友達と遊び
「ここがドンクですか」
夏の風が吹き抜ける週末の午後。私はクラスの友達と一緒に、街で話題の大型デパート《ドンク》にやって来ていた。
「そうよ!……たぶんね」
先頭に立っていた子がちょっと得意げに、でも少し曖昧に答えた。
「いつの間にか名前呼びになってたんですね」
「同級生なのに苗字で呼ぶのは堅苦しいじゃないの」
彼女はそう言って、ふっと笑った。
「まぁ、それも一理ありますが……」
「私のことは“みほ”でいいから」
「みほ……ね。分かりました、みほ」
「なんだよ、名前で呼び合ってんのー!」
その様子を見ていた他のクラスメイトたちが、わっと騒ぎ始めた。
「じゃあ俺も、名前で呼んでくれよ!」
「分かったわ!じゃあ、名前教えて!」
私がそう返すと、彼らは次々に名乗ってくれた。
「あれ?まだ名前、教えてなかったっけ?」
「えぇ、あいにくまだ教えてもらってないわね」
「俺はたくま」
「僕はたかし!」
「私はみうよ」
「よろしく、私はかな」
そう言うと、皆が声を揃えて「知ってる!」と笑った。
「こんなところで話してないで、早く中に入りましょ!」
「そうだな!」
私たちは、わいわいと話しながらデパート《ドンク》の自動ドアをくぐった。
* * *
「どこから行く?」
「そうね……まず、何があるの?」
「色々あるよ?服とか、雑貨とか――」
「今は……なんだか、何か食べたい気分なのよね」
「じゃあ、フォーティーワンに行こうぜ!」
「なんですって?」
「フォーティーワン。アイス屋だよ。美味いんだ」
「……美味しそうね」
私は頷いた。暑い今日には、ぴったりだ。
* * *
「やっぱり、アイスは美味しいわね!」
「そうね、これは美味だわ」
思わず笑みがこぼれる。
「だろっ!」
男子たちが胸を張る。
フォーティーワンのアイスは、噂通りの味だった。
* * *
「さて、アイスも食べたことだし、次はどこ行く?」
「映画館、あるんでしょ?」
「もちろんあるぜ!確か、3階だったな」
「行ってみよう!」
私たちは、次なる目的地――映画館へと足を運んだ。
* * *
「オススメある?」
「うーん……私は『最後に笑うのは誰か』が気になってる」
「へぇ、聞いたことない!面白いの?」
「面白いわよ。感動系かな?」
「じゃあ、それにしましょ!」
「……俺的には『迎撃の挙人』の方が好きだけど、まぁいいか」
不満そうだった男子たちも、映画が進むうちに真剣な表情になっていき、終わる頃には目を赤くしていた。
* * *
「さて、そろそろ帰りましょうか」
「そうね。私は迎えが来てもらってるから」
「そっか。じゃあ、また月曜日、学校でね!」
「えぇ、今日はありがとう」
皆と別れたあと、私は姉・佳奈子の待つ車へ向かった。
* * *
「おつかれ!楽しめたかい?」
「とても楽しかったわ」
私は素直に答えた。
「それなら良かった。……でも驚いたよ、いきなり“友達と遊びに行く”なんて言うからさ」
姉は数時間前の電話を思い出していた。
* * *
「ん?かなちゃんから電話?」
スマホに表示された名前を見て、佳奈子は少し驚いた。
「どうしたの、かな?」
『姉さん、クラスメイトと明日遊びに行くことになったわ』
「もう友達ができたのね」
『えぇ、それより……どんな服を着ていけばいいのかな』
「友達と遊ぶんでしょ?服なんて、なんでもいいのよ」
『そういうわけにはいかないのよ』
「なら、明日、姉さんが選んであげるわ!」
『ほんと?ありがとう!』
「ふふふ……」
『どうしたの、姉さん?』
「嬉しいのよ。かなが、友達とちゃんと遊べるようになって」
『……どうしたの、急に』
「なんでもないわ!今日の晩ご飯、ハンバーグにしようか。かなの好きなやつ」
『やった!ありがとう!』
「明日からも、勉強頑張ってね」
『もちろん!』
* * *
そんな会話があった週末の夜――
そして翌日。
私はふと、宿題がまったく終わっていないことに気づき、日曜日はそのまま机に向かうことになった。
私の楽しかった休日は、あっという間に終わりを迎えた。
それでも、心はほんのりと甘く温かい。
あの日食べたアイスの味と、友達と呼べる誰かと笑い合った記憶を胸に――。