名前で呼ぶ距離
楽しかったパーティーが終わった翌朝、私はベッドの中で伸びをしながら、ふと現実に戻ってきた感覚を覚えた。
もう、特別な時間は終わってしまった――そんな少しの寂しさと、でもまた日常が始まる安堵と。
そんな中、登校して教室に入った途端、声をかけてきたのは、昨日も一緒にいた四宮天だった。
「昨日のパーティー、楽しかった?」
天の問いかけに、私はすぐ笑顔になる。
「楽しかったよ!」
素直にそう答えると、天はほっとしたような、それでいてどこか誇らしげな表情を浮かべた。
「そっか。よかった」
会話はそれだけだったけど、それだけで充分だった。天との距離は少しずつ、でも確実に近づいている気がする。
***
季節は12月中旬。もうすぐ冬休みで、街中にはイルミネーションが灯り始めている。
教室でもクリスマスの話題が飛び交い始めた。そんな中、私に声をかけてきたのは、クラスの人気者、山岡恋だった。
「かなはさ、クリスマス誰と過ごすの?」
「え? クリスマス……?」私は少し考えてから答える。
「うーん、これといって、誰と過ごすかは決めてないかな?」
それは嘘でも照れ隠しでもなく、本当のこと。
「そうなんだ〜」
なぜか、山岡は嬉しそうに私の顔を見てきた。なんとなく視線をそらしたくなったけど、私はじっとその目を見返す。
「じゃあさ、家に来ない?」
「はい?」
「かなが、私の家に来るのよ?」
頭が一瞬真っ白になった。彼女の言葉の意味をすぐには理解できなかった。
「……それで、来るの? 来ないの?」
「わ、分かった! 行くよ!」
思わず答えてしまった。恋の顔がぱっと華やぐ。
「ありがとうございます!」
そう言って、恋は嬉しそうに笑うと、そのまま教室の外へと去っていった。
***
クリスマス当日。
待ち合わせは学校の正門前だった。約束の時間より少し早めに着いていたけれど、それでも、私はかなり前からそこにいた。
15分……いや、たぶん20分近く。
寒さで手がかじかんでいたとき、ようやく制服の上にコートを羽織った恋が、スキップでもするように軽やかにやってきた。
「お待たせしました!」
「私も今来たばかりだよ」
それは、嘘だった。
でも、正直に言って恋を気にさせたくはなかった。
「ほんとですか?」
「うん。嘘なんてつかないよ」
「……なら、手を触らせてください」
「え?」
「ほら、早く」
そう言うと、恋が私の手をそっと握った。
「……冷たい。……本当は、どのくらい待ってたのですか?」
逃げられなかった。
「……15分くらい、かな」
「……待たせてしまったのですね。ごめんなさい」
恋が小さく眉を下げる。私はふと思いついて、いたずらっぽく笑った。
「なら、恋のこと名前で呼んでもいい?」
「名前……ですか?」
「うん。私、恋のこと名前で呼びたいの」
照れくさそうに顔をそらした彼女の頬が、ほんのり赤く染まっているのがわかった。
「……もちろん、良いですわよ」
「ありがとう。ちなみに私のことは、かなって呼んでね」
「……分かりました、かな」
「よろしくね、れん」
名前を呼び合う――それだけで、なんだか心の距離が近づいた気がした。
二人で歩く街路には、クリスマスソングとイルミネーションが灯り始めている。
繋いだ手の温度が、少しずつ上がっていくのを感じながら、私たちはゆっくりと、恋の家へ向かっていった。




