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朝起きたら女の子になっていた件〜性別を超えた絆の物語〜  作者: 柴咲心桜
第1部 変化の兆し編

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26/70

手紙の宛名は「詩七乃」

「おはようございます」


目覚ましが鳴るより早く目を覚ました私は、軽く身支度を整え、リビングへと足を運んだ。四宮家の朝は、静かで落ち着いている。


「おはよう、叶ちゃん!」


朝の日差しが差し込むダイニングで、天のママが笑顔で出迎えてくれた。白いエプロン姿がとても似合っていて、まるでドラマの中の理想的な母親のようだ。


「おはようございます」


軽く会釈をすると、ママはふふっと笑った。


「天も叶ちゃんを見習って、早起きしてくれるといいんだけどねぇ」


「天さんは、起きるのが遅い方なんですか?」


天とは小学校も中学校も別だった私は、そのあたりの事情をよく知らない。


「そうねぇ。中学まではそれなりにちゃんとしてたのに、高校に入ってからはもう――油断したのかしらね」


「そうなんですね……」


なんだか天らしいというか、少しだけ安心した。

同級生とはいえ、やっぱり私はこの家では“お客様”で――どこか遠慮していたから。


「そうそう、叶ちゃん宛にお手紙が届いてたわよ」


「……え? 私にですか?」


思わず聞き返してしまった。

だって、今の私に手紙をくれるような人なんて、誰もいないはずだから。


「えっと……名前は……『詩七乃』さん? って読むのかしら」


「詩七乃……?」


聞き覚えのない名前だった。差出人欄を見ても、全く見当がつかない。


「知り合い?」


「いえ、まったく……こんな人、知りません」


ママと顔を見合わせる。


「でも変ね。どうして叶ちゃんがここに住んでること、知ってるのかしら?」


「……確かに、それはおかしいですね」


私がこの家に住み始めたのは、ほんの昨日のこと。知っているのは、四条家と四宮家の家族だけ。

外部に漏れるはずがない。


「詩七乃って、何者だ……?」


胸の奥に、不安がひやりと広がった。

姉が行方不明になってから、もうすぐ一ヶ月が経つ。もし――この手紙が姉からだとしたら、なぜ名前を変える必要がある?


それとも誰かに頼まれて……?

考えても仕方ない。私は意を決して、手紙の封を開いた。



***


『叶太へ


元気にしていますか?

私は元気です!

しばらく帰れずにごめんなさい。今度時間が出来たら会いに行こうと思っています。

いずれ会いましょう。世間話はその時に。』



***


「……姉さん?」


言葉の調子が、どこか加奈子姉さんに似ていた。

けれど、差出人の名前はやはり「詩七乃しなの」。


まるで何かを隠しているかのように、肝心なことが書かれていない。けれど、私に宛てた手紙であることは間違いない。

胸の奥がざわめく。


「おはよう! ママ! かなも!」


突然、元気な声がリビングに響いた。天がパジャマ姿のまま顔を出した。


「おはよう」


私は慌てて手紙をテーブルの隅に置いた。


「おはよう、天」


「叶、それ誰からの手紙? ……もしかして、ラブレター?」


ニヤリと笑う天。まるで小悪魔みたいな顔をしている。


「ラブレターなんかじゃないよ!」


キッパリ否定する私に、天が残念そうに肩を落とした。


「なんだぁ、叶の彼氏が拝めるかもって期待しちゃったのに」


「私は彼氏なんて探してないの。それより天は? いい人、いないの?」


「えっ、ちょ、ちょっと何よいきなり!」


天が狼狽えると、ママが面白そうに口を挟んできた。


「あら、それは私も気になるわね。いないの? 本当に?」


「も、もう! ママまで! そんな相手いないってば!」


「それは残念ね~」


「うぅ……それよりお腹空いた~!」


話を強引に変えて、天はキッチンの方へ顔を向けた。


「今、用意するから顔洗ってきなさい!」


「はーい!」


パタパタと走って洗面所へ消えていく天。


「叶ちゃん、ごはん出来たわよ」


「はい、いただきます!」


席につき、温かいご飯とお味噌汁を前にして手を合わせる。


「いつもありがとうございます。本当に、美味しいです」


「喜んでもらえて嬉しいわ。たくさん食べてね」


「いただきます!」


「……あれ? 今日、日直じゃなかった?」


唐突にママが聞いてくる。


「え? なんで知ってるんですか?」


「叶ちゃんに聞いたの」


「叶ったら~! 今日は遅めに行こうと思ってたのに!」


「用事がある時は早めに行ったほうがいいわよ」


「それも……そうですね」


ご飯をかきこみ、私たちは準備を整える。


「行ってきます!」


天と私は、並んで四宮家を出発した。

けれど私の手の中には、まだ重みの残る一通の手紙があった。


“詩七乃”――あなたは、いったい誰なの?

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