早いね」
「早めに決めてた方が、準備もスムーズにできるからね!」
「なるほど……」
先のことを考えて行動する姉。私はその背中が、いつだって大きく見えていた。引っ越しが近づくにつれ、姉と過ごす日々が少しずつ終わりに近づいていることを実感する。
けれど、私は思う。離れても、姉との絆は変わらない。
今日という日が、何気ない一日だったとしても、私の心にはきっと一生残り続けるだろう。




